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第一幕 京編
美しさの象徴
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「千紗!秋成!無事か?!今の音は……」
騒ぎを聞きつけて、小次郎を始めとした摂関家藤原の屋敷に仕える武士団の者達がぞくぞくと千紗達の元へえと駆けつけて来た。
そして千紗の父である忠平を共に連れ、やっとの思いで駆けつけた小次郎だったが、その場の緊迫した状況に思わず息を呑む。
辺り一帯がしんと静まりかえる中、そこにはヒナがたてる不規則な荒い呼吸だけが響いていた。
地面に尻餅をつきながら、虚ろな瞳で目の前の光景を映すヒナ。
そこには、驚いた顔で仰向けに寝そべる秋成と、そんな秋成に覆いかぶさるようにして倒れる千紗、二人の姿があった。
「姫さん、無事か?」
「千紗~~~~っ!」
長い長い静寂の中、やっとの思いでそれを破ったのは四郎と小次郎。
四郎は刀を肩に担ぎ、すぐ側で難しい顔をしながら千紗と秋成を見下ろし、小次郎は慌てふためいた様子で秋成と千紗の元へと駆け寄った。
だが、そんな二人の呼びかけに千紗からの反応はなかった。
「……千……紗?」
自分の上で全く動く気配のない千紗の名を、今にも泣きそうな弱々しい声で今度は秋成が呼ぶ。だがやはり、千紗からの反応はない。
「千紗、おい、大丈夫かっっ!?おいっっっ!!千紗っ!千紗っっ!!」
千紗の元へと辿り着いた小次郎が、激しく千紗の体を揺さぶりはじめる。
その呼びかけに、やっと千紗が反応を示した。
「…………耳元でうるさいぞ、小次郎」
気怠げにゆっくりと体を起こしながら小次郎を窘める千紗。
「ばっ……かやろう。心配かけやがって………」
千紗の無事な姿に安堵のあまりギュッと彼女を抱きしめる小次郎。
そんな彼の背中をぽんぽんと、軽くたたきながら千紗は「大袈裟な」と短く言葉を返した。と同時に小次郎の腕の中、千紗はある人物の姿を探しはじめる。
意外にもすぐ側にいたその人物に、千紗はニッコリと笑顔を浮かべ、仰ぎ見ながらながら感謝の言葉を述べた
「あぁ、頭。そこにおったか。お主のおかげで助かった。礼を言うぞ」
先ほどの騒動の中、寸での所でヒナの振り下ろした刀を止め、千紗を守ったのは四郎。
彼の咄嗟の行動に、千紗も秋成も救われたのだ。
そして四郎に礼を伝えた後には、虚な瞳で今なお荒い呼吸を続け座り込んでいるヒナの元へと視線を向ける。
自分を抱きしめる小次郎の腕を解き、ヒナへと体を向けた千紗は、四郎同様に彼女にも笑顔を崩さずこんな賛辞を送った。
「ヒナ、良かったな。お主、声が出るようになったではないか」
「……」
未だ焦点の定まらぬ瞳で荒い息を吐き続けるヒナの体をそっと抱き締め、まるで小さな子供をあやすようにに優しく声をかけ続ける千紗。
「すまなかったな。怖い思いをさせて。もう大丈夫じゃ。お主の事は妾が守ってやる。両親の分も妾が。だから、もう何も怖がらずともよい。大丈夫。大丈夫」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
何度も何度も言い聞かせる千紗の“大丈夫”の言葉に、不規則だったヒナの呼吸がだんだんと規則正しいものへと戻って行く。
そうしてヒナが落ち着きを取り戻したのを見届けた後には、ニッコリ彼女に向かって微笑み掛けると体を離し、今度は未だ情けなく仰向けに寝転び続ける秋成の方へと振り返った。
「で? お主はいつもでそうしているつもりだ?」
秋成の顔を覗き込み、呆れた様子で訪ねる千紗。
「あ……あぁ…………ち……さ……………ごめ………ごめんな………千紗……」
目の前に現れた千紗の姿に、秋成は今にも泣き出してしましそうな情けない顔と声で、途切れ途切れに謝罪の言葉を口にした。
そんな秋成の顔を両手で包み込むように挟みながら、柔らかな声で千紗は秋成を励ました。
「お主の責任ではない。気に病むな」
「だけど…………」
「構わない。髪くらい、またすぐに伸びる」
千紗は、不揃いに短くなった自身の髪を触りながらニッコリと優しい微笑みを浮かべて言った。
そう、先程の騒動で千紗が秋成を庇った際、四郎によって反らされたヒナの刀は、靡く千紗の長い髪をバッサリ切り落とされてしまったのだ。
貴族の娘にとって、髪は美しさの象徴と言われたこの時代。自分が彼女から、その大事な髪を奪ってしまった。その重い責に、秋成は激しい後悔と懺悔に苛まれていたのだ。
だが、当の本人である千紗は、ただただ落ち着きをはらっていて……
「秋成。ちょっと借りるぞ」
責任を感じ起き上がれないでいる秋成の手から短刀を奪うと、すっと立ち上がり、悠然と武士団の元へと近づいて行った。
