願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

記憶の欠片②

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「あれ、私……こんなスケッチブックなんて持ってたかな?」


不思議に思って中を開くと、今度は見覚えのあるタッチで、見知らぬ男の子の絵が描かれていた。


「……これ、私の絵?」


絵のタッチは間違いなく私のもの。
けれども私には、全く描いた覚えのないもの。

どうして描いた覚えがないのだろう?

不思議に思いながら更にページをめくって行くと、そこには何枚も何枚も、同じ男の子のラフスケッチが詰まっていた。

その男の子は、どこか神主さんを思わせるような着物を着ていて、どことなく神崎君に似てる気がした。

一瞬、神崎君と以前に交わしたあるやり取りが頭に浮かんだ。



――『コンクールって言うのはね、毎年2月に開催される県主催のコンクールがあって、うちの学校の美術部は、一年の集大成として一人一点必ずそのコンクールに作品を応募する決まりなの』

『へ~。テーマは?』

『テーマは自由。それに作風も自由だよ。デッサン画でも、風景画でも、人物画でも。それ以外でも何でも自分が描きたい物を描きたいように描いて良いんだって。自由過ぎるってのも……逆に何を描けば良いのか迷っちゃうよ』

『じゃあさ、俺リクエストしても良い? 俺の事描いてよ』

『…………へ?』

『悪いが、葵葉の専門は風景画。人物画は専門外!だよな? 葵葉』

『あ……うん。人物画は描いた事なくて………』

『だ、そうだ。残念だったな。下僕』

『描けるよ。葵葉ならきっと描ける』


過った神崎君との会話の後に、私の頭の奥底から、ふと朧気な記憶が甦った。



――『…………おい。んな目の前にいられたら気になって眠れないんだけど』

『だって…神耶君が遊んでくれないから』

『俺はまだ眠いんだ』

『だから私、騒いで邪魔したりはしてないよ。ちゃんと大人しくしてるもん』

『だから、目の前にいられる事自体が邪魔なんだ!絵描くならあっちで描け』

『嫌。あっちじゃ神耶君の背中しか見えないもん。背中をスケッチしてもつまらない』

『……んな事知るか。目の前で描かれたんじゃ俺が気になって眠れな……』

『なら遊ぼうよ!』――




――今のは何?

朧気な記憶を手繰り寄せようと、必死に前後の記憶を思い出そうとした。

けれどそれ以上は何も思い出せなくて、私は更なる手がかりを求めてスケッチブックを次へ、次へとめくって行った。

スケッチブックをめくる度、現れるのはやはり同じ男の子で、けれど眠っている姿、微笑んでいる顔、怒っている顔、様々な表情や仕草が描かれている。

スケッチブックも終わりに近付いた頃、あるページに、見慣れない字で「下手くそ」と書かれている文字を見つけた。

そして、その次のページをめくった所で、スケッチブックをめくる私の手が止まった。

そのページには、今までとは明らかに異なるタッチで、私の眠顔がスケッチされていたのだ。

自分の寝顔を描いたその絵は、私の描いただろうものとは比べ物にならないくらいとても上手で……とても綺麗だった。

その絵は酷く私を懐かしい気持ちにさせて、絵を眺めながら、私の頬には一雫の涙が零れ落ちていた。

そして涙と共に、私の口から一人の名前が自然と零れ落ちた。

「…………神耶……君」と。


クリスマスイブの帰り道、夢で見た男の子と同じ名前を――

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