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冬物語
懐かしい夢②
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次に目を開いた時、辺り一面夕焼け色に染まった綺麗な空が広がっていた。
『ねぇ、飛んでるの?飛んでるのこれ??』
『何興奮してんだよ』
『何でそんなに冷静なの?! だって飛んでるんだよ?私、空に浮いてるんだよ?』
『駅まで運んでやる。だから今日はもう大人しく帰れ。いいな』
『……はぁ~い。でも……君、駅まで私を連れて飛んで、人に見られて大騒ぎになったりとかしないかな? 大丈夫?』
『お前、俺を誰だと思っていやがる。んなへますっかよ。お前の姿を人から見えなくしてやるから、だから心配すんな』
『そんな事も出来るんだ! ……君凄~い!!」
『はぁ……。お前は呑気で良いな。言っとくけどな、目茶苦茶疲れるんだからなこれ! すんっっげ~疲れるんだからな!!』
『……君は、いつもこんな景色を見つめているんだね』
『? 何か言ったか?』
『ううん。何でもない』
『何だよ一人でニヤニヤして。気持ち悪い奴』
『へへへ』
夕日に染められているからか、少女は頬を赤く染めながらどこか嬉しそうに微笑んでいる。
あの子は……私?
ぼんやりと、白く霧がかかったようにはっきりとしない視界の中、何故か私は夢の中の少女が自分自身であると、そう思った。
じゃあ、私と一緒にいる男の子は、誰?
赤髪の後ろ姿は何処となく神崎君にも似ていてような――
ふとそんな事を思った時、男の子の名を呼ぶ声が幾重にも重なり私の頭の中に響いて聞こえて来た。
『……君』
『……や……君~。遊びましょう~』
『ね~……ぐ……や君~降りて来てよ~。そんなに遠くにいたら声が聞こえないよ~』
『か……や君いないの? 隠れてないで出てきてよ』
『……ぐや君本当にどこにいっちゃったの? お願いだから出て来てよ』
『かぐ……君……どうして……どうして出てきてくれないの?私の事、嫌いになっちゃったの?ねぇ、かぐや君! かぐや君!』――
「――っ!」
「お、起きたか葵葉。そろそろ駅に着くぞ」
「…………神崎……君……ここは?」
「電車の中だよ。あの後お前、気持ち良さそうに寝てたからさ、少し寝かせといてやろうと思って起こさなかった。どうした? 泣きそうな顔をして…… 」
電車の中、隣に座っていた神崎君が、心配そうに私の顔を覗き込む。
その姿が、夢の中の少年と重なって――
「かぐや……君……?」
私は思わず、夢の中で私が何度も口にしていた男の子の名前を呟いていた。
「……」
「…………」
私の溢した名前に、神崎君からは何の反応もない。
私達以外、人の姿が見えない車内は、不気味な程、しんと静まり返っていた。
「ねぇ神崎君……やっぱり私、あなたの事を知ってる気がするの。私達、前に何処かで会った事があるんじゃない? ううん。一度や二度会ったくらいの関係じゃない。あなたは私にとって、とても大切な存在だった。今日行った場所にも、以前あなたと一緒に行った事があったはず。今日1日で何度も記憶がフラッシュバックした。それは一度貴方と二人で似たような経験をした事があったからじゃないのかな?」
「…………」
「あなたは私にとって、大切な……大切な人だったはず。なのに……どうして思い出せないの? 私はどうしてあなたの事を忘れてるの? ねぇ、どうして……どうして………」
今目の前にいる、大切なはずの人との記憶を思い出したくて、でも思い出せなくて、もどかしさに私は泣いた。
ポロポロと涙を溢して泣いた。
「っ……え?」
すると、それまで何も言わずにただじっと黙っていた神崎君に、突然私の体は抱き寄せられて――
「思い出さなくて良い。思い出せなくて良いから、あと少しだけこのままでいさせてくれ……」
苦しそうな声で、懇願する神崎君の声がすぐ耳元で聞こえた。
私を抱き締める腕の力は息が出来ない程強くて、まるで小さな子供が何かに怯えて、すがり付いているかのように思えた。
突然の事に、私は驚き言葉に戸惑うも、弱々しい彼の姿に、少しでも彼を安心させられればと、私も無意識に彼を抱きしめ返していた。
そして、怯える子供をあやすようにポンポンと、彼の背中を何度も何度も優しく叩いた。
丁度その時、駅への到着を知らせるアナウンスが車内に流れ聞こえてくる。
神崎君は、俯きがちに私から体を離すと、
「着くみたいだな。降りようか」
と、短く呟いて席を立った。
色々と聞きたい事はあったけど、神崎君の背中は、まるで聞かれる事を避けているような、そんな雰囲気が漂っていて、それ以上私も何も言うでもなく、彼の後に続いて立ち上がった。
そして二人共無言のままに、私達以外誰もいない夜の静かなホームへと降り立った。
『ねぇ、飛んでるの?飛んでるのこれ??』
『何興奮してんだよ』
『何でそんなに冷静なの?! だって飛んでるんだよ?私、空に浮いてるんだよ?』
『駅まで運んでやる。だから今日はもう大人しく帰れ。いいな』
『……はぁ~い。でも……君、駅まで私を連れて飛んで、人に見られて大騒ぎになったりとかしないかな? 大丈夫?』
『お前、俺を誰だと思っていやがる。んなへますっかよ。お前の姿を人から見えなくしてやるから、だから心配すんな』
『そんな事も出来るんだ! ……君凄~い!!」
『はぁ……。お前は呑気で良いな。言っとくけどな、目茶苦茶疲れるんだからなこれ! すんっっげ~疲れるんだからな!!』
『……君は、いつもこんな景色を見つめているんだね』
『? 何か言ったか?』
『ううん。何でもない』
『何だよ一人でニヤニヤして。気持ち悪い奴』
『へへへ』
夕日に染められているからか、少女は頬を赤く染めながらどこか嬉しそうに微笑んでいる。
あの子は……私?
