3 / 285
第一幕 京編
お転婆姫
しおりを挟む
それから八年の月日が流れ――
まだ幼かった賊の男の子は、千紗から秋成と言う名を貰い、小次郎と同じ武士団に所属するようになっていた。歳は十六になろうとしており、そろそろ元服を控えている。
二人より年上だった小次郎は二十三を迎え、政治の世界にも少しずつ参加するようになっていた。
秋成より一つ年下、十五歳になった姫はと言うと、数多の男から求婚を迫られる程の美しい娘に成長し――
「姫様~、危のうございます! そのような事はお辞めください」
「千紗、お前何やってんだ! 危ないから早くそこから降りて来い!!」
「何を言うておる秋成!この雛鳥を親元に返してやらねば可哀想ではないか」
――成長し?
「だからって……お前がそんな事しなくても。木なら俺が登る。俺がそいつを親元に返してやるから」
「妾が返してやりたいのじゃ。秋成は黙ってそこで見ておれ」
「お前なぁ~、もしお前に何かあったら、俺が忠平様や義父上に怒られるんだぞ。分かってんのか」
――相も変わらずのお転婆娘に成長しておりました。
「よ……し……あと少……し………………届いた!……あ?!」
「千紗っ?!」
“ドスン”と大きな音が辺りに響く。
「だからやめろって……言ったのに………。重い……早く退け……」
「何をやっておるか秋成。何故しかと受けとめぬ。妾の着物が汚れてしまったではないか」
鳥の巣に雛鳥を戻した瞬間、姫はバランスを崩し木から落ちてしまった。それを受け止めようと秋成は急いで駆け寄ったのだが、木の根に蹴躓き、不覚にもお転婆姫の下敷きにされてしまったのだ。
そんな秋成をパカスカ殴り、叱りつける千紗姫。八年経っても相変わらずな、二人のいつもの微笑ましい光景。
だが、そんな和やかな空気に水をさすように声が掛かった。
「千紗。お前は十五にもなって、またそのような危ない遊びをしおって」
「父上」
「忠平様……」
「千紗、お前に話がある。私の部屋に来なさい」
冷たい声で吐き捨てるように言うと、千紗姫の父親、忠平はスタスタと屋敷の奥へと姿を消して行った。その後を追うように千紗もまた屋敷へと姿を消して行く。
「お前も大変だな。あの我が儘姫様の護衛だなんて。俺なら御免だぁ」
ふと屋敷の庭から二人の姿を見送る秋成のもとに、同じ武士団の仲間が声を掛けて来た。
「確かにな。俺も最初はそう思ったよ。でも……」
秋成は昔を思い返してふっと笑みを浮かべた。
「その我が儘が人を思いやってものだと分かったら、苦じゃなくなった」
そう。千紗のあの強気な性格の裏側にあった、不器用な優しさに触れたら――
◇◇◇
――八年前、俺は俺を助けてくれた少女に恩を感じながらも、いつも我が儘ばかりのその性格にウンザリしていた。
恩があるとは言え、どうしてこんな我が儘な奴に振り回されなければならないのか。義父に与えられた千紗の護衛の任が、俺は嫌で嫌で仕方がなかったんだ。
けれど、それが条件で左大臣家、藤原の屋敷に置いてもらえるようになったわけで、不満を感じながらも俺は生きる為にどうする事も出来なかった。
でも、あの日――
激しい嵐の夜に震えながらも必死に弟君を護ろうとしていた姿を見て、少女への思いが一変した。
まだ幼かった賊の男の子は、千紗から秋成と言う名を貰い、小次郎と同じ武士団に所属するようになっていた。歳は十六になろうとしており、そろそろ元服を控えている。
二人より年上だった小次郎は二十三を迎え、政治の世界にも少しずつ参加するようになっていた。
秋成より一つ年下、十五歳になった姫はと言うと、数多の男から求婚を迫られる程の美しい娘に成長し――
「姫様~、危のうございます! そのような事はお辞めください」
「千紗、お前何やってんだ! 危ないから早くそこから降りて来い!!」
「何を言うておる秋成!この雛鳥を親元に返してやらねば可哀想ではないか」
――成長し?
「だからって……お前がそんな事しなくても。木なら俺が登る。俺がそいつを親元に返してやるから」
「妾が返してやりたいのじゃ。秋成は黙ってそこで見ておれ」
「お前なぁ~、もしお前に何かあったら、俺が忠平様や義父上に怒られるんだぞ。分かってんのか」
――相も変わらずのお転婆娘に成長しておりました。
「よ……し……あと少……し………………届いた!……あ?!」
「千紗っ?!」
“ドスン”と大きな音が辺りに響く。
「だからやめろって……言ったのに………。重い……早く退け……」
「何をやっておるか秋成。何故しかと受けとめぬ。妾の着物が汚れてしまったではないか」
鳥の巣に雛鳥を戻した瞬間、姫はバランスを崩し木から落ちてしまった。それを受け止めようと秋成は急いで駆け寄ったのだが、木の根に蹴躓き、不覚にもお転婆姫の下敷きにされてしまったのだ。
そんな秋成をパカスカ殴り、叱りつける千紗姫。八年経っても相変わらずな、二人のいつもの微笑ましい光景。
だが、そんな和やかな空気に水をさすように声が掛かった。
「千紗。お前は十五にもなって、またそのような危ない遊びをしおって」
「父上」
「忠平様……」
「千紗、お前に話がある。私の部屋に来なさい」
冷たい声で吐き捨てるように言うと、千紗姫の父親、忠平はスタスタと屋敷の奥へと姿を消して行った。その後を追うように千紗もまた屋敷へと姿を消して行く。
「お前も大変だな。あの我が儘姫様の護衛だなんて。俺なら御免だぁ」
ふと屋敷の庭から二人の姿を見送る秋成のもとに、同じ武士団の仲間が声を掛けて来た。
「確かにな。俺も最初はそう思ったよ。でも……」
秋成は昔を思い返してふっと笑みを浮かべた。
「その我が儘が人を思いやってものだと分かったら、苦じゃなくなった」
そう。千紗のあの強気な性格の裏側にあった、不器用な優しさに触れたら――
◇◇◇
――八年前、俺は俺を助けてくれた少女に恩を感じながらも、いつも我が儘ばかりのその性格にウンザリしていた。
恩があるとは言え、どうしてこんな我が儘な奴に振り回されなければならないのか。義父に与えられた千紗の護衛の任が、俺は嫌で嫌で仕方がなかったんだ。
けれど、それが条件で左大臣家、藤原の屋敷に置いてもらえるようになったわけで、不満を感じながらも俺は生きる為にどうする事も出来なかった。
でも、あの日――
激しい嵐の夜に震えながらも必死に弟君を護ろうとしていた姿を見て、少女への思いが一変した。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

金蝶の武者
ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。
関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。
小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。
御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。
「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」
春虎は嘆いた。
金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
戦国三法師伝
kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。
異世界転生物を見る気分で読んでみてください。
本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。
信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる