願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

冬の終わり 春の訪れ

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「あ、葵葉来た!もう、遅いよ~」

「ごめんなさい。ちょっと色々あって」


――そして、約束の日曜日がやってきた。


約束の時間より10分遅れて、美術館のある待ち合わせの駅へとたどり着いた私を、安藤さんが手を振りながら呼んでいる。


「あれ? その後ろの人は?」

「あ、うちのお兄ちゃんです。出掛けに捕まっちゃって、自分もついて行くって訊かなくて……」

「男と一緒に出掛けると聞いたからな、監視のためについて来た。僕も一緒に同行させてもらうぞ」


お兄ちゃんは、井上君と月岡先輩を威嚇しながら、私と一緒にきた理由を説明する。

大学生になっても、相変わらず過保護なお兄ちゃんに、私は深い深いため息を吐いた。


「何? 白羽の兄貴ってシスコンなの?」


楽しそうに井上君が訊いてくる。


「はい。それはもうかなりの。だからどうしても一緒に行くって訊かなくて。すみません。ご迷惑だったら言って下さい。無理やりにでも帰らせますので」

「いいじゃんいいじゃん。人数多い方が楽しいし。じゃあ皆揃った事だし、行きますか」


うんざり顔で答えた私の背中を励ますようにポンと叩きながら、安藤さんは皆にそう呼び掛けた。

安藤さんの掛け声に、ぞろぞろと歩き出す私達。


わいわいと賑やかに美術館を目指すその道に、八幡神社と書かれた神社を見つけて私は一人立ち止まる。

鳥居の奥に建つ小さなお社を眺めながら神耶君の姿を思い出していた。



(――拝啓 神耶君

今日私は、皆と一緒に県の美術館に来ています。これから神耶君の事を描いた絵を一緒に見に行く所です。

神耶君のおかげで今私はとても充実した日々を過ごしています。

今の私の姿、神耶も何処かで見てくれてるのかな?
きっと見てくるてるよね。

私頑張るからね。神耶君のいないこの世界で、皆と一緒に頑張って生きて行くから。

だからこれからも私の事、見守っててね――)



心の中、彼に向かってそう語りかける私の頬を爽やかな風が撫でて行く。

何だか神耶君が私の声に応えてくれてるみたいで笑みが零れた。


「お~い葵葉~? 何立ち止まってるの? 早く来ないと置いてくよ~」

 
私を呼ぶ安藤さんの声に視線をむけると、いつの間にか皆はだいぶ先を歩いていて


「は~い。今行きま~す」


私はそう短く返事をしながらみんなの元へと駆けて行く。


「すみません、お待たせしました」


そして、そう言いながら私は右手に安徳さんの腕を、左手に月岡先輩の腕を掴んで抱きついた。


「え、ちょっ……葵葉? 急にどうしたの?」

「あれ~可奈子、ちょっと顔が赤くなってる? 何照れてるのよ」

「な、別に照れてないって!変な事言わないでよ咲良」

「あぁぁ~~お前!何葵葉とくっついてるんだ!  今すぐ離れろ!」

「はぁ? 俺は何もしてねぇ! こいつが勝手にくっついて来たんだろ」

「言い訳なんてどうでも良い。とっとと葵葉から離れろ!」

「あはは、お兄さん面白いっすね。今のは先輩何も悪くないのに」

「なぁ、そうだよな。俺は何も悪くないよなぁ」


春の麗らかな空の下、美術館を目指し歩く私達の間にはそんな賑やかな声がいつまでもいつまでも溢れていた。




願いが叶うなら ー冬物語ー 
fin


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