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第一幕 板東編
対立の図式
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その後、泣き疲れて眠ってしまった朱雀帝。
半刻程後にやっと目を覚ます。
「………ん」
「お、やっと起きたか」
「ん……千紗……姫……」
すぐ側から聞こえてきた千紗の声に、ぼんやりとした視界で千紗の姿を探す。
ぽかぽかと心地よく自身を包んでいた温もりが、千紗のものであったと察した朱雀帝は、甘えるように再度千紗へ寄り掛かる。
「温かい」
「こっちは暑苦しくて敵わん。おいチビ助、目が覚めたのなら……」
「柔らかい」
「……………」
千紗の胸に顔を埋め、呟いた朱雀帝の言葉に、一瞬にして空気が凍りついた。
――瞬間、朱雀帝の体が馬から落ちて、激しく地面へとたたき付けられる。
ドサッと物凄い音が辺りに響いた。
「秋成殿、帝に何と言う事を?!」
何故突然に落馬したのか。それは秋成が朱雀帝の腕を引っ張って馬から引きずり落としたから。
その一部始終を後ろから見ていた貞盛が、驚いた様子で馬を下り、朱雀帝の元へと駆け寄って行く。
だが、貞盛が手を貸し起き上がらせるより早く、地面に突っ伏していた朱雀帝は物凄い勢いで自ら起き上がり、秋成に向かって乱暴につかみ掛かった。
「何をする、この無礼ものが!」
「失礼。そちらが先に、我が主に無礼を働いた様子だったので」
「だからとて秋成殿、帝に対して……」
秋成のあまりの行為と態度に、思わず口を挟む貞盛。
「それが何か? 我が主に無礼を働くとあらば、誰であろうと容赦はしない。たとえそれが皇族であったとしてもだ」
「これは……とんだ怖い者知らずがいたものだな」
貞盛が苦笑いを浮かべながら小さく呟いた。
「それに忠平様の言い付けを忘れたか貞盛殿。京を離れる間、この方が帝だと言う事実は忘れ、普通の子供のように接しろと。それがこの方の御身を守る為でもあると忠平はおっしゃった」
「確かに忠平様からはそのように言い付けられてはいる。が……やはり帝に今のような無礼は……」
「その考え方こそ命取り。悪いが俺は、忠平様と姫様の命令を優先させてもらう。旅の道中、こいつに媚びへつらうつもりなど俺は一切ない」
この旅において自分は朱雀帝を特別扱いしない事を、きっぱりと言い切った秋成。
そんな秋成に対して、今まで傍観者でいた春太郎と清太が、堪えきれなかった様子で大きな笑い声を上げる。
「あははは、秋成の兄貴は相変わらずだね」
「ホント、千紗姫様以外には情け容赦ないもんな。俺達も昔、姫さんに危害を加えようとして秋成の兄貴に殺されかけた事があったっけ」
二人は懐かしそうに、過去に自身らが起こした千紗の誘拐事件を振り返りながらケラケラと笑っていた。
彼等の様子から察するに、この二人もまた、秋成同様の考えの持ち主なのであろう。そう貞盛は理解した。
つまりこの旅の同行者に、朱雀帝を擁護する者は貞盛一人しかいないと言う事。
「ぐぬぬぬぬ……お主ら、天皇である私を怒らせたらどんな酷い目にあうか……後で覚えておけ!」
分が悪いと判断した朱雀帝は、立ち上がって唯一の擁護者、貞盛の背後へと隠れると、秋成に向かってあっかんべーと舌を見せながら悔しそうにそう叫んだ。
「ふん、怒鳴ることしか出来ない糞餓鬼が」
「お……お前、今鼻で笑ったな?!」
「姫様、こんな所で油をうっている時間はありません。日が暮れる前に山を越え、今夜の宿を探さなければ」
朱雀帝の怒りを無視して秋成は、屋敷を出発した時同様、千紗の後ろへと乗り込む。
「あっコラ、無視をするな! と言うか私の場所を取るな!