その中にいる父親の姿を真っ直ぐ瞳に捉えながら。
騒ぎを聞きつけて、小次郎を始めとした摂関家藤原の屋敷に仕える武士団の者達がぞくぞくと千紗達の元へえと駆けつけて来た。
そして千紗の父である忠平を共に連れ、やっとの思いで駆けつけた小次郎だったが、その場の緊迫した状況に思わず息を呑む。
辺り一帯がしんと静まりかえる中、そこにはヒナがたてる不規則な荒い呼吸だけが響いていた。
地面に尻餅をつきながら、虚ろな瞳で目の前の光景を映すヒナ。
そこには、驚いた顔で仰向けに寝そべる秋成と、そんな秋成に覆いかぶさるようにして倒れる千紗、二人の姿があった。
「姫さん、無事か?」
「千紗~~~~っ!」
長い長い静寂の中、やっとの思いでそれを破ったのは四郎と小次郎。
四郎は刀を肩に担ぎ、すぐ側で難しい顔をしながら千紗と秋成を見下ろし、小次郎は慌てふためいた様子で秋成と千紗の元へと駆け寄った。
だが、そんな二人の呼びかけに千紗からの反応はなかった。
「……千……紗?」
自分の上で全く動く気配のない千紗の名を、今にも泣きそうな弱々しい声で今度は秋成が呼ぶ。だがやはり、千紗からの反応はない。
「千紗、おい、大丈夫かっっ!?おいっっっ!!千紗っ!千紗っっ!!」
千紗の元へと辿り着いた小次郎が、激しく千紗の体を揺さぶりはじめる。
その呼びかけに、やっと千紗が反応を示した。
「…………耳元でうるさいぞ、小次郎」
気怠げにゆっくりと体を起こしながら小次郎を窘める千紗。
「ばっ……かやろう。心配かけやがって………」
千紗の無事な姿に安堵のあまりギュッと彼女を抱きしめる小次郎。
そんな彼の背中をぽんぽんと、軽くたたきながら千紗は「大袈裟な」と短く言葉を返した。と同時に小次郎の腕の中、千紗はある人物の姿を探しはじめる。
意外にもすぐ側にいたその人物に、千紗はニッコリと笑顔を浮かべ、仰ぎ見ながらながら感謝の言葉を述べた
「あぁ、頭。そこにおったか。お主のおかげで助かった。礼を言うぞ」
先ほどの騒動の中、寸での所でヒナの振り下ろした刀を止め、千紗を守ったのは四郎。
彼の咄嗟の行動に、千紗も秋成も救われたのだ。
そして四郎に礼を伝えた後には、虚な瞳で今なお荒い呼吸を続け座り込んでいるヒナの元へと視線を向ける。
自分を抱きしめる小次郎の腕を解き、ヒナへと体を向けた千紗は、四郎同様に彼女にも笑顔を崩さずこんな賛辞を送った。
「ヒナ、良かったな。お主、声が出るようになったではないか」
「……」
未だ焦点の定まらぬ瞳で荒い息を吐き続けるヒナの体をそっと抱き締め、まるで小さな子供をあやすようにに優しく声をかけ続ける千紗。
「すまなかったな。怖い思いをさせて。もう大丈夫じゃ。お主の事は妾が守ってやる。両親の分も妾が。だから、もう何も怖がらずともよい。大丈夫。大丈夫」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
何度も何度も言い聞かせる千紗の“大丈夫”の言葉に、不規則だったヒナの呼吸がだんだんと規則正しいものへと戻って行く。
そうしてヒナが落ち着きを取り戻したのを見届けた後には、ニッコリ彼女に向かって微笑み掛けると体を離し、今度は未だ情けなく仰向けに寝転び続ける秋成の方へと振り返った。
「で? お主はいつもでそうしているつもりだ?」
秋成の顔を覗き込み、呆れた様子で訪ねる千紗。
「あ……あぁ…………ち……さ……………ごめ………ごめんな………千紗……」
目の前に現れた千紗の姿に、秋成は今にも泣き出してしましそうな情けない顔と声で、途切れ途切れに謝罪の言葉を口にした。
そんな秋成の顔を両手で包み込むように挟みながら、柔らかな声で千紗は秋成を励ました。
「お主の責任ではない。気に病むな」
「だけど…………」
「構わない。髪くらい、またすぐに伸びる」
千紗は、不揃いに短くなった自身の髪を触りながらニッコリと優しい微笑みを浮かべて言った。
そう、先程の騒動で千紗が秋成を庇った際、四郎によって反らされたヒナの刀は、靡く千紗の長い髪をバッサリ切り落とされてしまったのだ。
貴族の娘にとって、髪は美しさの象徴と言われたこの時代。自分が彼女から、その大事な髪を奪ってしまった。その重い責に、秋成は激しい後悔と懺悔に苛まれていたのだ。
だが、当の本人である千紗は、ただただ落ち着きをはらっていて……
「秋成。ちょっと借りるぞ」
責任を感じ起き上がれないでいる秋成の手から短刀を奪うと、すっと立ち上がり、悠然と武士団の元へと近づいて行った。
その中にいる父親の姿を真っ直ぐ瞳に捉えながら。
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