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冬物語
タイムリミット
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ほどけた小指をいとおしそうに見つめながら、神耶君は、満足そうに微笑んで言った。
「ありがとう、葵葉。最後にちゃんと話せて良かった」
「……うん」
「あぁ、それから、一ついい忘れてたけど……」
「……なぁに?」
「その格好、似合ってるよ。可愛い」
思いがけず突然掛けられた言葉に、私の顔がかぁっと熱くなるのが分かって、思わず私は彼から顔を背けた。
「神耶君の……バカ……」
「何でだよ」
「このタイミングで言うなんて……ズルい……」
「最後くらいは素直になっとかねぇとと思って。ほら、残念だけど、もうタイムリミットみたいだし」
「……え?」
タイムリミットと、溢す神耶君の言葉に再び顔を上げると、彼の体はうっすら透けはじめていて――
慌てて彼の元へ手を伸ばそうとすると、私の体は急にふわりと宙に浮いて、私達の体はゆっくり地面へと降りて行く。
突然体が浮かぶ感覚に驚き辺りを見回せば、参拝に訪れていた人達が皆一斉に動きを止めていた。
「じゃあな、葵葉。どうか元気で」
別れを口にする神耶君に、慌てて彼の方を振り返れば、先ほどよりも更には体が透けていて、彼の周りにはキラキラと光るたくさんの光の粒子が飛んでいた。
そしてその光の粒子は彼の元を離れるように星が瞬く夜空に向かって舞い上がって行く。
「嫌! 行かないで……お願いだから……私を一人にしないで……」
目の前から神耶君が消えてしまう!
私はすがるように彼の体に抱きついて、行かないでと懇願した。
けれど、もう神耶君の体に触れる事はできなくて――
抱きつこうと彼に向けて回した私の手は空しく宙をかいた。
「…………」
そんな私の姿に神耶君はニコリと微笑みを浮かべると、今度は神耶君の方から私に向かって腕を伸ばし、体を近付けてきたかと思うとそっと私のおでこにキスを落とした。
彼の行動に驚き見上げた私を、彼はとても穏やかな顔で見つめている。
そして最後に小さく口許が動いたのが分かった。
「好きだよ、葵葉」と。
「っ…………」
その言葉を最後に、神耶君の体は完全に私の前から消えた。
神耶君の体から放たれた光だけが、ただ静かに、夜空に向かって舞い上がって行った。
「私も……大好きだよ……神耶君……」
神耶が最後、残してくれた言葉に応えながら、私の頬には一滴の涙が静かに流れ落ちた。
「ありがとう、葵葉。最後にちゃんと話せて良かった」
「……うん」
「あぁ、それから、一ついい忘れてたけど……」
「……なぁに?」
「その格好、似合ってるよ。可愛い」
思いがけず突然掛けられた言葉に、私の顔がかぁっと熱くなるのが分かって、思わず私は彼から顔を背けた。
「神耶君の……バカ……」
「何でだよ」
「このタイミングで言うなんて……ズルい……」
「最後くらいは素直になっとかねぇとと思って。ほら、残念だけど、もうタイムリミットみたいだし」
「……え?」
タイムリミットと、溢す神耶君の言葉に再び顔を上げると、彼の体はうっすら透けはじめていて――
慌てて彼の元へ手を伸ばそうとすると、私の体は急にふわりと宙に浮いて、私達の体はゆっくり地面へと降りて行く。
突然体が浮かぶ感覚に驚き辺りを見回せば、参拝に訪れていた人達が皆一斉に動きを止めていた。
「じゃあな、葵葉。どうか元気で」
別れを口にする神耶君に、慌てて彼の方を振り返れば、先ほどよりも更には体が透けていて、彼の周りにはキラキラと光るたくさんの光の粒子が飛んでいた。
そしてその光の粒子は彼の元を離れるように星が瞬く夜空に向かって舞い上がって行く。
「嫌! 行かないで……お願いだから……私を一人にしないで……」
目の前から神耶君が消えてしまう!
私はすがるように彼の体に抱きついて、行かないでと懇願した。
けれど、もう神耶君の体に触れる事はできなくて――
抱きつこうと彼に向けて回した私の手は空しく宙をかいた。
「…………」
そんな私の姿に神耶君はニコリと微笑みを浮かべると、今度は神耶君の方から私に向かって腕を伸ばし、体を近付けてきたかと思うとそっと私のおでこにキスを落とした。
彼の行動に驚き見上げた私を、彼はとても穏やかな顔で見つめている。
そして最後に小さく口許が動いたのが分かった。
「好きだよ、葵葉」と。
「っ…………」
その言葉を最後に、神耶君の体は完全に私の前から消えた。
神耶君の体から放たれた光だけが、ただ静かに、夜空に向かって舞い上がって行った。
「私も……大好きだよ……神耶君……」
神耶が最後、残してくれた言葉に応えながら、私の頬には一滴の涙が静かに流れ落ちた。
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