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冬物語
開かれた記憶の扉
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瞬間、きつく閉ざされていた記憶の蓋が一気にこじ開けられて、それまで忘れていた全ての記憶が溢れ出す。
15歳の夏休み、裏山にある八幡神社を訪れ、その時初めて出会った偏屈な神様の事を。
彼は神耶君と言って、友達になってとしつこくお願いした私の願いを訊いて、いつも仏頂面をしながらも私の相手をして遊んでくれた。
それが嬉しくて、私は病院を抜け出し何度も何度も会いに行った。
結果、無理をし過ぎた私は大きな心臓発作をおこして、一度死の縁をさ迷った。
その時、神耶君は私を迎えに来てくれて、生きろと激を飛ばしながら私をあの世との境から救い上げてくれた。
だから私は、神耶君が繋いでくれた命の灯火を、なんとか1日でも繋ぎとめようと、彼の元を離れて病気の治療に専念した。
その入院生活の中、私は私を救ってくれたヒーローに再び会いに行く日を心待ちにしながら、このスケッチブックに記憶の中の神耶君の姿を描き溜めた。
そして一年後にやっと再会を果たした時、神耶君は涙しながら私の帰りを喜んでくれた。
そうだ、思い出した。
全部全部、思い出した。
神耶君の優しさも。
屋上で一緒に食べたお弁当の味も。
神崎君が語った彼の過去も。
隣町へと二人で出掛けて、初めてデートした思い出も。
そして――
神耶君が私の前から突然姿を消した事実も。
神耶君が姿を消したことで、私は彼が師匠と慕っていた神様に、神耶君に関わる全ての記憶を消されてしまった。
だから今まで思い出そうとしても、思い出せなかったのだ……。
やっぱり私は神崎君の事を知っていた。
神崎君こそ、私の大好きだった神耶君、その人だ。
全ての記憶を思い出した事で、神崎君の正体が私の中で核心に変わった。
と、同時に、1つの不安が沸き起こった。
クリスマスの帰り道、神崎が口にした言葉。
――『思い出さなくて良い。思い出せなくて良いから、あと少しだけこのままでいさせてくれ……』
彼は苦しい顔で確かにそう言った。
どうして思い出さなくて良いと、言ったのだろうか?
それにあと少しだけとは……どう言う意味なのだろうか?
もしかして私が神耶君の事を思い出してしまってら……彼は再び私の前からいなくなるの?
そんな疑念が頭から離れなくて、私は思い出せた喜びよりも、込み上げてくる不安から、気付けばボロボロと涙を溢していた。
また私の前から神耶君がいなくなるなんて……考えただけで苦しくて、切なくて……
楽しみだった筈の初詣が、何だか憂鬱なものへと変わった。
◆◆◆
――夕食時
「どうしたんだ葵葉? お前、目が真っ赤だぞ。もしかして泣いてたのか?」
「……お兄ちゃん……何でもないよ」
夕食の席、泣き腫らした私の顔を見て、お兄ちゃんやお母さん、共に食卓を囲む家族が一様に驚いた顔をして私を見ていた。
みんなの心配そうな視線に気付きながらも、私は何も会話をする気にはなれなくて、ずっと黙ったまま食事を終えた。
「……ご馳走様」
小さな声でそれだけ言うと、再び二階へと戻って行く。
約束の時間まであと3時間。
私の不安に反して、時間は刻一刻と迫り来る。
15歳の夏休み、裏山にある八幡神社を訪れ、その時初めて出会った偏屈な神様の事を。
彼は神耶君と言って、友達になってとしつこくお願いした私の願いを訊いて、いつも仏頂面をしながらも私の相手をして遊んでくれた。
それが嬉しくて、私は病院を抜け出し何度も何度も会いに行った。
結果、無理をし過ぎた私は大きな心臓発作をおこして、一度死の縁をさ迷った。
その時、神耶君は私を迎えに来てくれて、生きろと激を飛ばしながら私をあの世との境から救い上げてくれた。
だから私は、神耶君が繋いでくれた命の灯火を、なんとか1日でも繋ぎとめようと、彼の元を離れて病気の治療に専念した。
その入院生活の中、私は私を救ってくれたヒーローに再び会いに行く日を心待ちにしながら、このスケッチブックに記憶の中の神耶君の姿を描き溜めた。
そして一年後にやっと再会を果たした時、神耶君は涙しながら私の帰りを喜んでくれた。
そうだ、思い出した。
全部全部、思い出した。
神耶君の優しさも。
屋上で一緒に食べたお弁当の味も。
神崎君が語った彼の過去も。
隣町へと二人で出掛けて、初めてデートした思い出も。
そして――
神耶君が私の前から突然姿を消した事実も。
神耶君が姿を消したことで、私は彼が師匠と慕っていた神様に、神耶君に関わる全ての記憶を消されてしまった。
だから今まで思い出そうとしても、思い出せなかったのだ……。
やっぱり私は神崎君の事を知っていた。
神崎君こそ、私の大好きだった神耶君、その人だ。
全ての記憶を思い出した事で、神崎君の正体が私の中で核心に変わった。
と、同時に、1つの不安が沸き起こった。
クリスマスの帰り道、神崎が口にした言葉。
――『思い出さなくて良い。思い出せなくて良いから、あと少しだけこのままでいさせてくれ……』
彼は苦しい顔で確かにそう言った。
どうして思い出さなくて良いと、言ったのだろうか?
それにあと少しだけとは……どう言う意味なのだろうか?
もしかして私が神耶君の事を思い出してしまってら……彼は再び私の前からいなくなるの?
そんな疑念が頭から離れなくて、私は思い出せた喜びよりも、込み上げてくる不安から、気付けばボロボロと涙を溢していた。
また私の前から神耶君がいなくなるなんて……考えただけで苦しくて、切なくて……
楽しみだった筈の初詣が、何だか憂鬱なものへと変わった。
◆◆◆
――夕食時
「どうしたんだ葵葉? お前、目が真っ赤だぞ。もしかして泣いてたのか?」
「……お兄ちゃん……何でもないよ」
夕食の席、泣き腫らした私の顔を見て、お兄ちゃんやお母さん、共に食卓を囲む家族が一様に驚いた顔をして私を見ていた。
みんなの心配そうな視線に気付きながらも、私は何も会話をする気にはなれなくて、ずっと黙ったまま食事を終えた。
「……ご馳走様」
小さな声でそれだけ言うと、再び二階へと戻って行く。
約束の時間まであと3時間。
私の不安に反して、時間は刻一刻と迫り来る。
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