ぼんやりと、白く霧がかかったようにはっきりとしない視界の中、何故か私は夢の中の少女が自分自身であると、そう思った。
じゃあ、私と一緒にいる男の子は、誰?
赤髪の後ろ姿は何処となく神崎君にも似ていてような――
ふとそんな事を思った時、男の子の名を呼ぶ声が幾重にも重なり私の頭の中に響いて聞こえて来た。
『……君』
『……や……君~。遊びましょう~』
『ね~……ぐ……や君~降りて来てよ~。そんなに遠くにいたら声が聞こえないよ~』
『か……や君いないの? 隠れてないで出てきてよ』
『……ぐや君本当にどこにいっちゃったの? お願いだから出て来てよ』
『かぐ……君……どうして……どうして出てきてくれないの?私の事、嫌いになっちゃったの?ねぇ、かぐや君! かぐや君!』――
「――っ!」
「お、起きたか葵葉。そろそろ駅に着くぞ」
「…………神崎……君……ここは?」
「電車の中だよ。あの後お前、気持ち良さそうに寝てたからさ、少し寝かせといてやろうと思って起こさなかった。どうした? 泣きそうな顔をして…… 」
電車の中、隣に座っていた神崎君が、心配そうに私の顔を覗き込む。
その姿が、夢の中の少年と重なって――
「かぐや……君……?」
私は思わず、夢の中で私が何度も口にしていた男の子の名前を呟いていた。
「……」
「…………」
私の溢した名前に、神崎君からは何の反応もない。
私達以外、人の姿が見えない車内は、不気味な程、しんと静まり返っていた。
「ねぇ神崎君……やっぱり私、あなたの事を知ってる気がするの。私達、前に何処かで会った事があるんじゃない? ううん。一度や二度会ったくらいの関係じゃない。あなたは私にとって、とても大切な存在だった。今日行った場所にも、以前あなたと一緒に行った事があったはず。今日1日で何度も記憶がフラッシュバックした。それは一度貴方と二人で似たような経験をした事があったからじゃないのかな?」
「…………」
「あなたは私にとって、大切な……大切な人だったはず。なのに……どうして思い出せないの? 私はどうしてあなたの事を忘れてるの? ねぇ、どうして……どうして………」
今目の前にいる、大切なはずの人との記憶を思い出したくて、でも思い出せなくて、もどかしさに私は泣いた。
ポロポロと涙を溢して泣いた。
「っ……え?」
すると、それまで何も言わずにただじっと黙っていた神崎君に、突然私の体は抱き寄せられて――
「思い出さなくて良い。思い出せなくて良いから、あと少しだけこのままでいさせてくれ……」
苦しそうな声で、懇願する神崎君の声がすぐ耳元で聞こえた。
私を抱き締める腕の力は息が出来ない程強くて、まるで小さな子供が何かに怯えて、すがり付いているかのように思えた。
突然の事に、私は驚き言葉に戸惑うも、弱々しい彼の姿に、少しでも彼を安心させられればと、私も無意識に彼を抱きしめ返していた。
そして、怯える子供をあやすようにポンポンと、彼の背中を何度も何度も優しく叩いた。
丁度その時、駅への到着を知らせるアナウンスが車内に流れ聞こえてくる。
神崎君は、俯きがちに私から体を離すと、
「着くみたいだな。降りようか」
と、短く呟いて席を立った。
色々と聞きたい事はあったけど、神崎君の背中は、まるで聞かれる事を避けているような、そんな雰囲気が漂っていて、それ以上私も何も言うでもなく、彼の後に続いて立ち上がった。
そして二人共無言のままに、私達以外誰もいない夜の静かなホームへと降り立った。
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