51 / 285
第一幕 板東編
いざ、板東へ!
しおりを挟む
「そんな事より、どうだ秋成?」
「? どうだとは、何がでございましょう?」
「この髪型じゃ!」
「はぁ。まぁ……似合っているんじゃなでいすか?」
「何じゃその適当な答えは!」
「……と言われましても……」
「他には何かないのか?」
「…………何か……とは?」
「だから何か感想はないのか?」
「………はぁ。まぁ……姫様らし――」
「あ~~~~~!千紗姫様、何故そんな奴が乗る馬に? 千紗姫様がその馬に乗ると言うのならば私も乗せて下さい。おい、秋成! 私もその馬に乗せろ!!」
秋成が何やら言いかけた言葉を遮って、突然に朱雀帝が二人の元に駆け寄って来て騒ぎ出す。
またうるさいのが来たと、秋成は小さくため息をついた。
「………はぁ」
「その溜息は何だ?! 私を馬鹿にしているのか? いいから私もその馬に乗せろ!」
「……」
「おい、聞いているのか? 私も千紗姫と共にお前の馬に乗せろ!」
「……」
完全に朱雀帝の相手ををする事が面倒になったらしい秋成。無視を決め込んで決して返事をしようとはしなかった。
流石に朱雀帝を哀れに思ったのか、秋成に代わって千紗が朱雀帝に向けて声を掛ける。
「チビ助、もう"我"は止めたのか?」
「旅の間は、"私"と呼ぶように。と、忠平に言われたので。……それより千紗姫様、私もその馬にっ……」
「すまぬな、お前は他の馬に乗ってくれ。これ以上乗っては馬が可愛いそうだ」
「ならば秋成が下りろ! 私が千紗姫様と乗る!」
「嫌じゃ、千紗は秋成とが良い」
「そっそんなぁ、千紗姫様~~」
今度は千紗にまで邪険に扱われて、朱雀帝の瞳はみるみる涙に染まって行く。
そこに今度は、貞盛が口を挟んで言った。
「では帝、貴方様は是非私の馬に」
「嫌だ! 姫様とが良い。私は姫様とが良いのだ……」
まるで幼子のように駄々を捏ね続ける朱雀帝。
国の最高権力者である帝の駄々っ子に、どうしたものかと貞盛が対応に困っていると、事の収束に向けて忠平が一言助言を下した。
「帝、出発前からそのような我が儘を申されるようでしたら、やはり今回の旅は………」
「嫌じゃ……それも嫌じゃ……」
「では、どうすれば良いか、分かりますよね?」
「…………」
忠平の脅しにも似た助言に、やっと大人しくなった朱雀帝は、むくれた顔で頷いた後、貞盛の手を借り彼が操る馬へと乗った。
「では千紗、帝、くれぐれも……気をつけて……」
「はい、父上。行って参ります。父上も千紗が留守の間、くれぐれもお体にはお気をつけ下さい」
「あぁ」
忠平に見送られながら、千紗と朱雀帝。それから護衛を任された秋成、清太、春太郎。案内役の貞盛にそれから身の回りの世話係として同行するヒナの計7人は、秋も深まりはじめた九月のある日に、朝日が昇り初めたばかりの静かな京の街を、ひっそりと旅立って行った。
小次郎が待つ、坂東へ向けて。
「? どうだとは、何がでございましょう?」
「この髪型じゃ!」
「はぁ。まぁ……似合っているんじゃなでいすか?」
「何じゃその適当な答えは!」
「……と言われましても……」
「他には何かないのか?」
「…………何か……とは?」
「だから何か感想はないのか?」
「………はぁ。まぁ……姫様らし――」
「あ~~~~~!千紗姫様、何故そんな奴が乗る馬に? 千紗姫様がその馬に乗ると言うのならば私も乗せて下さい。おい、秋成! 私もその馬に乗せろ!!」
秋成が何やら言いかけた言葉を遮って、突然に朱雀帝が二人の元に駆け寄って来て騒ぎ出す。
またうるさいのが来たと、秋成は小さくため息をついた。
「………はぁ」
「その溜息は何だ?! 私を馬鹿にしているのか? いいから私もその馬に乗せろ!」
「……」
「おい、聞いているのか? 私も千紗姫と共にお前の馬に乗せろ!」
「……」
完全に朱雀帝の相手ををする事が面倒になったらしい秋成。無視を決め込んで決して返事をしようとはしなかった。
流石に朱雀帝を哀れに思ったのか、秋成に代わって千紗が朱雀帝に向けて声を掛ける。
「チビ助、もう"我"は止めたのか?」
「旅の間は、"私"と呼ぶように。と、忠平に言われたので。……それより千紗姫様、私もその馬にっ……」
「すまぬな、お前は他の馬に乗ってくれ。これ以上乗っては馬が可愛いそうだ」
「ならば秋成が下りろ! 私が千紗姫様と乗る!」
「嫌じゃ、千紗は秋成とが良い」
「そっそんなぁ、千紗姫様~~」
今度は千紗にまで邪険に扱われて、朱雀帝の瞳はみるみる涙に染まって行く。
そこに今度は、貞盛が口を挟んで言った。
「では帝、貴方様は是非私の馬に」
「嫌だ! 姫様とが良い。私は姫様とが良いのだ……」
まるで幼子のように駄々を捏ね続ける朱雀帝。
国の最高権力者である帝の駄々っ子に、どうしたものかと貞盛が対応に困っていると、事の収束に向けて忠平が一言助言を下した。
「帝、出発前からそのような我が儘を申されるようでしたら、やはり今回の旅は………」
「嫌じゃ……それも嫌じゃ……」
「では、どうすれば良いか、分かりますよね?」
「…………」
忠平の脅しにも似た助言に、やっと大人しくなった朱雀帝は、むくれた顔で頷いた後、貞盛の手を借り彼が操る馬へと乗った。
「では千紗、帝、くれぐれも……気をつけて……」
「はい、父上。行って参ります。父上も千紗が留守の間、くれぐれもお体にはお気をつけ下さい」
「あぁ」
忠平に見送られながら、千紗と朱雀帝。それから護衛を任された秋成、清太、春太郎。案内役の貞盛にそれから身の回りの世話係として同行するヒナの計7人は、秋も深まりはじめた九月のある日に、朝日が昇り初めたばかりの静かな京の街を、ひっそりと旅立って行った。
小次郎が待つ、坂東へ向けて。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

金蝶の武者
ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。
関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。
小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。
御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。
「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」
春虎は嘆いた。
金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
戦国三法師伝
kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。
異世界転生物を見る気分で読んでみてください。
本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。
信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる