176 / 176
春物語
無愛想な男
しおりを挟む
“コンコン”
俺とお姉さんの自己紹介が一段落した所で、まるで見計らったかのようなタイミングで、外から病室のドアを叩く音がした。
お姉さんはベッド脇のテレビ台の上に置かれた時計に目をやると、「あぁ、もうそんな時間かと」独り言を呟く。
と、その後で、俺に向かって「ごめんね、主治医の先生が来たみたい。ちょっと待っててくれるかな」と説明した。
俺がコクンと頷くと、お姉さんは病室の外に向かって「どうぞ」と返事をした。
ドアが開く音がした後で、ペタペタとサンダルをずるような、何処かだるそうな足音が病室内へと入って来る。
診察の邪魔をしては行けないと、それまでいた場所から、俺は反対側の、窓際へと移動する。
と、丁度移動を終えたタイミングでカーテンが開かれて、白衣を纏った若い男が気だるげに姿を現した。
「おぉ、今日は大人しく病室にいたか。偉い偉い」
医者らしき男は、さほどお姉さんと歳も変わらない見た目をしている。
だというのに、患者であるお姉さんの頭を何とも馴れ馴れしくワシャワシャと撫で付けて、俺は思わずギョッとした顔で男を見た。
お姉さんはと言えば、迷惑そうに「先生、痛いよ」と返していた。
お姉さんから「先生」と呼ばれた男を改めてまじまじと見ながら、俺は一人顔を歪める。
この男が本当にお姉さんの主治医?
だとしたら、何と頼りない医者だろうかと。
医者と言うにはあまりにも若すぎる。
そのくせ髪は、男のくせに肩につくだろうかと言う長髪を、豚のしっぽの如く後ろで一つに結んでいる。
口元には無精髭をはやして、白衣の下のYシャツは皺だらけ。しかもズボンからだらしなくはみ出してるし。
ふと胸元に視線を落とせば、「沢田」とかかれた名札がつけられていて、そこには研修中の文字が名前以上にでかでかと書かれかていた。
あぁ、成る程、この男、研修医か。
どうりで見た目が若いわけだと俺は妙に納得した。
……にしても、汚ならしい。
医者のくせにその髪と髭はありなのか?
こんな奴がお姉さんの主治医なんて、本当に大丈夫なのか?
そんな疑心暗鬼を抱きながら、じろじろと医者の男を観察していると、突然に視線が絡まって、ギロリと睨み付けられてしまった。
一瞬怯んでビクンと肩を跳ねあがらせるも、ふと自分が今、置かれていた立場を思い出して、恐怖心をすぐに解いた。
そう言えば今の俺は幽霊だ。人から姿の見えない幽霊が、人から睨み付けられるわけはないか。
睨まれたと思ったのはきっと気のせいだと納得しかけた時、「おい、お前」と低い声が俺に向かって飛んできて
「……え?」
「いつまでそこにいるつもりだ?」
迷いのない視線でしっかりと俺を捉えながら、医者の男は俺にそう問いかけた。
「え? 沢田先生見えてるの?」
俺の驚きを代弁するかのように、俺より先にお姉さんが声を上げる。
「あ? 何が」
「だから、そこにいる男の子」
「は? 当たり前だろ」
「いや、実はそれ、当たり前じゃなくて――」
そこまで言ってお姉さんは、俺が幽霊である事を医者の男に語り始めた。
男は別段驚いた様子もなく、「ふ~ん」と対して興味もなさそうに聞いていた。
「幽霊だろうが人間だろうが別にどうでも良いが、俺はこいつを診察しに来てんだよ。お前がそこにいたらいつまでたっても診察できねぇだろ」
医者の男の乱暴な物言いに、驚きも忘れて俺がムッとしていると、お姉さんが間に入って助け船を出してくれた。
「え? どうして? 別に裕樹君いても構わないんじゃ」
「構うだろ。お前裸見られても恥ずかしくないのか?」
医者の男の言葉に、お姉さんの裸を想像してしまった俺は、一瞬にして顔を紅く染めながら狼狽えた。
「あぁ~、成る程。それは流石にまずいかな。ごめんね裕樹君、ちょっとの間外で待っててくれるかな?」
お姉さんからのお願いに、俺はコクコクと何度も頷いて、まるで逃げるように病室から出て行った。