千紗姫の後ろにはこの私がっ」
「そうだな。ぐずぐずしている暇はない。よし、少し先を急ごうか。清太、春太郎もお主達置いて行かれぬようについて来いよ」
「「はい、姫様」」
「あ~……千紗姫まで……私を置いて行かないで下さいっ!」
朱雀帝と貞盛を残して、再び馬を走らせ始める秋成達。
「貞盛っ!我らも、我らも早う追いかけるぞ! 早う我をお主の馬に乗せろ」
「お、仰せのままに」
千紗に置いていかれたと、今にも泣き出しそうな朱雀帝を自分の馬に抱え上げた貞盛は、自らも馬に跨がり、先を行く秋成達の背中を追いかけた。
半刻程後にやっと目を覚ます。
「………ん」
「お、やっと起きたか」
「ん……千紗……姫……」
すぐ側から聞こえてきた千紗の声に、ぼんやりとした視界で千紗の姿を探す。
ぽかぽかと心地よく自身を包んでいた温もりが、千紗のものであったと察した朱雀帝は、甘えるように再度千紗へ寄り掛かる。
「温かい」
「こっちは暑苦しくて敵わん。おいチビ助、目が覚めたのなら……」
「柔らかい」
「……………」
千紗の胸に顔を埋め、呟いた朱雀帝の言葉に、一瞬にして空気が凍りついた。
――瞬間、朱雀帝の体が馬から落ちて、激しく地面へとたたき付けられる。
ドサッと物凄い音が辺りに響いた。
「秋成殿、帝に何と言う事を?!」
何故突然に落馬したのか。それは秋成が朱雀帝の腕を引っ張って馬から引きずり落としたから。
その一部始終を後ろから見ていた貞盛が、驚いた様子で馬を下り、朱雀帝の元へと駆け寄って行く。
だが、貞盛が手を貸し起き上がらせるより早く、地面に突っ伏していた朱雀帝は物凄い勢いで自ら起き上がり、秋成に向かって乱暴につかみ掛かった。
「何をする、この無礼ものが!」
「失礼。そちらが先に、我が主に無礼を働いた様子だったので」
「だからとて秋成殿、帝に対して……」
秋成のあまりの行為と態度に、思わず口を挟む貞盛。
「それが何か? 我が主に無礼を働くとあらば、誰であろうと容赦はしない。たとえそれが皇族であったとしてもだ」
「これは……とんだ怖い者知らずがいたものだな」
貞盛が苦笑いを浮かべながら小さく呟いた。
「それに忠平様の言い付けを忘れたか貞盛殿。京を離れる間、この方が帝だと言う事実は忘れ、普通の子供のように接しろと。それがこの方の御身を守る為でもあると忠平はおっしゃった」
「確かに忠平様からはそのように言い付けられてはいる。が……やはり帝に今のような無礼は……」
「その考え方こそ命取り。悪いが俺は、忠平様と姫様の命令を優先させてもらう。旅の道中、こいつに媚びへつらうつもりなど俺は一切ない」
この旅において自分は朱雀帝を特別扱いしない事を、きっぱりと言い切った秋成。
そんな秋成に対して、今まで傍観者でいた春太郎と清太が、堪えきれなかった様子で大きな笑い声を上げる。
「あははは、秋成の兄貴は相変わらずだね」
「ホント、千紗姫様以外には情け容赦ないもんな。俺達も昔、姫さんに危害を加えようとして秋成の兄貴に殺されかけた事があったっけ」
二人は懐かしそうに、過去に自身らが起こした千紗の誘拐事件を振り返りながらケラケラと笑っていた。
彼等の様子から察するに、この二人もまた、秋成同様の考えの持ち主なのであろう。そう貞盛は理解した。
つまりこの旅の同行者に、朱雀帝を擁護する者は貞盛一人しかいないと言う事。
「ぐぬぬぬぬ……お主ら、天皇である私を怒らせたらどんな酷い目にあうか……後で覚えておけ!」
分が悪いと判断した朱雀帝は、立ち上がって唯一の擁護者、貞盛の背後へと隠れると、秋成に向かってあっかんべーと舌を見せながら悔しそうにそう叫んだ。
「ふん、怒鳴ることしか出来ない糞餓鬼が」
「お……お前、今鼻で笑ったな?!」
「姫様、こんな所で油をうっている時間はありません。日が暮れる前に山を越え、今夜の宿を探さなければ」
朱雀帝の怒りを無視して秋成は、屋敷を出発した時同様、千紗の後ろへと乗り込む。
「あっコラ、無視をするな! と言うか私の場所を取るな!
千紗姫の後ろにはこの私がっ」
「そうだな。ぐずぐずしている暇はない。よし、少し先を急ごうか。清太、春太郎もお主達置いて行かれぬようについて来いよ」
「「はい、姫様」」
「あ~……千紗姫まで……私を置いて行かないで下さいっ!」
朱雀帝と貞盛を残して、再び馬を走らせ始める秋成達。
「貞盛っ!我らも、我らも早う追いかけるぞ! 早う我をお主の馬に乗せろ」
「お、仰せのままに」
千紗に置いていかれたと、今にも泣き出しそうな朱雀帝を自分の馬に抱え上げた貞盛は、自らも馬に跨がり、先を行く秋成達の背中を追いかけた。
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