願いが叶うなら

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
160 / 181
冬物語

変わり行く世界

しおりを挟む
その日から少しずつ私はクラスの輪に溶け込めるようになって行った。

特に安藤さんと、安藤さんと仲の良い石川咲良さんが私の事を気にかけてくれて――


「あぁー今日の体育最悪だったんだけど。バレーボールとかさ、腕が内出血起こして震えてるんだけど。こんな手じゃろくにペンも握れないっての。いいわよね白羽はいつも見学で」


体育の授業終わり、今も保健室から一人教室へと戻る私に廊下でバッタリ出会った安藤さんと石川さんが声を掛けてきてくれた。


「あの……えっと……ごめんなさい……」



そして謝る私の隣に並ぶと、二人は私の歩幅に合わせて会話を続けた。


「だからそこは謝る所じゃなくて、逆にいいでしょ~って自慢するくらいの返しが欲しいんだって。じゃなきゃまた私がいじめてるみたいになるじゃん。ねえ、咲良さくら

「え~でも私、可奈子と白羽の凸凹コンビ結構面白くて好きだよ。ヤンキーと真面目ちゃんのその噛み合わない感じの会話がさ」

「ヤンキーって酷いな咲良。確かにあたし見た目は派手目だけど、中身は結構真面目でしょ?」

「そうね。可奈子はその見た目と、思った事を臆せず言葉に出せる良くも悪くもサバサバした性格で損してるタイプだよね。意外と成績良いし」

「でしょ~。だから白羽もそんなにかしこまらずに、もっと砕けて話して欲しいんだけど」

「そう……ですか? 」

「そうそう」

「なら……私の本音を言わせてもらえば、私は皆さんの方が羨ましいです。私も皆さんと一緒に体育の授業に参加したい。バレーもやってみたかったです。体育の授業中はいつも保健室に皆さんの賑やかで楽し気な声が聞こえてきて、どうして私だけ一人ここにいるんだろう、私もあの輪の中に入りたいのにって、いつもいつも羨ましく思うんです。だから私は皆さんが羨ましい」

「……そっか。白羽はいつもそんな風に思ってたんだね」


私の本音に、それまでの安藤さん達の元気な声がどこかシュンとしたものに変わった。

空気を悪くさせてしまったかと私は慌てて謝る。


「ごめんなさい。こんな話をしてなんだか空気を沈ませてしまいました。ごめんなさい。だからあまり言わないようにしてたんですけど……安藤さんの言葉に甘えて本音を語り過ぎました。本当にすみません。今のは本当、気にしないでください」

「そっか、だからずっと病気の事を隠してたんだね。周りに気を使わせたくないって」

「…………」

「ごめん、あたし達本当にあんたの事何も知らずに今まで酷い事ばっか言って……」

「そんな、隠してた私が悪いので」

「よし! 分かった!ならさ、やろうよバレー。体育の授業みたいにがっつりした試合形式のバレーじゃなくてさ、玉遊びくらいの軽いやつ。昼休みとか利用して、いつかやろうよ」

「え?」

「え? って、遊びもダメなの? 」

「……いえ、やりたいです。私もバレーやってみたいです!」

「決まりだね。じゃあ咲良と私と白羽だけじゃなくて、他にも何人かクラスの子達に声掛けてみるね」

「そだね。人数多い方が盛り上がるし」

「あ、ありがとう……ございます。凄く……嬉しいです」

「「そんな大袈裟な」」

「大袈裟じゃないです。皆でバレーなんて初めてだから……本当に凄く嬉しいです」


興奮気味に語る私に、一瞬顔を見合せる安藤さんと石川さん。

二人はどこか嬉しくそうに微笑みあっていた。


「そっか。ならよかった。そろそろ次の授業始まるね。ちょっとのんびりしすぎちゃったな。あたしと咲良は更衣室で着替えてから戻るからここで」

「じゃあね、白羽」

「あ、はい。では、お先に失礼します」


ヒラヒラと私に向かって手を振る二人を見送りながら、その後私は一足先に教室へと戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...