願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

四度目の指切り

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帰り道、神崎君は朝お兄ちゃんから借りた自転車を無言のまま押して歩く。

私もその一歩嘘ろを無言のままついて歩いた。

所々街灯が灯るだけの暗く静かな道。
ふと頬に何か冷たいものが触れた気がして空を見上げれば、空からは白い粉雪が深々と舞い降りてくる。


「あ、雪。ホワイトクリスマスだね」


二人の間に流れる、どこか気まずい空気を破るように、私が静かにそう呟くと、神崎君も空を見上げて「そうだな」と呟いた。



「クリスマス、終わっちゃうね」

「明日もあるだろ。今日はイブなんだから」

「そうだけど、そうじゃないよ。イブの今日が終わっちゃうねってこと」

「何だよ、寂しいのか?」

「うん、ちょっと寂しい。色々あって最後はみんなに迷惑かけちゃったけど、でもこんなに楽しかったクリスマスは初めてだから」

「そっか。それは良かったな」

「神崎君のおかげかな。今日は誘ってくれてありがとう」

「いや、別に」

「この神崎君が一生懸命取ってくるたUFOキャッチャーのぬいぐるみも、大切にするね」

「……あぁ」

「……クリスマスが終わったら、もうすぐ終わっちゃうね」

「……何が?」

「今年が。もうあと1週間もしたら新しい年になるんだよ」

「……」

「あっと言う間だったなぁ。特に神崎君が転校して来てからは。今日でもう今年中に神崎君に会える機会はないと思うから、今のうちに言っとくね。神崎君、来年も宜しくね」

「…………」

「神崎君?」


それまで短いながらも返事をしてくれていた神崎君から、何故か返事がなくなった。

不思議に思って私はもう一度彼の名を呼んだ。

すると神崎君は不意に歩みを止めて立ち止まる。

と、こちらを振り返り、彼は真っ直ぐな視線を向けて私にこう言った。


「なぁ葵葉。12月31日、大晦日の夜にさ、葵葉の家の裏山にある八幡神社に、一緒に初詣に行かないか?」

「え……初詣?」


突然の誘いにキョトンとする私。


「実は俺、1月1日が誕生日なんだ。誕生日を迎える瞬間を、葵葉と過ごしたい、なんて言ったら迷惑か?」

「迷惑……じゃないけど……」


どうしてそんなに切なそうな顔をしているのだろう?
いつもならこっちの意見も訊かずに強引に約束を取り付けるのに。

やっぱり何だかいつもと様子の違う神崎君に、私は一人首を傾げた。


「……うん。わかった。良いよ。大晦日の夜、また一緒に出掛けよう」

「本当か?」

「うん」


私の返事に神崎君はやっといつもの調子に戻って、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。



「よし、じゃあ約束。指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます、指切った!」


お互いの小指を絡めて、また指切りをした私達。


「じゃあ12月31日、夜の10時にまたお前ん家に迎えに行くよ。忘れずに準備しとけよ」

「うん、分かった。31日、10時、家の前に出て待ってるね」


私達は約束を確認しながら再び歩き出す。
その後はお互い他愛のない会話をしながら、神崎君は私を家まで送ってくれた。

こうして初めて家族以外と過ごしたクリスマスは私にとって特別な、忘れられない思い出として幕を閉じた。
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