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第一幕 京編
千紗の決意②
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「お前は、本当にそれで良いのか?」
「あぁ」
「お前今、無理して笑っているだろう。本当にそれでいいのか?」
「…………」
「そんなに急いで大人になろうとしなくても良いんじゃないか? 無理に物事を納得しようとしなくても……お前は、お前のままで良いんだ。兄上だって、嫌々お前の我が儘に付き合ってた訳じゃない。本心からお前の傍にいたいと願ったから」
「秋成っ……」
突然の千紗の宣言を受け入れられず、秋成は必死に千紗を説得する為の言葉を並べた。必死なのかどんどんと早口になっていく秋成の言葉を遮って、千紗が彼の名を口にする。
だがそれさえも遮って秋成はこう続けた。
「お前は心のどこかではまだ願っているんじゃないのか? 変わらずにいる事を!」
「っ………」
秋成の言葉は、千紗の核心をついていたのか千紗の目は大きく見開かれ、一瞬切なげに瞳が揺れる。
迷いを見せた千紗の気を、何とか変えられないかと秋成は必死な説得を続ける。
「俺はあると思う。変わらないもの。お前が信じたいと言うのなら俺は――」
「良いのだ、秋成。もう、決めたのだ。妾は大人になると……決めたのだ」
だが、秋成の必死の説得も虚しく、千紗は再び秋成の言葉を遮り、自身をも納得させるかのようにそう口にした。彼女の瞳にはもう、先程までの戸惑いはなかった。
真っ直ぐに揺るがない瞳を秋成に向けている。千紗の覚悟を固めたその瞳が、国へ帰ると告げた小次郎のものと重なる。
あぁ、千紗もまた小次郎と同様に、己の本当の気持ちを犠牲にして、生まれながらに定められた道を歩く覚悟を決めたのだと、秋成は悟った。きっともうこの決意は揺るがない。
「………そっか。分かった。もう、何も言わない」
諦めたように秋成は千紗から視線外すと、そのままゆっくりと暮れゆく夕空を見上げた。
そして旅立つ前、小次郎に言われた言葉を思い返しながら、千紗に語って聞かせた。
「兄上がここを去って行った日にな、最後に兄上に言われた言葉があったんだ。俺は何も縛られるものがなくて羨ましいって。自由で羨ましいって。あの時は、言葉の意味が良く分からなかったんだけど……お前の覚悟を聞いてその言葉の意味が、今何となく分かった気がする」
「?」
「兄上もお前も、俺とは違って生まれながらに背負っている物があると言う。それがずっと俺にはカッコ良く見えて、憧れていた。けれど、生まれながらに手にしていた立場だったり、定めってものに抗おうとしながらも、抗いきれずにもがいてる二人を見ていたら、兄上の言う通り俺は何も持っていなくて良かったんじゃないかと思ったよ。何も持たない俺だからこそ出来る事があるんじゃないかって」
「秋成だから……できること?」
秋成が言わんとしている事が分からず、首を傾げている千紗。
秋成はそんな彼女に再び視線を戻すと、迷いの晴れた顔でニッコリ微笑み言った。
「そう、俺が証明してみせてやるよ。お前が信じたかった“変わらないもの”が、世の中にはきっとあるって事を」
「……どう……やって?」
「約束したろ。俺は今と変わらずお前の側でお前を守って行くって。俺とお前の間には変わらない約束がある。時の流れの中で確かに変わってしまうもの、変わらなければいけない事もあるかもしれない。でも、変わらないものだってきっとあるはずだ。お前との約束を守り続ける事で俺が必ずそのことを証明してみせてやるよ」
大人への階段を上る中で、様々な思いを飲み込んで”変わる”決意をした千紗。
彼女の想いを汲みながらも、千紗の傍で自分だけは”変わらずに居続ける”と言う覚悟を示した秋成。
彼の強さと優しさに、千紗は目頭が熱くなるのを感じた。今にも溢れてしまいそうな物を堪えるべく急いで空を見上げた千紗。
「……ありがとう……秋成。ありがとう……」
秋成の着物の袖をギュッと掴みながら、さやさやと心地よく吹く風に吹き消されそうなくらいの小さな声で、千紗は感謝の言葉を口にした。
主からの言われ慣れぬ言葉に、照れ臭さを覚えながらも秋成は、笑みを深くして微笑んだ。
