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第一幕 京編
歪んだ世情①
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小次郎が、突然実家へ戻る事になったわけ。それは再び3日前へと時を遡る――
◇◇◇
「何、親父が倒れた?!」
「あぁ。それを良い事に、叔父貴達は源家と手を組んで、卑怯な手で親父の領土を横取りしようと狙ってる。今坂東は、いつ戦が起こってもおかしくない冷戦状態さ」
あの騒ぎの後、小次郎に引きずられるようにして忠平の屋敷へと連れて来られた四郎は、屋敷で一番広い部屋、寝殿の前の南庭にて兄の尋問を受け、ふて腐れた様子で自分がここにいる経緯を説明させられていた。
周りには盗賊の仲間である幼い少年達、そして秋成の姿が。
四郎の口から語られたのは、思いもよらなかった事柄。
父の危篤と、故郷坂東で起こりかけている争いの事実。
初めて知らされる故郷の現状に、小次郎は言葉を失った。
まさか父がそんな大変な事になっていたとは。
きっと父は、息子に心配をかけさせまいと何の連絡もしてこなかったのだろう。父の苦労を思い小次郎は唇を噛みしめた。
しかも病気の父を更に追い詰め苦しめているのは、父の兄弟達であると言う。
小次郎にとっても伯父であるはずの彼等が、そんな酷い仕打ちをするだなんて……到底信じたく無かった。
「……本当に……いつ戦が起こってもおかしくないと?」
そんな思いから四郎に改めて確認する小次郎。
「あぁ」
だが四郎から返ってきたのは感情の読み取れない程素っ気ない反応。
自分の故郷だと言うのに、まるで他人事のような四郎の態度に、小次郎は声を荒げて彼に詰め寄る。
「そんな親父が大変な時に、どうしてお前はここにいる? 国では民達が、いつ始まるかしれない戦に怯えている中、お前は一人逃げて来たのか? 武士の子であるのなら、父を助け、民を守るのが使命だろう!」
「はっ。相変わらず兄貴は熱いねぇ。あぁそうだよ。俺は逃げたんだ! あんな所……」
「四郎っ! お前っっ!!」
開き直ったような四郎の態度に、ついに彼の胸倉を掴み、怒りを露にする小次郎。
慌てて今まで二人のやり取りを側で見守っていた秋成が止めに入った。
「兄上、落ち着いてください」
「うんざりなんだよ。己が領地を広げる事に豪族達は躍起になって争い、傷つけ合う。坂東と言う地の醜い争いは、もううんざりだ! 領土を広げて何になる? 富を得たいのか? 名声を手に入れたいのか? そんなくだらない欲の為に、多くの人間が巻き込まれ、命を落として行く。そんな事が許されていいのか? 争いは結局、憎しみしか生みはしない。そして憎しみはまた争いを呼ぶ。ましてやそれを、身内同士でやるなんて……馬鹿馬鹿しいにも程があるだろう!」
「いい加減にしろ、四郎っ! お前それでも坂東武者か!!」
「嫌だったんだよ俺は……俺達一族の醜い兄弟喧嘩に巻き込まれて、悲しみ苦しむ人の姿を見るのが……嫌だったんだ!! あぁ、そうだよ。俺は逃げたんだ。争いのない、平和な地を求めて一人逃げて来たんだ!」
「…………」
飄々とした態度でつかみ所のなかった四郎が、今初めて見せた怒りの感情。
小次郎は四郎なりに苦しんで来ただあろう葛藤に触れ、怒鳴る事を止めた。
そして真っ直ぐに弟を見つめると、少し静かな声でこんな問いを投げかけた。
「それで……平和な地は見つかったのか?」
小次郎からの問いに、四郎は寂しそうな顔で小さく首を横に振った。
「俺も、兄貴みたいに京で平和に暮らしたいと思った。高貴な貴族様が納めるこの地なら、争いもなく皆が幸せに暮らせる、そんな夢の都だって信じていたから。だからここまで来たんだ。なのに……」
そこまで言って言葉を止めた四郎。
地面に注がれていた視線を急に持ち上げたかと思うと、庭から屋敷の中へと視線を向ける。
寝殿の奥にある御簾、その先にいるであろう人物をキツく睨み付けながら。
そして次の瞬間――
「四郎っ!お前っ……何を?!」
庭から屋敷へと続く階を勢いよく駆け上がって行く。
突然の四郎の行動に、慌てて小次郎も弟の後を追った。
だが、小次郎が弟の狼藉を阻止する事は叶わず……
四郎は自分と忠平の間を隔てていた御簾を乱暴に引きちぎると、忠平の後ろへと周り込み懐に隠していた短刀を彼の首元へと突き付けた。
