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冬物語
大晦日の約束②
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「ね、ねぇ神崎君。八幡神社の初詣には何か出店も並ぶの?」
「あぁ。夏祭りの時程出店の数は多くはないけどな。祭好きの大人達が有志で店を出して、毎年大晦日から1日の夜はばか騒ぎして盛り上がってるよ」
「そ、そうなんだ。じゃ、じゃあさ、たこ焼きは……ある?」
「たこ焼きはどうだったかな。でも確か焼きそばはあったかな。あとは甘酒とか、フライドポテトとかもあったと思う。子供向けなら綿菓子やリンゴ飴なんかもあったと思うけど……」
「リンゴ飴! 私リンゴ飴と綿菓子食べたい!」
「あぁ、食べたいものは全部食べれば良いさ。回れる限りの出店を回ろう」
「本当?」
「あぁ。そう言う、約束だったからな」
……約……束……
会話の中、神崎君の口にした一言に私ははっとした。
私の頭の中、以前神耶君と交わしたあるやり取りが思い出されて。
――『楽しみだな~夏祭り。一緒にかき氷食べようね!たこ焼きも、りんご飴も!あ~金魚すくいもやりたいな~。それから……』
『待て待て待て。一緒にってなんだよ』
『え?だから、お祭りの日に、一緒に出店を見て回ろう。ってデートのお誘いだよ』
『はぁ~?!デート?何馬鹿な事言って……回りたきゃ勝手に回れば良いだろ!俺を巻き込むな!』
『え~~しようよお祭りデート!ねぇ~しようよしようよ~!!』
『あ~お前っ、何勝手に…』
『指切りげんまん。嘘ついたら針千本飲~ます。指切った!』
あぁ、そうか。神耶君は、あの時の約束を果たそうとしてくれているんだ。
今までの#神崎__・__君の言動に、私はふとそんな事を思った。
今回だけではない。きっと文化祭の時も。
あの時一緒に回ろうと誘ってくれたのも、もしかしたら同じ理由からだったのかもしれない。
あんな一方的な約束を、一年以上経った今も覚えていてくれたなんて。
果たそうとしてくれていたなんて。
私は素直に嬉しいと思った。
嬉しさに、込み上げてくるものを感じた。
でも、この込み上げてくる感情を、神崎君にだけは気づかれてはいけないと思った。
だから私は神崎君の声が聞こえなかったふりをして、気付いていないふりをした。
そして出来る限り普段通りを装って、その後は他愛のない会話を交わしながら、努めて賑やに振る舞った。
「なんだか、賑やかになって来たね」
八幡神社に近付くにつれて増えて行く人の数。
親子連れから友達同士、それから私達のような男女の二人組まで様々な組み合わせの人々が楽しそうに神社へ続く坂道を登って行く。
夜の10時を過ぎているとは思えないくらい周囲はとても賑やかだ。
神社の境内に着くと、更に多くの人で賑わっていて、参道の左右には色とりどりの出店が並ぶ。
まるで夏祭りのような賑わいに、私のテンションも自然と高くなっていた。
「うわぁ~凄い!凄い凄い凄い!人がいっぱいいる! お店がいっぱい並んでる! 私、こんなお祭りみたいな雰囲気初めて!」
「いつもは誰も寄り付かないくせにな。夏と秋の祭と、大晦日から元日にかけてのこの時だけは毎年人で賑わうんだ」
屋台に並ぶ人の群れを横目に見ながら私達はまず社へと参拝に赴く。
短いながらも伸びた参拝を待つ人の列に並びながら、私は願い事を頭の中で呟いていた。
『どうか神耶君が私の前からいなくなりませんように』と。
「あぁ。夏祭りの時程出店の数は多くはないけどな。祭好きの大人達が有志で店を出して、毎年大晦日から1日の夜はばか騒ぎして盛り上がってるよ」
「そ、そうなんだ。じゃ、じゃあさ、たこ焼きは……ある?」
「たこ焼きはどうだったかな。でも確か焼きそばはあったかな。あとは甘酒とか、フライドポテトとかもあったと思う。子供向けなら綿菓子やリンゴ飴なんかもあったと思うけど……」
「リンゴ飴! 私リンゴ飴と綿菓子食べたい!」
「あぁ、食べたいものは全部食べれば良いさ。回れる限りの出店を回ろう」
「本当?」
「あぁ。そう言う、約束だったからな」
……約……束……
会話の中、神崎君の口にした一言に私ははっとした。
私の頭の中、以前神耶君と交わしたあるやり取りが思い出されて。
――『楽しみだな~夏祭り。一緒にかき氷食べようね!たこ焼きも、りんご飴も!あ~金魚すくいもやりたいな~。それから……』
『待て待て待て。一緒にってなんだよ』
『え?だから、お祭りの日に、一緒に出店を見て回ろう。ってデートのお誘いだよ』
『はぁ~?!デート?何馬鹿な事言って……回りたきゃ勝手に回れば良いだろ!俺を巻き込むな!』
『え~~しようよお祭りデート!ねぇ~しようよしようよ~!!』
『あ~お前っ、何勝手に…』
『指切りげんまん。嘘ついたら針千本飲~ます。指切った!』
あぁ、そうか。神耶君は、あの時の約束を果たそうとしてくれているんだ。
今までの#神崎__・__君の言動に、私はふとそんな事を思った。
今回だけではない。きっと文化祭の時も。
あの時一緒に回ろうと誘ってくれたのも、もしかしたら同じ理由からだったのかもしれない。
あんな一方的な約束を、一年以上経った今も覚えていてくれたなんて。
果たそうとしてくれていたなんて。
私は素直に嬉しいと思った。
嬉しさに、込み上げてくるものを感じた。
でも、この込み上げてくる感情を、神崎君にだけは気づかれてはいけないと思った。
だから私は神崎君の声が聞こえなかったふりをして、気付いていないふりをした。
そして出来る限り普段通りを装って、その後は他愛のない会話を交わしながら、努めて賑やに振る舞った。
「なんだか、賑やかになって来たね」
八幡神社に近付くにつれて増えて行く人の数。
親子連れから友達同士、それから私達のような男女の二人組まで様々な組み合わせの人々が楽しそうに神社へ続く坂道を登って行く。
夜の10時を過ぎているとは思えないくらい周囲はとても賑やかだ。
神社の境内に着くと、更に多くの人で賑わっていて、参道の左右には色とりどりの出店が並ぶ。
まるで夏祭りのような賑わいに、私のテンションも自然と高くなっていた。
「うわぁ~凄い!凄い凄い凄い!人がいっぱいいる! お店がいっぱい並んでる! 私、こんなお祭りみたいな雰囲気初めて!」
「いつもは誰も寄り付かないくせにな。夏と秋の祭と、大晦日から元日にかけてのこの時だけは毎年人で賑わうんだ」
屋台に並ぶ人の群れを横目に見ながら私達はまず社へと参拝に赴く。
短いながらも伸びた参拝を待つ人の列に並びながら、私は願い事を頭の中で呟いていた。
『どうか神耶君が私の前からいなくなりませんように』と。
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