時ノ糸~絆~

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
21 / 279
第一幕 京編

意外な関係性

しおりを挟む
そんな千紗と忠平の親子のやり取りに皆が気を取られている隙に、一人息を潜めその場から離れようとする者がいた。

幸せそうな千紗の寝顔に安堵しながらも、小次郎だけは背中ごしに感じるその気配を逃さなかった。


「おい、お前、何処に行くつもりだ?」

「げっ!」


小次郎の呼び止めに、皆が一斉に盗賊の頭、四郎へと視線を向ける。
背中に突き刺さるいくつもの視線。四郎の背中に冷汗が垂れた。

そして、とどめとばかりに小次郎の誰よりも鋭く冷たい視線が加わって、逃げられないと観念してた四郎はゆっくりと後ろを振り返る。


「俺にバレてないとでも思ったか、四郎」

「あは、あはは、やっぱりバレてましたかぁ……。おっす、久し振り」


笑顔を引き攣らせながら片言に言葉を返した四郎。


「兄上?何故盗賊の男の名前を?この男と知り合いなのですか??」

どこか通じあった二人のやり取りに、秋成は驚き口を挟む。

秋成の抱いた疑問に、小次郎の口からは予想もしなかった答えが返って来た。


「……あぁ。そいつは……俺の弟だ」

「…………へ?」

突然の小次郎からの爆弾発言に、秋成の思考が思わず停止した。

それは秋成だけに留まらず、四郎の仲間の盗賊の少年達も、武士団の者達も、普段冷静な忠平でさえも驚いた様子で、皆が好奇の目で二人を見守った。


「でもよく分かったな、俺が弟の四郎だって。兄貴と最後に別れたのは、俺がほんの子供の頃だったのに。俺も最初は分からなかったぜ。あんたが小次郎の兄貴だって」


「ふん、当たり前だ。親父の愛用していた刀を持っていればな」

「あぁ、それか~」

「四郎、何故お前がここにいる? どうして千紗を攫った?こいつが、俺の主だと知っての狼藉か?!」

「いや、違うんだ。その姫さんを攫ったのは本当に単なる偶然で、兄貴を怒らせようとしてやったわけじゃ……」

「ならば、たいらの名を持つ武士もののふであるはずのお前が、何故このような所で盗賊紛いのことをしている?」

「そ、それには深い深~い訳があるんだ。頼むからせっかく再会した弟を、そんな怖い顔で睨まないでくれよ兄貴~」

「ほぉ、さぞかし立派な“言い訳“なんだろうな?その話、ゆっくりじっくり聞かせて貰おうじゃないか」


焦った様子の四郎とは対照的に、怒りをチラつかせながら四郎の元へゆっくりと近づいて行く小次郎。
小次郎からピリピリと伝わってくる威圧に、一歩一歩後退る四郎。

そしてついにはその威圧に耐えかねて、背を向けて逃げ出そうとした。

だが小次郎はそれを許さず、背中を見せた途端、物凄い勢いで四郎の首根っこを捕える。

そしてそのまま……首根っこを掴まれたまま四郎は小次郎にズルズルと引き摺られる始末。


「このまま連れ帰って、親父の元へ強制送還だっ!!」

「あ、兄貴~……首……首がしまって………苦し……」


こうして、千紗の誘拐事件は無事に幕を閉じた。

だが、この事件をきっかけに、千紗、小次郎、秋成、幼き日々を共に過ごして来たこの三人の運命の歯車が、少しずつ噛み合わなくなっていく事を、この時はまだ誰も気付いてはいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

浅井長政は織田信長に忠誠を誓う

ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

連合航空艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年のロンドン海軍軍縮条約を機に海軍内では新時代の軍備についての議論が活発に行われるようになった。その中で生れたのが”航空艦隊主義”だった。この考えは当初、一部の中堅将校や青年将校が唱えていたものだが途中からいわゆる海軍左派である山本五十六や米内光政がこの考えを支持し始めて実現のためにの政治力を駆使し始めた。この航空艦隊主義と言うものは”重巡以上の大型艦を全て空母に改装する”というかなり極端なものだった。それでも1936年の条約失効を持って日本海軍は航空艦隊主義に傾注していくことになる。 デモ版と言っては何ですが、こんなものも書く予定があるんだなぁ程度に思ってい頂けると幸いです。

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

処理中です...