俺とお姉さんの自己紹介が一段落した所で、まるで見計らったかのようなタイミングで、外から病室のドアを叩く音がした。
お姉さんはベッド脇のテレビ台の上に置かれた時計に目をやると、「あぁ、もうそんな時間かと」独り言を呟く。
と、その後で、俺に向かって「ごめんね、主治医の先生が来たみたい。ちょっと待っててくれるかな」と説明した。
俺がコクンと頷くと、お姉さんは病室の外に向かって「どうぞ」と返事をした。
ドアが開く音がした後で、ペタペタとサンダルをずるような、何処かだるそうな足音が病室内へと入って来る。
診察の邪魔をしては行けないと、それまでいた場所から、俺は反対側の、窓際へと移動する。
と、丁度移動を終えたタイミングでカーテンが開かれて、白衣を纏った若い男が気だるげに姿を現した。
「おぉ、今日は大人しく病室にいたか。偉い偉い」
医者らしき男は、さほどお姉さんと歳も変わらない見た目をしている。
だというのに、患者であるお姉さんの頭を何とも馴れ馴れしくワシャワシャと撫で付けて、俺は思わずギョッとした顔で男を見た。
お姉さんはと言えば、迷惑そうに「先生、痛いよ」と返していた。
お姉さんから「先生」と呼ばれた男を改めてまじまじと見ながら、俺は一人顔を歪める。
この男が本当にお姉さんの主治医?
だとしたら、何と頼りない医者だろうかと。
医者と言うにはあまりにも若すぎる。
そのくせ髪は、男のくせに肩につくだろうかと言う長髪を、豚のしっぽの如く後ろで一つに結んでいる。
口元には無精髭をはやして、白衣の下のYシャツは皺だらけ。しかもズボンからだらしなくはみ出してるし。
ふと胸元に視線を落とせば、「沢田」とかかれた名札がつけられていて、そこには研修中の文字が名前以上にでかでかと書かれかていた。
あぁ、成る程、この男、研修医か。
どうりで見た目が若いわけだと俺は妙に納得した。
……にしても、汚ならしい。
医者のくせにその髪と髭はありなのか?
こんな奴がお姉さんの主治医なんて、本当に大丈夫なのか?
そんな疑心暗鬼を抱きながら、じろじろと医者の男を観察していると、突然に視線が絡まって、ギロリと睨み付けられてしまった。
一瞬怯んでビクンと肩を跳ねあがらせるも、ふと自分が今、置かれていた立場を思い出して、恐怖心をすぐに解いた。
そう言えば今の俺は幽霊だ。人から姿の見えない幽霊が、人から睨み付けられるわけはないか。
睨まれたと思ったのはきっと気のせいだと納得しかけた時、「おい、お前」と低い声が俺に向かって飛んできて
「……え?」
「いつまでそこにいるつもりだ?」
迷いのない視線でしっかりと俺を捉えながら、医者の男は俺にそう問いかけた。
「え? 沢田先生見えてるの?」
俺の驚きを代弁するかのように、俺より先にお姉さんが声を上げる。
「あ? 何が」
「だから、そこにいる男の子」
「は? 当たり前だろ」
「いや、実はそれ、当たり前じゃなくて――」
そこまで言ってお姉さんは、俺が幽霊である事を医者の男に語り始めた。
男は別段驚いた様子もなく、「ふ~ん」と対して興味もなさそうに聞いていた。
「幽霊だろうが人間だろうが別にどうでも良いが、俺はこいつを診察しに来てんだよ。お前がそこにいたらいつまでたっても診察できねぇだろ」
医者の男の乱暴な物言いに、驚きも忘れて俺がムッとしていると、お姉さんが間に入って助け船を出してくれた。
「え? どうして? 別に裕樹君いても構わないんじゃ」
「構うだろ。お前裸見られても恥ずかしくないのか?」
医者の男の言葉に、お姉さんの裸を想像してしまった俺は、一瞬にして顔を紅く染めながら狼狽えた。
「あぁ~、成る程。それは流石にまずいかな。ごめんね裕樹君、ちょっとの間外で待っててくれるかな?」
お姉さんからのお願いに、俺はコクコクと何度も頷いて、まるで逃げるように病室から出て行った。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる