15 / 287
第一幕 京編
捕らわれ姫の企み
しおりを挟む
「兄貴~~~!!来た!来たよ!お姉ちゃんの迎えの奴が!」
「よし!かかったか!」
秋成の誘い込まれた場所から少し離れた所に位置する、ある寂れた神社。彼等が根城とし、千紗を囚えていたその場所に、慌ただしく駆け込んで来る者があった。
「ん?お主、どこかで見覚えが?」
駆け込んで来た人物に千紗は眉をしかめる。どこかで見覚えのあるような、そんな違和感を覚えて。
「あっ!お主!!さっき市で会った子供ではないか?」
暫く考え込んだ後で、やっと辿り着いた記憶の一致に「あっ」と叫ぶ。
そうだそうだ。先程秋成と二人、市の外れにいた時に、声を掛けてきた子供ではないか。確か名前を、春太郎と呼ばれていたか。
予期せぬ春太郎との再会に、千紗は驚かずにはいられなかった。
まさか、彼も賊の一人だったとは。
「ご、ごめんねお姉ちゃん。こんな事に巻き込んで……」
千紗の上げた声に、まるで責められているような気分になった春太郎は、申し訳ないと言った様子で謝る。
「よいよい。これも人助けじゃ」
「え?」
だが、千紗から返ってきた思いもかけなかった言葉に、今度は春太郎が声を出して驚いた。
そして、何故人質であるはずの彼女が、怯える様子もなく、自分達の頭と笑いあっているのか。
状況が呑み込めない春太郎は、兄貴と慕う頭の少年に説明を求めて視線を送った。
春太郎の戸惑いに、賊の頭である少年はフッと笑みを零し、ゆっくりと腰を上げ立ち上がった。
「面白い姫さんだろ。自分から進んで俺達に協力するって言うんだぜ」
「えぇ?? そうなの?」
「ってわけで姫さん。あんたは協力者であると同時に大事な人質だ。何かあったら困るから、今はまだここで大人しく待っていてく。俺はあんたを迎えに来た奴らの所へ行って来る」
「うむ。分かったぞ。妾はここで、大人しく待っておればよいのじゃな」
「あぁ。良い子で頼むぜ。それからヒナ、心配はいらないとは思うが、一応その姫さんは人質だから、姫さんが万が一にも逃げ出さないよう、お前はここで姫さんを見張っててくれ。頼んだぞ」
頭の少年から下された命令に、コクンと小さく頷くヒナ。
二人からの素直な返事に頭の少年は満足気に微笑むと、春太郎と共にこの寂れた神社を出て行った。
「…………」
「………………」
小さな寂れた神社の社の中、二人ポツンと残された千紗とヒナ。
まだ会って間もない二人の間に会話はない。
千紗と二人きりになった事で、ヒナは何故か言いようのない恐怖感から、この状況に緊張していた。
それもそのはず。先程からジリジリと、でも確実に自分との距離を詰めてきている千紗。
その顔には何かいけない事を企む悪人のような不敵な笑みが浮かんでいたのだから。
「ヒナ」
そしてヒナの恐怖に先に追い打ちをかけるように、千紗がヒナの名を呼んだ。
千紗の呼びかけにビクンと肩を震わせるヒナ。
恐る恐る千紗の顔を見たヒナに、千紗は更に不敵に笑いながら言った。
「お主に一つ、提案があるのだが」
提案?
一体彼女は、何を企んでいると言うのだろうか?
千紗が口にした提案の内容を聞くのが怖かったヒナは、今もまだジリジリと迫りくる千紗との距離を保とうと、一歩、また一歩と後ろへ下がっていく。
だが、遂には逃げ場を壁で塞がれてしまったヒナは万事休す。迫り来る恐怖に息を呑んだ。
そして――
「よし!かかったか!」
秋成の誘い込まれた場所から少し離れた所に位置する、ある寂れた神社。彼等が根城とし、千紗を囚えていたその場所に、慌ただしく駆け込んで来る者があった。
「ん?お主、どこかで見覚えが?」
駆け込んで来た人物に千紗は眉をしかめる。どこかで見覚えのあるような、そんな違和感を覚えて。
「あっ!お主!!さっき市で会った子供ではないか?」
暫く考え込んだ後で、やっと辿り着いた記憶の一致に「あっ」と叫ぶ。
そうだそうだ。先程秋成と二人、市の外れにいた時に、声を掛けてきた子供ではないか。確か名前を、春太郎と呼ばれていたか。
予期せぬ春太郎との再会に、千紗は驚かずにはいられなかった。
まさか、彼も賊の一人だったとは。
「ご、ごめんねお姉ちゃん。こんな事に巻き込んで……」
千紗の上げた声に、まるで責められているような気分になった春太郎は、申し訳ないと言った様子で謝る。
「よいよい。これも人助けじゃ」
「え?」
だが、千紗から返ってきた思いもかけなかった言葉に、今度は春太郎が声を出して驚いた。
そして、何故人質であるはずの彼女が、怯える様子もなく、自分達の頭と笑いあっているのか。
状況が呑み込めない春太郎は、兄貴と慕う頭の少年に説明を求めて視線を送った。
春太郎の戸惑いに、賊の頭である少年はフッと笑みを零し、ゆっくりと腰を上げ立ち上がった。
「面白い姫さんだろ。自分から進んで俺達に協力するって言うんだぜ」
「えぇ?? そうなの?」
「ってわけで姫さん。あんたは協力者であると同時に大事な人質だ。何かあったら困るから、今はまだここで大人しく待っていてく。俺はあんたを迎えに来た奴らの所へ行って来る」
「うむ。分かったぞ。妾はここで、大人しく待っておればよいのじゃな」
「あぁ。良い子で頼むぜ。それからヒナ、心配はいらないとは思うが、一応その姫さんは人質だから、姫さんが万が一にも逃げ出さないよう、お前はここで姫さんを見張っててくれ。頼んだぞ」
頭の少年から下された命令に、コクンと小さく頷くヒナ。
二人からの素直な返事に頭の少年は満足気に微笑むと、春太郎と共にこの寂れた神社を出て行った。
「…………」
「………………」
小さな寂れた神社の社の中、二人ポツンと残された千紗とヒナ。
まだ会って間もない二人の間に会話はない。
千紗と二人きりになった事で、ヒナは何故か言いようのない恐怖感から、この状況に緊張していた。
それもそのはず。先程からジリジリと、でも確実に自分との距離を詰めてきている千紗。
その顔には何かいけない事を企む悪人のような不敵な笑みが浮かんでいたのだから。
「ヒナ」
そしてヒナの恐怖に先に追い打ちをかけるように、千紗がヒナの名を呼んだ。
千紗の呼びかけにビクンと肩を震わせるヒナ。
恐る恐る千紗の顔を見たヒナに、千紗は更に不敵に笑いながら言った。
「お主に一つ、提案があるのだが」
提案?
