願いが叶うなら

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
155 / 180
冬物語

真実が語られる時

しおりを挟む
「どうした葵葉? さっきまで楽しそうだったのに、急に不機嫌になって」


お面屋の前を離れて暫く歩いたところで、神崎君が不思議そうな顔でそう訊ねてくる。



「別に、不機嫌になんかなってないよ……」

「そうか? でも怖い顔になってるぞ。お前、はしゃいでたから少し疲れたんだろ。そうだ、少しどっかで休憩するか」


「…………うん」



神崎の提案に、私達は人混みを離れて、神社の入り口にある鳥居の近くまでやってきた。


「ここなら人も少ないし、お前と少しゆっくり話せそうだな」

「……うん。そうだね」


神崎君からの提案に、私が小さく返事をすると突然に、体がふわりと浮くような、不思議な感覚を覚えた。

そして、自分の視界がゆっくりと徐々に高くなって行くのを感じた。


「……え?」


驚いて下を見る。
と私の体は宙に浮かんでいて――

鳥居の一番上の高さまでくると、不思議な力によって私の体はふわりと鳥居の上に座らされた。


「どうして……」

「……何が?」

「どうして力を使ったの? せっかく頑張って気付いてない振りをしてたのに」


今の出来事に驚くでもなく、鳥居の上、隣に座る神崎を責める私。

神崎君――ううん、神耶君は笑いながら言った。


「やっぱり、全部思い出したんだな」


嘘。私にわざととしてたくせに。

狐のお面だってそうだ。神崎君は、わざと神耶君の記憶に繋がるものを選んだ。

初詣に行く途中、たくさんの出店を回りたいと言った私に、回れる限りの出店を回ろうと言ってくれた時、『それが約束だから』と溢したあの台詞も、きっとわざだ。

神耶君の意図に気付きながらも、それでも私は意地になって気付いてないふりを続けた。


「違う。思い出してない。私は何も思い出してないし、何も知らないよ」

「もういい、もう十分だ。俺は最後に十分楽しませてもらった。ありがとな葵葉」


今、確かに神崎君が口にしたの言葉に、
私は意地をはるのも忘れて、今日一日ずっと不安に思っていた事柄を、すがるように尋ねていた。


「嫌……嫌だよ……やっぱり神耶君は私の前からまた消えるつもりなの?」

「あぁ、そろそろタイムリミットだ。あと30分もすれば、俺は完全にこの世から消滅する」

「タイムリミットってどう言うこと? どうして私の前から消えようとするの?」

「…………覚えてるか? 前に話した1月1日が俺の……朔夜の誕生日だって話」


その話しは勿論覚えている。ほんの一週間前の話だ。
誕生日だから祝って欲しいと、今日初詣に行く事を誘われたのだ。

けれど、その話と私の質問に、何の関係があるのか、神耶君が言わんとしている事がわからなくて私は首を傾げた。


「俺の名前、『朔夜』って言うのは、人間だった頃の俺の本当の名前なんだ。俺が生まれた時に両親が与えてくれた、最初で最後の贈り物」

「……え? 」

「1月1日の、朔月の夜に生まれたから朔夜って言うんだって。だから1月1日が俺の誕生日って言うのは本当の話」


神耶君はいとおしげに月のない夜空を眺めながらそう話してくれた。


「それでさ、俺が消滅する前に師匠が言ったんだよね。最後に1つだけ、俺の願いを叶えてくれるって。今まで神として頑張ってきたご褒美だって。だから俺は願ったんだ。もう一度お前の笑顔が見たいって。お前と笑顔でさよならしたいって。そしたら師匠が俺をもう一度人間に戻してくれた。お前を笑顔に出きるのは俺だけだから、自分の力で葵葉を笑顔にしてみせろって。そう言って、条件付きで俺を人間に戻してくれた」

「……条件?」

「そう。1つ目の条件は俺の正体がお前にバレない事。そして2つ目の条件は――俺がお前の側にいられるのは12月31日の11時59分までって言う期限付きだって事。それが師匠から出された条件」

「そんな……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...