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第一幕 板東編
二年後
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――あれからから2年の月日が流れた。
十七歳になった千紗姫様は、それはそれは美しい女子に成長し――?
「あれが変わり者の姫君か。噂通り何と風変わりな髪型か」
「だが、あの変わり者の姫君を、帝が大層お気入りなのだとか。帝が目をかける姫に手を出す事など、誰にも適うまいて」
――否。変わり者の姫の姿を、帝お気に入の姫君の姿を、一目見ようと違った意味で京中から熱い視線を向けられる、相変わらずの賑やかな日々を過ごしておりました。
しかし当の千紗姫様は、周囲から向けられる奇異の視線など全く気にした様子は見せません。
尼のような見てくれであろうと構わず、更には裳着を済ませた身であることにも構わず、隙あらば部屋から抜けだそうとする、これまた相変わらずのお転婆な日々を過ごしておりました。
そんなお転婆姫に振り回されて、彼女の従者である秋成の気苦労は今日も絶えません。
「姫様、お願いですからお部屋にお戻りください!」
「だってな秋成、己の部屋のみで日々を過ごすのは本当に退屈なのじゃ。毎日毎日狭い部屋に閉じ込められて、楽だの和歌だの退屈な習い事ばかりさせられる。このままでは、退屈過ぎていつか死んでしまうぞ」
「だからと言って、このように庭に出て来られましても困ります。貴族の姫が姿を晒すなんてはしたないと、また忠平様に怒られてしまいすよ。貴方様は裳着を済ませた身なのでから、子供の頃と同じ感覚で、屋敷中を歩かれては困ります」
秋成は、屋敷の外から屋敷内を覗く見物人達の視線を気にしながら、千紗を窘めた。
秋成が気にしている通り、千紗が庭に姿を現すなり外の見物人達は、ざわざわとざわめき出している。
これ以上千紗に悪い噂を立たせるなと、義父である武士団の頭領からきつく言われている秋成は、興味本位に訪れる見物人達の視線から、千紗を守る事が最も重大な役目となっているのだが……
当の本人が非協力的では、どんなに睨みをきかせ牽制したところで、とても守りきれない。
秋成が日々、どれ程苦労して従者の仕事に就いているかなど、全く考えもしないお転婆姫は、彼の言葉になど耳を貸す素振りもみせないままに、呑気に愚痴を零し続けた。
「私が外に出て困ると言うならば、退屈凌ぎにお主が私の部屋に来い」
「それはなりません」
「なぜじゃ?」
「俺のような人間が、屋敷に上がるなど許されるはずもございません」
「………つまらん。……ほんにつらまんのぉ。お主はいつもそればかり。小次郎は構わず屋敷に上がって来ておったぞ」
「兄上は、もとより従者としてこの屋敷に入ったお方。俺はもとは賊として忍んだ人間。俺は義父より決して屋敷に上がることは許さぬと、口酸っぱく言われているのです」
「ま~たその言い訳か。それはもう聞き飽きた。だから宗成には内緒にしておいてやるから、こっそりと上がって来ればよいではないか」
「なりませぬ」
「この石頭が! お主がそんなだから、私がこうして外まで出てくるしかないのではないか。本当にお主は、我が儘な奴じゃな」
「…………」
千紗から発せられた“我が儘”の一言に、眉をピクリと動かした秋成はそのまま黙り込む。
「どうした秋成、何故黙る?」
「……さっきから黙って聞いてれば、我が儘はどう考えてもお前の方だろう! このくそ貴族が!!」
「おっ! やっと昔の秋成に戻ったな」
湧き上がる怒りに敬語も忘れて怒鳴り散らした秋成だったが、秋成の怒りに怯むどころか逆に嬉しそうな千紗に、どっと疲れを感じた秋成はたまらず大きな溜息を吐いた。
「………はぁ。貴方様は相変わらず……」
「裳着など、するんじゃなかったな。お主はよそよそしくなるし、毎日毎日部屋に閉じこめられて……まこと退屈じゃ。退屈凌ぎに小次郎へ手紙を書いてみても、あやつから返事は一切も送られては来ぬし。……あ~つまらん! つまらん、つまらん、つまらん! ほんに貴族は退屈じゃ~!」
「…………はぁ」
止まらぬ主の我が儘っぷりに、呆れ果てた秋成は、今度は完全無視を決めたらしい。
千紗に背を向け、先程吐いた溜息よりも更に盛大な溜息を吐いて、頭を抱えた。
それほどまでに秋成を追い詰めておきながら、未だ千紗の愚痴は止まる気配を見せない。
「聞いてくれ秋成! この2年、ほぼ毎月のように私は小次郎へ宛て、文を書いてきたのだ。なのにあやつから送られてきた返事は一通たりともない。何故じゃ? 何故あやつは返事をよこさん。あぁぁ~思い出しただけでも腹が立つ!」
「……………」
「いらぬ男からは毎日嫌と言う程文が届くと言うに、何故小次郎からは文が一つも届かぬのだ!?」
「………はぁ」
鼻息荒く、日頃堪った愚痴をここぞとばかりに吐き出す千紗。
聞きたくもない愚痴を延々聞かせる千紗に、うんざりした様子で三度目の大き溜息を吐く秋成。
いつになったらこの愚痴から解放されるのかと、半ば秋成が諦めかけた時、やっと千紗の暴走を止めてくれる二人の助っ人が秋成の元現れた。
十七歳になった千紗姫様は、それはそれは美しい女子に成長し――?
