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冬物語
真実が語られる時
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「どうした葵葉? さっきまで楽しそうだったのに、急に不機嫌になって」
お面屋の前を離れて暫く歩いたところで、神崎君が不思議そうな顔でそう訊ねてくる。
「別に、不機嫌になんかなってないよ……」
「そうか? でも怖い顔になってるぞ。お前、はしゃいでたから少し疲れたんだろ。そうだ、少しどっかで休憩するか」
「…………うん」
神崎の提案に、私達は人混みを離れて、神社の入り口にある鳥居の近くまでやってきた。
「ここなら人も少ないし、お前と少しゆっくり話せそうだな」
「……うん。そうだね」
神崎君からの提案に、私が小さく返事をすると突然に、体がふわりと浮くような、不思議な感覚を覚えた。
そして、自分の視界がゆっくりと徐々に高くなって行くのを感じた。
「……え?」
驚いて下を見る。
と私の体は宙に浮かんでいて――
鳥居の一番上の高さまでくると、不思議な力によって私の体はふわりと鳥居の上に座らされた。
「どうして……」
「……何が?」
「どうして力を使ったの? せっかく頑張って気付いてない振りをしてたのに」
今の出来事に驚くでもなく、鳥居の上、隣に座る神崎を責める私。
神崎君――ううん、神耶君は笑いながら言った。
「やっぱり、全部思い出したんだな」
嘘。私にわざと思い出させようとしてたくせに。
狐のお面だってそうだ。神崎君は、わざと神耶君の記憶に繋がるものを選んだ。
初詣に行く途中、たくさんの出店を回りたいと言った私に、回れる限りの出店を回ろうと言ってくれた時、『それが約束だから』と溢したあの台詞も、きっとわざだ。
神耶君の意図に気付きながらも、それでも私は意地になって気付いてないふりを続けた。
「違う。思い出してない。私は何も思い出してないし、何も知らないよ」
「もういい、もう十分だ。俺は最後に十分楽しませてもらった。ありがとな葵葉」
今、確かに神崎君が口にした最後の言葉に、
私は意地をはるのも忘れて、今日一日ずっと不安に思っていた事柄を、すがるように尋ねていた。
「嫌……嫌だよ……やっぱり神耶君は私の前からまた消えるつもりなの?」
「あぁ、そろそろタイムリミットだ。あと30分もすれば、俺は完全にこの世から消滅する」
「タイムリミットってどう言うこと? どうして私の前から消えようとするの?」
「…………覚えてるか? 前に話した1月1日が俺の……朔夜の誕生日だって話」
その話しは勿論覚えている。ほんの一週間前の話だ。
誕生日だから祝って欲しいと、今日初詣に行く事を誘われたのだ。
けれど、その話と私の質問に、何の関係があるのか、神耶君が言わんとしている事がわからなくて私は首を傾げた。
「俺の名前、『朔夜』って言うのは、人間だった頃の俺の本当の名前なんだ。俺が生まれた時に両親が与えてくれた、最初で最後の贈り物」
「……え? 」
「1月1日の、朔月の夜に生まれたから朔夜って言うんだって。だから1月1日が俺の誕生日って言うのは本当の話」
神耶君はいとおしげに月のない夜空を眺めながらそう話してくれた。
「それでさ、俺が消滅する前に師匠が言ったんだよね。最後に1つだけ、俺の願いを叶えてくれるって。今まで神として頑張ってきたご褒美だって。だから俺は願ったんだ。もう一度お前の笑顔が見たいって。お前と笑顔でさよならしたいって。そしたら師匠が俺をもう一度人間に戻してくれた。お前を笑顔に出きるのは俺だけだから、自分の力で葵葉を笑顔にしてみせろって。そう言って、条件付きで俺を人間に戻してくれた」
「……条件?」
「そう。1つ目の条件は俺の正体がお前にバレない事。そして2つ目の条件は――俺がお前の側にいられるのは12月31日の11時59分までって言う期限付きだって事。それが師匠から出された条件」
「そんな……」
お面屋の前を離れて暫く歩いたところで、神崎君が不思議そうな顔でそう訊ねてくる。
「別に、不機嫌になんかなってないよ……」
「そうか? でも怖い顔になってるぞ。お前、はしゃいでたから少し疲れたんだろ。そうだ、少しどっかで休憩するか」
「…………うん」
神崎の提案に、私達は人混みを離れて、神社の入り口にある鳥居の近くまでやってきた。
「ここなら人も少ないし、お前と少しゆっくり話せそうだな」
「……うん。そうだね」
神崎君からの提案に、私が小さく返事をすると突然に、体がふわりと浮くような、不思議な感覚を覚えた。
そして、自分の視界がゆっくりと徐々に高くなって行くのを感じた。
「……え?」
驚いて下を見る。
と私の体は宙に浮かんでいて――
鳥居の一番上の高さまでくると、不思議な力によって私の体はふわりと鳥居の上に座らされた。
「どうして……」
「……何が?」
「どうして力を使ったの? せっかく頑張って気付いてない振りをしてたのに」
今の出来事に驚くでもなく、鳥居の上、隣に座る神崎を責める私。
神崎君――ううん、神耶君は笑いながら言った。
「やっぱり、全部思い出したんだな」
嘘。私にわざと思い出させようとしてたくせに。
狐のお面だってそうだ。神崎君は、わざと神耶君の記憶に繋がるものを選んだ。
初詣に行く途中、たくさんの出店を回りたいと言った私に、回れる限りの出店を回ろうと言ってくれた時、『それが約束だから』と溢したあの台詞も、きっとわざだ。
神耶君の意図に気付きながらも、それでも私は意地になって気付いてないふりを続けた。
「違う。思い出してない。私は何も思い出してないし、何も知らないよ」
「もういい、もう十分だ。俺は最後に十分楽しませてもらった。ありがとな葵葉」
今、確かに神崎君が口にした最後の言葉に、
私は意地をはるのも忘れて、今日一日ずっと不安に思っていた事柄を、すがるように尋ねていた。
「嫌……嫌だよ……やっぱり神耶君は私の前からまた消えるつもりなの?」
「あぁ、そろそろタイムリミットだ。あと30分もすれば、俺は完全にこの世から消滅する」
「タイムリミットってどう言うこと? どうして私の前から消えようとするの?」
「…………覚えてるか? 前に話した1月1日が俺の……朔夜の誕生日だって話」
その話しは勿論覚えている。ほんの一週間前の話だ。
誕生日だから祝って欲しいと、今日初詣に行く事を誘われたのだ。
けれど、その話と私の質問に、何の関係があるのか、神耶君が言わんとしている事がわからなくて私は首を傾げた。
「俺の名前、『朔夜』って言うのは、人間だった頃の俺の本当の名前なんだ。俺が生まれた時に両親が与えてくれた、最初で最後の贈り物」
「……え? 」
「1月1日の、朔月の夜に生まれたから朔夜って言うんだって。だから1月1日が俺の誕生日って言うのは本当の話」
神耶君はいとおしげに月のない夜空を眺めながらそう話してくれた。
「それでさ、俺が消滅する前に師匠が言ったんだよね。最後に1つだけ、俺の願いを叶えてくれるって。今まで神として頑張ってきたご褒美だって。だから俺は願ったんだ。もう一度お前の笑顔が見たいって。お前と笑顔でさよならしたいって。そしたら師匠が俺をもう一度人間に戻してくれた。お前を笑顔に出きるのは俺だけだから、自分の力で葵葉を笑顔にしてみせろって。そう言って、条件付きで俺を人間に戻してくれた」
「……条件?」
「そう。1つ目の条件は俺の正体がお前にバレない事。そして2つ目の条件は――俺がお前の側にいられるのは12月31日の11時59分までって言う期限付きだって事。それが師匠から出された条件」
「そんな……」
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