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第一幕 板東編
板東からの便り②
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「誰も、屋敷に上がる事は許していないのだがな……。まぁ良い、早く続きを話せ。それで坂東では今、何が起こっているのだ?」
「そう焦らずとも、ゆっくりお話いたしますよ」
「………」
「私の元に上がってきた報告によれば、坂東でついに戦が起こったのだそうですよ。坂東で強大な力を持つ、平氏一族の身内同士による戦がね」
「な、何だと?」
起こりかけていた戦を止める為に小次郎は坂東へと戻ったはず。それなのに、小次郎の意に反して戦は始まってしまったと言うことか。
何も知らされていなかった事実に千紗は驚きの声を上げる。
そして、つい先程まで小次郎から文が届かないと、呑気に愚痴を溢していた己を恥ずかしく思った。
悔しさに拳を握り締める千紗を他所に、朱雀帝は話を先へ続けた。
「もともと、領地の分け合いが兄弟間で上手く出来ていなかったらしく、一族仲は相当に悪かったのだそうですよ。いつ戦が起こってもおかしくない程に。そんな中で千紗姫様がよく知る小次郎将門、彼の父親がこの世を去った。その死がきっかけとなり、辛うじて保たれていた一族の均衡は完全に崩壊した。小次郎将門の伯父達は手を組み、以前より狙っていた将門親子の領地を奪うべく、旗を上げたと。今坂東ではそれはそれは醜い骨肉の争いを繰り広げられているのだそうですよ」
「小次郎が……」
「ですがこの戦、どう考えても小次郎将門の分が悪い。小次郎将門は今や坂東で孤立していると聞きますし、一体彼はあとどれだけ持ちこたえられるのか? 見物ですね」
ケラケラと笑いながら、楽しそうに話す朱雀帝。
その朱雀帝の態度と語る話の温度差に、千紗は苛立ちを覚え、ついには声を荒げて怒鳴った。
「お主! 何がそんなに可笑しいのだ!」
「……え?」
「戦が起こってると言うのに、何故他人事のように笑っておるのかと聞いている!」
「それは……だって……坂東などと、辺境の田舎で何がおころうと、京に住まう我々には何の関係も影響もないわけですし……」
「関係ないだと?! やはり私はお主が好かん! 人が生死をかけ戦っておると言うのに、ヘラヘラと笑いながら話す内容ではないだろう! 遠く離れた地とは言え、戦が起こっているのはお主が治めるべき国の一部だ。だからこそ、お主の耳に届けられた情報であるはず。それなのに関係ないなどと……お主は天皇として坂東を心配に思わぬのか!何が見物ですねだ。高見の見物でまるで他人事。私はお主のそう言う所が嫌いなのだ!」
「…………」
「お主の顔などもう見たくない。二度と私の前に姿を見せるな!さっさと我が屋敷から消えうせろ!!」
怒りに任せて朱雀帝に向け辛辣な言葉を吐き捨てた千紗。
その後千紗は、足音荒く屋敷の中へと入って行ってしまった。
「ひ、姫様、お待ち下さいませ、姫様!!」
その後を、キヨとヒナが慌てて追いかけて行く。
「千様姫様……どうして……どうして………? せっかく……喜んで頂こうと思ってお話したのに……何故また怒らせてしまったのだ?」
千紗に軽蔑のまなざしを向けられ、本気で怒鳴りつけられた朱雀帝は、途方にくれた顔でその場に立ちつくす。
遠ざかっていく千紗の後ろ姿を涙目で見つめながら、ぽつりとそんな独り言を呟いた。
今の一部始終の様子を庭から見ていた秋成は、刺すような鋭く冷たい、軽蔑の視線を朱雀帝に向け、落ち込む彼にこんな言葉を突きつけた。
「お前が人の心も痛みも分からないグズ人間だからだろう」
「な、お前……お前みたいな下賎の者が、我を愚弄するのか?」
「とっととこの屋敷から出て行け。二度と姫様に近づくな」
帝相手に、何の躊躇いもなく吐き捨てた秋成もまた、悲しみに暮れる朱雀帝を一人残して、その場から離れて行った。
坂東の知らせを聞かされ、いてもたってもいられなくなった千紗が、まず向かったであろう場所へと、彼女を追いかけ行く為に――
「そう焦らずとも、ゆっくりお話いたしますよ」
「………」
「私の元に上がってきた報告によれば、坂東でついに戦が起こったのだそうですよ。坂東で強大な力を持つ、平氏一族の身内同士による戦がね」
「な、何だと?」
起こりかけていた戦を止める為に小次郎は坂東へと戻ったはず。それなのに、小次郎の意に反して戦は始まってしまったと言うことか。
何も知らされていなかった事実に千紗は驚きの声を上げる。
そして、つい先程まで小次郎から文が届かないと、呑気に愚痴を溢していた己を恥ずかしく思った。
悔しさに拳を握り締める千紗を他所に、朱雀帝は話を先へ続けた。
「もともと、領地の分け合いが兄弟間で上手く出来ていなかったらしく、一族仲は相当に悪かったのだそうですよ。いつ戦が起こってもおかしくない程に。そんな中で千紗姫様がよく知る小次郎将門、彼の父親がこの世を去った。その死がきっかけとなり、辛うじて保たれていた一族の均衡は完全に崩壊した。小次郎将門の伯父達は手を組み、以前より狙っていた将門親子の領地を奪うべく、旗を上げたと。今坂東ではそれはそれは醜い骨肉の争いを繰り広げられているのだそうですよ」
「小次郎が……」
「ですがこの戦、どう考えても小次郎将門の分が悪い。小次郎将門は今や坂東で孤立していると聞きますし、一体彼はあとどれだけ持ちこたえられるのか? 見物ですね」
ケラケラと笑いながら、楽しそうに話す朱雀帝。
その朱雀帝の態度と語る話の温度差に、千紗は苛立ちを覚え、ついには声を荒げて怒鳴った。
「お主! 何がそんなに可笑しいのだ!」
「……え?」
「戦が起こってると言うのに、何故他人事のように笑っておるのかと聞いている!」
「それは……だって……坂東などと、辺境の田舎で何がおころうと、京に住まう我々には何の関係も影響もないわけですし……」
「関係ないだと?! やはり私はお主が好かん! 人が生死をかけ戦っておると言うのに、ヘラヘラと笑いながら話す内容ではないだろう! 遠く離れた地とは言え、戦が起こっているのはお主が治めるべき国の一部だ。だからこそ、お主の耳に届けられた情報であるはず。それなのに関係ないなどと……お主は天皇として坂東を心配に思わぬのか!何が見物ですねだ。高見の見物でまるで他人事。私はお主のそう言う所が嫌いなのだ!」
「…………」
「お主の顔などもう見たくない。二度と私の前に姿を見せるな!さっさと我が屋敷から消えうせろ!!」
怒りに任せて朱雀帝に向け辛辣な言葉を吐き捨てた千紗。
その後千紗は、足音荒く屋敷の中へと入って行ってしまった。
「ひ、姫様、お待ち下さいませ、姫様!!」
その後を、キヨとヒナが慌てて追いかけて行く。
「千様姫様……どうして……どうして………? せっかく……喜んで頂こうと思ってお話したのに……何故また怒らせてしまったのだ?」
千紗に軽蔑のまなざしを向けられ、本気で怒鳴りつけられた朱雀帝は、途方にくれた顔でその場に立ちつくす。
遠ざかっていく千紗の後ろ姿を涙目で見つめながら、ぽつりとそんな独り言を呟いた。
今の一部始終の様子を庭から見ていた秋成は、刺すような鋭く冷たい、軽蔑の視線を朱雀帝に向け、落ち込む彼にこんな言葉を突きつけた。
「お前が人の心も痛みも分からないグズ人間だからだろう」
「な、お前……お前みたいな下賎の者が、我を愚弄するのか?」
「とっととこの屋敷から出て行け。二度と姫様に近づくな」
帝相手に、何の躊躇いもなく吐き捨てた秋成もまた、悲しみに暮れる朱雀帝を一人残して、その場から離れて行った。
坂東の知らせを聞かされ、いてもたってもいられなくなった千紗が、まず向かったであろう場所へと、彼女を追いかけ行く為に――
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