願いが叶うなら

汐野悠翔

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春物語

家出の果てに

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どこまで行っても田んぼばかりの暗い田舎道を、俺は一人スクーターで走り続けた。


ふと気が付くと、抑えきれない苛立ちが大きな叫びとなって俺の口から溢れていた。



「…………ったく、口を開けばやれ医者になれだの、病院を継げだの、医大に行けだの、ホンットに鬱陶しい!! 俺は好きで母さんの田舎に来たわけじゃないんだ。俺は父さんと一緒に宮城に居たかったんだ。なのに、それを無理矢理連れて来られて、その上更に俺の将来にまで口をだされてたまるか! 俺の将来は俺が決める!」


『ならお前は将来何になりたいんだ? 医者に代わるお前の夢はあるのか?』


「……えっ?」



俺の叫びに、どこからともなく不思議な声が返された。
俺は驚き、急ブレーキをかける。



「だ、誰だっ?!」



右や左、前や後ろとキョロキョロ周囲見渡しながら、俺は今さっき聞こえてきた声の主を探す。


だが、こんな田んぼだらけの田舎道に、しかも夜も遅い時間に、自分以外誰の姿もありはしない。

ならいったいさっきの声は何処から聞こえてきたのか?


「………」


解けない疑問に、気のせいだったのかと首を傾げながらも俺は、再びスクーターを走らせた。



『お前の夢は?  お前は未来に何を目指している? 何か明確に叶えたい夢はあるのか?』


「…………」


『何故黙っている?  俺の声は聞こえているんだろう? 黙るという事は、答えられないと言う事か?』


「……………」


『お前のその怒りは、ただ大人の言いなりにはなりたくないっていう反抗心からじゃないのか?』



だが、やはり気のせいなどではなく、誰もいないはずの公道のどこから、確かに声が聞こえてくる。


しかも一方的に疑問符ばかりを投げつけられて、責められているかのような状況に、俺はイライラしながらスクータを走らせたまま怒鳴り声を上げる。



「うるせぇ! 黙って聞いてれば、何処の誰だかしらないが、お前に何が分かる! お前に俺の何が分かるって言うんだ!!」


『分からない。だからお前の事が知りたくて、尋ねているんだ。もし将来なりたい夢がまだ定まっていないのならば、お前の未来を俺に預けてはくれないか?』


「はぁ? 何わけの分からない事を言ってやがる!」


『お前に1つ頼みたい事があるんだ。月岡裕樹、どうしてもお前に、頼みたい事が……』


「いい加減にしろ! 頼みたい事があるって言うなら、まずはちゃんと姿を現せ! 面と向かってお願いしてみせろ! 話はそれからだ」


『いるさ、お前のすぐ隣に。ただお前には見えていないだけで、俺はお前のすぐ隣にいる』



「なっ………」



謎の声から返された言葉に驚いて、俺は反射的に横を見た。

瞬間、俺はバランスを崩して、走らせていたスクーターごと派手に転倒してしまう。


「うっ、うわぁぁぁ~~~?!」



情けない悲鳴をあげながら、俺の体は宙を舞う。
そして次に体を地面に叩きつけられたような強い衝撃を感じた後に俺は意識を手放した。





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