「あれが変わり者の姫君か。噂通り何と風変わりな髪型か」
「だが、あの変わり者の姫君を、帝が大層お気入りなのだとか。帝が目をかける姫に手を出す事など、誰にも適うまいて」
――否。変わり者の姫の姿を、帝お気に入の姫君の姿を、一目見ようと違った意味で京中から熱い視線を向けられる、相変わらずの賑やかな日々を過ごしておりました。
しかし当の千紗姫様は、周囲から向けられる奇異の視線など全く気にした様子は見せません。
尼のような見てくれであろうと構わず、更には裳着を済ませた身であることにも構わず、隙あらば部屋から抜けだそうとする、これまた相変わらずのお転婆な日々を過ごしておりました。
そんなお転婆姫に振り回されて、彼女の従者である秋成の気苦労は今日も絶えません。
「姫様、お願いですからお部屋にお戻りください!」
「だってな秋成、己の部屋のみで日々を過ごすのは本当に退屈なのじゃ。毎日毎日狭い部屋に閉じ込められて、楽だの和歌だの退屈な習い事ばかりさせられる。このままでは、退屈過ぎていつか死んでしまうぞ」
「だからと言って、このように庭に出て来られましても困ります。貴族の姫が姿を晒すなんてはしたないと、また忠平様に怒られてしまいすよ。貴方様は裳着を済ませた身なのでから、子供の頃と同じ感覚で、屋敷中を歩かれては困ります」
秋成は、屋敷の外から屋敷内を覗く見物人達の視線を気にしながら、千紗を窘めた。
秋成が気にしている通り、千紗が庭に姿を現すなり外の見物人達は、ざわざわとざわめき出している。
これ以上千紗に悪い噂を立たせるなと、義父である武士団の頭領からきつく言われている秋成は、興味本位に訪れる見物人達の視線から、千紗を守る事が最も重大な役目となっているのだが……
当の本人が非協力的では、どんなに睨みをきかせ牽制したところで、とても守りきれない。
秋成が日々、どれ程苦労して従者の仕事に就いているかなど、全く考えもしないお転婆姫は、彼の言葉になど耳を貸す素振りもみせないままに、呑気に愚痴を零し続けた。
「私が外に出て困ると言うならば、退屈凌ぎにお主が私の部屋に来い」
「それはなりません」
「なぜじゃ?」
「俺のような人間が、屋敷に上がるなど許されるはずもございません」
「………つまらん。……ほんにつらまんのぉ。お主はいつもそればかり。小次郎は構わず屋敷に上がって来ておったぞ」
「兄上は、もとより従者としてこの屋敷に入ったお方。俺はもとは賊として忍んだ人間。俺は義父より決して屋敷に上がることは許さぬと、口酸っぱく言われているのです」
「ま~たその言い訳か。それはもう聞き飽きた。だから宗成には内緒にしておいてやるから、こっそりと上がって来ればよいではないか」
「なりませぬ」
「この石頭が! お主がそんなだから、私がこうして外まで出てくるしかないのではないか。本当にお主は、我が儘な奴じゃな」
「…………」
千紗から発せられた“我が儘”の一言に、眉をピクリと動かした秋成はそのまま黙り込む。
「どうした秋成、何故黙る?」
「……さっきから黙って聞いてれば、我が儘はどう考えてもお前の方だろう! このくそ貴族が!!」
「おっ! やっと昔の秋成に戻ったな」
湧き上がる怒りに敬語も忘れて怒鳴り散らした秋成だったが、秋成の怒りに怯むどころか逆に嬉しそうな千紗に、どっと疲れを感じた秋成はたまらず大きな溜息を吐いた。
「………はぁ。貴方様は相変わらず……」
「裳着など、するんじゃなかったな。お主はよそよそしくなるし、毎日毎日部屋に閉じこめられて……まこと退屈じゃ。退屈凌ぎに小次郎へ手紙を書いてみても、あやつから返事は一切も送られては来ぬし。……あ~つまらん! つまらん、つまらん、つまらん! ほんに貴族は退屈じゃ~!」
「…………はぁ」
止まらぬ主の我が儘っぷりに、呆れ果てた秋成は、今度は完全無視を決めたらしい。
千紗に背を向け、先程吐いた溜息よりも更に盛大な溜息を吐いて、頭を抱えた。
それほどまでに秋成を追い詰めておきながら、未だ千紗の愚痴は止まる気配を見せない。
「聞いてくれ秋成! この2年、ほぼ毎月のように私は小次郎へ宛て、文を書いてきたのだ。なのにあやつから送られてきた返事は一通たりともない。何故じゃ? 何故あやつは返事をよこさん。あぁぁ~思い出しただけでも腹が立つ!」
「……………」
「いらぬ男からは毎日嫌と言う程文が届くと言うに、何故小次郎からは文が一つも届かぬのだ!?」
「………はぁ」
鼻息荒く、日頃堪った愚痴をここぞとばかりに吐き出す千紗。
聞きたくもない愚痴を延々聞かせる千紗に、うんざりした様子で三度目の大き溜息を吐く秋成。
いつになったらこの愚痴から解放されるのかと、半ば秋成が諦めかけた時、やっと千紗の暴走を止めてくれる二人の助っ人が秋成の元現れた。
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