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第一幕 京編
変化の時
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賑やかだった昼間の賑わいからすっかり日も暮れ、普段なら屋敷中が床につき、ひっそりと静まりかえっているだろう亥の刻――
だが藤原の屋敷では、今日に限り少し様子が違っていた。
屋敷中に明かりが灯され、雅やかな楽の音や、楽しげな笑い声で溢れている。
何故藤原の屋敷が、夜も深い今の時刻まで賑わっているのかと言えば、それは今まさに忠平の娘、千紗姫様の裳着の儀が執り行われているからだ。
今は儀式が終わり、祝いの宴が催されているのだろう、雑仕女達が料理や酒を手に忙しそうに走り回っている。
秋成を始め、屋敷警護の任を受けた武士団の男たちはと言えば、普段より多く配置され厳重なる警護で屋敷を固めていた。
祝いの宴が催されているのは屋敷主、忠平の部屋であり、屋敷の中心的建物でもある寝殿。
その向かって左側に位置する西の対の前庭で、千紗の特別な日である今日も、秋成は普段と変わらず屋敷警護の任に就いている。
そんな彼の元へ、彼よりふたまわり以上年の離れた武士団仲間、六助が、仕事中だと言うのに酒を片手に訪ねて来た。
「姫さん、今頃綺麗に着飾ってるのかね~。本音は秋成もその姿を見たかっただろう?」
「……六さん、無駄口叩いてないで早く持ち場に戻って下さい。義父上に見つかったら怒られますよ。俺達は今、警護の仕事中なんですから」
仕事中だと言うのに、少し頬を赤らめた顔で秋成に絡んむ六助を、半ば鬱陶しく思いながら仕事に戻るよう促す秋成。
「おいおい、何ピリピリしてるんだ?」
「別にピリピリなんてしていません。六さんが不真面目だから言ってるだけです。義父上に報告されたくなければ早く持ち場に戻って下さい」
「はぁ~、ったくお前は相変わらず可愛げのねぇガキだなぁ。はいはい、わかりましたよ。戻れば良いんだろ、戻れば。ったく、なんだよ。普段誰よりも姫さんと一緒にいながら、宴には参加させてもらえない可愛そうなお前を慰めてやろうと思ったのに、目くじら立てて怒りやがって」
ぶつぶつと文句を吐きながら、屋敷の灯りが届かない、暗い庭の奥へと消えて行く六助。
彼を見送った後秋成は、美しい音色と賑やかな声が漏れ聞こえてくる寝殿へと視線を向けた。
近いようでいて、遠い存在に感じるその場所を、ぼんやりと遠目に見つめながら秋成は、千紗と供に過ごして来たこの八年と言う長い月日を思い返した――
千紗との出会い、それは死すらも覚悟していた秋成の、辛い幼少期の中偶然にして始まった奇跡のような出来だった。
そして、この厳しい身分社会の中、貴族の姫と家族のように過ごしたまるで夢物語のような日々。
そんな日々の中、思い返せば腹の立つこともたくさんあった。
我が儘な姫に振り回されて、ほとほと呆れる事もたくさんあった。
毎日のように喧嘩をして、喧嘩の数だけ仲直りをした。
気が付けば、いつの間にか大嫌いだったはずの姫君が、守りたいと思う大きな存在へと変わっていた。
大切な人だからこそ、いつまでも側で彼女を守り続けたい。
その思いを強く自覚したから今だからこそ秋成は、千紗が裳着の儀を終えたこの瞬間に、千紗と築いて来た関係性を今後大きく変化させていく決意を固める。
――『いつか千紗を主として認められる日が来たら、あの子を姫と呼んでやってくれ』
静かに目を閉じ、八年間の思い出詰まった景色を秋成は静かに胸にしまった。
だが藤原の屋敷では、今日に限り少し様子が違っていた。
屋敷中に明かりが灯され、雅やかな楽の音や、楽しげな笑い声で溢れている。
何故藤原の屋敷が、夜も深い今の時刻まで賑わっているのかと言えば、それは今まさに忠平の娘、千紗姫様の裳着の儀が執り行われているからだ。
今は儀式が終わり、祝いの宴が催されているのだろう、雑仕女達が料理や酒を手に忙しそうに走り回っている。
秋成を始め、屋敷警護の任を受けた武士団の男たちはと言えば、普段より多く配置され厳重なる警護で屋敷を固めていた。
祝いの宴が催されているのは屋敷主、忠平の部屋であり、屋敷の中心的建物でもある寝殿。
その向かって左側に位置する西の対の前庭で、千紗の特別な日である今日も、秋成は普段と変わらず屋敷警護の任に就いている。
そんな彼の元へ、彼よりふたまわり以上年の離れた武士団仲間、六助が、仕事中だと言うのに酒を片手に訪ねて来た。
「姫さん、今頃綺麗に着飾ってるのかね~。本音は秋成もその姿を見たかっただろう?」
「……六さん、無駄口叩いてないで早く持ち場に戻って下さい。義父上に見つかったら怒られますよ。俺達は今、警護の仕事中なんですから」
仕事中だと言うのに、少し頬を赤らめた顔で秋成に絡んむ六助を、半ば鬱陶しく思いながら仕事に戻るよう促す秋成。
「おいおい、何ピリピリしてるんだ?」
「別にピリピリなんてしていません。六さんが不真面目だから言ってるだけです。義父上に報告されたくなければ早く持ち場に戻って下さい」
「はぁ~、ったくお前は相変わらず可愛げのねぇガキだなぁ。はいはい、わかりましたよ。戻れば良いんだろ、戻れば。ったく、なんだよ。普段誰よりも姫さんと一緒にいながら、宴には参加させてもらえない可愛そうなお前を慰めてやろうと思ったのに、目くじら立てて怒りやがって」
ぶつぶつと文句を吐きながら、屋敷の灯りが届かない、暗い庭の奥へと消えて行く六助。
彼を見送った後秋成は、美しい音色と賑やかな声が漏れ聞こえてくる寝殿へと視線を向けた。
近いようでいて、遠い存在に感じるその場所を、ぼんやりと遠目に見つめながら秋成は、千紗と供に過ごして来たこの八年と言う長い月日を思い返した――
千紗との出会い、それは死すらも覚悟していた秋成の、辛い幼少期の中偶然にして始まった奇跡のような出来だった。
そして、この厳しい身分社会の中、貴族の姫と家族のように過ごしたまるで夢物語のような日々。
そんな日々の中、思い返せば腹の立つこともたくさんあった。
我が儘な姫に振り回されて、ほとほと呆れる事もたくさんあった。
毎日のように喧嘩をして、喧嘩の数だけ仲直りをした。
気が付けば、いつの間にか大嫌いだったはずの姫君が、守りたいと思う大きな存在へと変わっていた。
大切な人だからこそ、いつまでも側で彼女を守り続けたい。
その思いを強く自覚したから今だからこそ秋成は、千紗が裳着の儀を終えたこの瞬間に、千紗と築いて来た関係性を今後大きく変化させていく決意を固める。
――『いつか千紗を主として認められる日が来たら、あの子を姫と呼んでやってくれ』
静かに目を閉じ、八年間の思い出詰まった景色を秋成は静かに胸にしまった。
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