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第一幕 板東編
信じられない真実
しおりを挟む「っ?!何がおかしい!」
「小次郎に何を吹き込まれたか知りませんが、そんな言葉を真に受けない方が良い。では何故貴方はこんな旅をしているのです? 坂東の地で起こっている戦を止める為でしょう。そんな夢のような都ならば、戦など起きようはずもない」
「それは…………」
「結局は坂東も京も、やっている事は何も変わらないのですよ。出世争いか、領地争いか、ただそれだけの違い。いや、実際に戦が起こり、人がたくさん死んでいると言う点では、板東人が繰り広げる領地争いの方がたちが悪いか」
「……………」
「そうだ。もう一つ良い事を教えて差し上げましょう」
「……………?」
貞盛は再び千紗の元を振り返る。
と、狐の如く細めた目を吊り上げて、ニタリと不気味に微笑み言った。
「貴方に綺麗事を吹き込んだ張本人である平小次郎将門。奴は、私の従兄弟であると同時に……私の父の仇なのですよ」
「なっ……」
「奴は、この戦で私の父を殺した。奴にとっては血の繋がった伯父である平国香を」
貞盛の口から告げられた話に、千紗はまるで何か硬いもので頭を殴られたような激しい衝撃を受けた。
「……嘘……じゃ。小次郎が……伯父を殺めたなどと……嘘を申すな……」
「嘘ではありません。紛れもない事実です。私の父は、甥である小次郎将門の手によって殺された。先程、貴方は身内で争うなど愚かだと言った。だが、貴方にそう吹き込んだ張本人が、その愚かな行いに手を染めるとは、これはこれは、笑いが止まらぬ。滑稽だ」
「嘘じゃ……嘘じゃ…………嘘じゃ………………小次郎が……?……嘘じゃ……」
「おっと、そのような怖い顔で睨まないで下さい。私はただ、事実を口にしているだけなのですから。そう、事実をね」
「…………」
「残念だが既に我が一族、平家の身内通しの争いは後戻りの出来ない所まで来てしまっていら。父を殺され、私にその知らせを寄越して来た弟の繁盛の、小次郎に対する怨みは大層なものだった。京で甘やかされて育てられた貴族の姫君が、首を突っ込んだ所で今更どうにか出来るような、そんな簡単なものではないのですよ。戦とはそう言うものなのですよ」
貞盛の話に衝撃を受けた過ぎた千紗には、もう彼の話は耳に入ってこない。
魂が抜けたような虚ろな瞳で「嘘だ、嘘だ」と、何度となく同じ言葉を繰り返すだけ。
京で過ごした小次郎との懐かしい思い出ばかりが千紗の頭を駆け巡る。
あの小次郎が、人を殺めるなんて。
しかも血の繋がりがある、自身の伯父を――?
千紗には到底、信じられなかった。
信じたくない、話だった。
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