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冬物語
精一杯のお洒落をして
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結局どんなに考えてみても、神耶君が再び私の前に姿を表した理由は分からなくて、『あと少しだけこのままでいさせてくれ』と言ったあの言葉の意味も、私にはわからないまま。
ただひとつだけ私の中ではっきりしている事は、再び神耶君が私の前に姿を見せてくれた、その事実が嬉しいと言う事だけ。
考えても何も分からなくて、考えた結果ただ不安になるだけなら、今再び訪れたこの大切な時間を、目一杯楽しむしかないのかもしれない。
不安を完全に拭いさる事は出来ないけれど、不安を抱えながらも私は、神崎君と交わした初詣の約束に向けて、準備を始める事にした。
服を着替え、荷物を鞄に詰め終えた所で“コンコン”と部屋の扉をノックする音がする。
「は~い?」
私が返事を返すとドアが開き、お母さんが顔を覗かせた。
「葵葉ちゃん、大丈夫?」
「……? 何が?」
「さっき目が赤かったから心配で、ちょっと様子を見に来たの。何かあったの? 今日約束してる男の子と喧嘩でもした?」
「ううん。違うよ」
「……そうね。どうやらそうみたいね」
私の格好を見て、お母さんが少し安心したような顔でそう言った。
私は足元に注がれるお母さんの視線を感じて少し照れながら尋ねた。
「……変……かな?」
「ううん。そんな事ない。似合ってるわよ」
せっかく神耶君と初詣に行くのなら、少しくらいはお洒落をしたいと、先程私が着替えた服は、クリスマスの日に買ったあのフリルのついたロングスカートだった。
一度は着て行く事を躊躇ったけど、でも神耶君に少しでも可愛いと思ってもらいたくて、私なりの精一杯のお洒落だった。
けれども、自分なりの精一杯が本当に似合っているのかやっぱり自信が待てなくて、私はお母さんにあるお願いをした。
「ねぇ、お母さん。ちょっとお願いがあるんだけど……」
「なぁに?」
「私をもっと可愛くして欲しいの」
私のお願いに、一瞬驚いた顔をしながらも、お母さんは嬉そうに微笑んだ。
「うん、任せて! お母さんに任せて!」
「え、どうしてそんなに嬉そうなの?」
「だって、娘の髪の毛を結んであげるのがお母さんの昔からの夢だったから、その夢が叶って嬉しいの」
「夢って、そんな大袈裟な」
「ううん、そんな事ない。だって本当に嬉しいんだもの」
心なしか、目を潤ませているお母さん。
そんなお母さんを笑いながらも、私はお母さんに身を委ねた。
お洒落をした私の姿を見て、神耶君が少しでも
ときめいてくれたら良いな。
そんな事を願いながら――
ただひとつだけ私の中ではっきりしている事は、再び神耶君が私の前に姿を見せてくれた、その事実が嬉しいと言う事だけ。
考えても何も分からなくて、考えた結果ただ不安になるだけなら、今再び訪れたこの大切な時間を、目一杯楽しむしかないのかもしれない。
不安を完全に拭いさる事は出来ないけれど、不安を抱えながらも私は、神崎君と交わした初詣の約束に向けて、準備を始める事にした。
服を着替え、荷物を鞄に詰め終えた所で“コンコン”と部屋の扉をノックする音がする。
「は~い?」
私が返事を返すとドアが開き、お母さんが顔を覗かせた。
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「……変……かな?」
「ううん。そんな事ない。似合ってるわよ」
せっかく神耶君と初詣に行くのなら、少しくらいはお洒落をしたいと、先程私が着替えた服は、クリスマスの日に買ったあのフリルのついたロングスカートだった。
一度は着て行く事を躊躇ったけど、でも神耶君に少しでも可愛いと思ってもらいたくて、私なりの精一杯のお洒落だった。
けれども、自分なりの精一杯が本当に似合っているのかやっぱり自信が待てなくて、私はお母さんにあるお願いをした。
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「なぁに?」
「私をもっと可愛くして欲しいの」
私のお願いに、一瞬驚いた顔をしながらも、お母さんは嬉そうに微笑んだ。
「うん、任せて! お母さんに任せて!」
「え、どうしてそんなに嬉そうなの?」
「だって、娘の髪の毛を結んであげるのがお母さんの昔からの夢だったから、その夢が叶って嬉しいの」
「夢って、そんな大袈裟な」
「ううん、そんな事ない。だって本当に嬉しいんだもの」
心なしか、目を潤ませているお母さん。
そんなお母さんを笑いながらも、私はお母さんに身を委ねた。
お洒落をした私の姿を見て、神耶君が少しでも
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