「ここも俺達の国と何も変わらない!どこもかしこも権力者の欲にまみれて……この世界は腐っていやがる!」
◇◇◇
「何、親父が倒れた?!」
「あぁ。それを良い事に、叔父貴達は源家と手を組んで、卑怯な手で親父の領土を横取りしようと狙ってる。今坂東は、いつ戦が起こってもおかしくない冷戦状態さ」
あの騒ぎの後、小次郎に引きずられるようにして忠平の屋敷へと連れて来られた四郎は、屋敷で一番広い部屋、寝殿の前の南庭にて兄の尋問を受け、ふて腐れた様子で自分がここにいる経緯を説明させられていた。
周りには盗賊の仲間である幼い少年達、そして秋成の姿が。
四郎の口から語られたのは、思いもよらなかった事柄。
父の危篤と、故郷坂東で起こりかけている争いの事実。
初めて知らされる故郷の現状に、小次郎は言葉を失った。
まさか父がそんな大変な事になっていたとは。
きっと父は、息子に心配をかけさせまいと何の連絡もしてこなかったのだろう。父の苦労を思い小次郎は唇を噛みしめた。
しかも病気の父を更に追い詰め苦しめているのは、父の兄弟達であると言う。
小次郎にとっても伯父であるはずの彼等が、そんな酷い仕打ちをするだなんて……到底信じたく無かった。
「……本当に……いつ戦が起こってもおかしくないと?」
そんな思いから四郎に改めて確認する小次郎。
「あぁ」
だが四郎から返ってきたのは感情の読み取れない程素っ気ない反応。
自分の故郷だと言うのに、まるで他人事のような四郎の態度に、小次郎は声を荒げて彼に詰め寄る。
「そんな親父が大変な時に、どうしてお前はここにいる? 国では民達が、いつ始まるかしれない戦に怯えている中、お前は一人逃げて来たのか? 武士の子であるのなら、父を助け、民を守るのが使命だろう!」
「はっ。相変わらず兄貴は熱いねぇ。あぁそうだよ。俺は逃げたんだ! あんな所……」
「四郎っ! お前っっ!!」
開き直ったような四郎の態度に、ついに彼の胸倉を掴み、怒りを露にする小次郎。
慌てて今まで二人のやり取りを側で見守っていた秋成が止めに入った。
「兄上、落ち着いてください」
「うんざりなんだよ。己が領地を広げる事に豪族達は躍起になって争い、傷つけ合う。坂東と言う地の醜い争いは、もううんざりだ! 領土を広げて何になる? 富を得たいのか? 名声を手に入れたいのか? そんなくだらない欲の為に、多くの人間が巻き込まれ、命を落として行く。そんな事が許されていいのか? 争いは結局、憎しみしか生みはしない。そして憎しみはまた争いを呼ぶ。ましてやそれを、身内同士でやるなんて……馬鹿馬鹿しいにも程があるだろう!」
「いい加減にしろ、四郎っ! お前それでも坂東武者か!!」
「嫌だったんだよ俺は……俺達一族の醜い兄弟喧嘩に巻き込まれて、悲しみ苦しむ人の姿を見るのが……嫌だったんだ!! あぁ、そうだよ。俺は逃げたんだ。争いのない、平和な地を求めて一人逃げて来たんだ!」
「…………」
飄々とした態度でつかみ所のなかった四郎が、今初めて見せた怒りの感情。
小次郎は四郎なりに苦しんで来ただあろう葛藤に触れ、怒鳴る事を止めた。
そして真っ直ぐに弟を見つめると、少し静かな声でこんな問いを投げかけた。
「それで……平和な地は見つかったのか?」
小次郎からの問いに、四郎は寂しそうな顔で小さく首を横に振った。
「俺も、兄貴みたいに京で平和に暮らしたいと思った。高貴な貴族様が納めるこの地なら、争いもなく皆が幸せに暮らせる、そんな夢の都だって信じていたから。だからここまで来たんだ。なのに……」
そこまで言って言葉を止めた四郎。
地面に注がれていた視線を急に持ち上げたかと思うと、庭から屋敷の中へと視線を向ける。
寝殿の奥にある御簾、その先にいるであろう人物をキツく睨み付けながら。
そして次の瞬間――
「四郎っ!お前っ……何を?!」
庭から屋敷へと続く階を勢いよく駆け上がって行く。
突然の四郎の行動に、慌てて小次郎も弟の後を追った。
だが、小次郎が弟の狼藉を阻止する事は叶わず……
四郎は自分と忠平の間を隔てていた御簾を乱暴に引きちぎると、忠平の後ろへと周り込み懐に隠していた短刀を彼の首元へと突き付けた。
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