「ところで秋成、お主の袖の……この何やら細く硬い物体は何だ?」
「えっ?!」
「あぁ」
「お前今、無理して笑っているだろう。本当にそれでいいのか?」
「…………」
「そんなに急いで大人になろうとしなくても良いんじゃないか? 無理に物事を納得しようとしなくても……お前は、お前のままで良いんだ。兄上だって、嫌々お前の我が儘に付き合ってた訳じゃない。本心からお前の傍にいたいと願ったから」
「秋成っ……」
突然の千紗の宣言を受け入れられず、秋成は必死に千紗を説得する為の言葉を並べた。必死なのかどんどんと早口になっていく秋成の言葉を遮って、千紗が彼の名を口にする。
だがそれさえも遮って秋成はこう続けた。
「お前は心のどこかではまだ願っているんじゃないのか? 変わらずにいる事を!」
「っ………」
秋成の言葉は、千紗の核心をついていたのか千紗の目は大きく見開かれ、一瞬切なげに瞳が揺れる。
迷いを見せた千紗の気を、何とか変えられないかと秋成は必死な説得を続ける。
「俺はあると思う。変わらないもの。お前が信じたいと言うのなら俺は――」
「良いのだ、秋成。もう、決めたのだ。妾は大人になると……決めたのだ」
だが、秋成の必死の説得も虚しく、千紗は再び秋成の言葉を遮り、自身をも納得させるかのようにそう口にした。彼女の瞳にはもう、先程までの戸惑いはなかった。
真っ直ぐに揺るがない瞳を秋成に向けている。千紗の覚悟を固めたその瞳が、国へ帰ると告げた小次郎のものと重なる。
あぁ、千紗もまた小次郎と同様に、己の本当の気持ちを犠牲にして、生まれながらに定められた道を歩く覚悟を決めたのだと、秋成は悟った。きっともうこの決意は揺るがない。
「………そっか。分かった。もう、何も言わない」
諦めたように秋成は千紗から視線外すと、そのままゆっくりと暮れゆく夕空を見上げた。
そして旅立つ前、小次郎に言われた言葉を思い返しながら、千紗に語って聞かせた。
「兄上がここを去って行った日にな、最後に兄上に言われた言葉があったんだ。俺は何も縛られるものがなくて羨ましいって。自由で羨ましいって。あの時は、言葉の意味が良く分からなかったんだけど……お前の覚悟を聞いてその言葉の意味が、今何となく分かった気がする」
「?」
「兄上もお前も、俺とは違って生まれながらに背負っている物があると言う。それがずっと俺にはカッコ良く見えて、憧れていた。けれど、生まれながらに手にしていた立場だったり、定めってものに抗おうとしながらも、抗いきれずにもがいてる二人を見ていたら、兄上の言う通り俺は何も持っていなくて良かったんじゃないかと思ったよ。何も持たない俺だからこそ出来る事があるんじゃないかって」
「秋成だから……できること?」
秋成が言わんとしている事が分からず、首を傾げている千紗。
秋成はそんな彼女に再び視線を戻すと、迷いの晴れた顔でニッコリ微笑み言った。
「そう、俺が証明してみせてやるよ。お前が信じたかった“変わらないもの”が、世の中にはきっとあるって事を」
「……どう……やって?」
「約束したろ。俺は今と変わらずお前の側でお前を守って行くって。俺とお前の間には変わらない約束がある。時の流れの中で確かに変わってしまうもの、変わらなければいけない事もあるかもしれない。でも、変わらないものだってきっとあるはずだ。お前との約束を守り続ける事で俺が必ずそのことを証明してみせてやるよ」
大人への階段を上る中で、様々な思いを飲み込んで”変わる”決意をした千紗。
彼女の想いを汲みながらも、千紗の傍で自分だけは”変わらずに居続ける”と言う覚悟を示した秋成。
彼の強さと優しさに、千紗は目頭が熱くなるのを感じた。今にも溢れてしまいそうな物を堪えるべく急いで空を見上げた千紗。
「……ありがとう……秋成。ありがとう……」
秋成の着物の袖をギュッと掴みながら、さやさやと心地よく吹く風に吹き消されそうなくらいの小さな声で、千紗は感謝の言葉を口にした。
主からの言われ慣れぬ言葉に、照れ臭さを覚えながらも秋成は、笑みを深くして微笑んだ。
「ところで秋成、お主の袖の……この何やら細く硬い物体は何だ?」
「えっ?!」
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