一体彼女は、何を企んでいると言うのだろうか?
千紗が口にした提案の内容を聞くのが怖かったヒナは、今もまだジリジリと迫りくる千紗との距離を保とうと、一歩、また一歩と後ろへ下がっていく。
だが、遂には逃げ場を壁で塞がれてしまったヒナは万事休す。迫り来る恐怖に息を呑んだ。
そして――
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
水野勝成 居候報恩記
尾方佐羽
歴史・時代
⭐タイトルを替えました。
⭐『福山ご城下開端の記』もよろしくお願いします。
⭐福山城さま令和の大普請、完成おめでとうございます。
⭐2020年1月21日、5月4日に福山市の『福山城築城400年』Facebookでご紹介いただきました。https://m.facebook.com/fukuyama400/
備後福山藩初代藩主、水野勝成が若い頃放浪を重ねたあと、備中(現在の岡山県)の片隅で居候をすることになるお話です。一番鑓しかしたくない、天下無双の暴れ者が、備中の片隅で居候した末に見つけたものは何だったのでしょうか。
→本編は完結、関連の話題を適宜更新。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

本能寺燃ゆ
hiro75
歴史・時代
権太の村にひとりの男がやって来た。
男は、干からびた田畑に水をひき、病に苦しむ人に薬を与え、襲ってくる野武士たちを撃ち払ってくれた。
村人から敬われ、権太も男に憧れていたが、ある日男は村を去った、「天下を取るため」と言い残し………………男の名を十兵衛といった。
―― 『法隆寺燃ゆ』に続く「燃ゆる」シリーズ第2作目『本能寺燃ゆ』
男たちの欲望と野望、愛憎の幕が遂に開ける!
南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳
勇内一人
歴史・時代
第9回歴史・時代小説大賞奨励賞受賞作品に2024年6月1日より新章「材木商桧木屋お七の訴え」を追加しています(続きではなく途中からなので、わかりづらいかもしれません)
南町奉行所吟味方与力の貞永平一郎の一人息子、正太郎はお多福風邪にかかり両耳の聴覚を失ってしまう。父の跡目を継げない彼は吟味方書物役見習いとして南町奉行所に勤めている。ある時から聞こえない正太郎の耳が死者の声を拾うようになる。それは犯人や証言に不服がある場合、殺された本人が異議を唱える声だった。声を頼りに事件を再捜査すると、思わぬ真実が発覚していく。やがて、平一郎が喧嘩の巻き添えで殺され、正太郎の耳に亡き父の声が届く。
表紙はパブリックドメインQ 著作権フリー絵画:小原古邨 「月と蝙蝠」を使用しております。
2024年10月17日〜エブリスタにも公開を始めました。
拾われ子だって、姫なのです!
田古みゆう
歴史・時代
南蛮人、南蛮人って。わたくしはれっきとした倭人よ!
お江戸の町で与力をしている井上正道と、部下の高山小十郎は、二人の赤子をそれぞれ引き取り、千代と太郎と名付け育てることに。
月日は流れ、二人の赤子はすくすくと成長した。見目麗しい姿と珍しい青眼を持つため、周囲からは奇異の眼で見られる。こそこそと噂をされるたび、千代は自分は一体何者なのだろうかと、自身の出自について悩んでいた。唯一同じ青眼を持つ太郎と悩みを分かち合おうにも、何かを知っていそうな太郎はあまり多くを語らない。それがまた千代を悶々とさせていた。
そんな千代を周囲の者は遠巻きに見ながらも、その麗しさに心奪われる者は多く、やがて年頃の千代にも縁談話が持ち上がる。
しかし、当の千代はそんなことには興味がなく。寄ってくる男を、口八丁手八丁で退けてばかり。
果たして勝気な姫様の心を射止める者が、このお江戸にいるのかっ!?
痛快求婚譚、これよりはじまりはじまり〜♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる