願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

打ち上げパーティー②

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同じ転校生であっても、すっかりクラスに溶け込んだ神崎君と、未だ溶け込めずにいる私。

私だけが酷く場違いな気がして、私はこの場から逃げ出してしまいたい衝動にかられた。

そんな時、私の元にひとつのコップが回って来る。


「はい、白羽さんの分」

「……これは?」

「飲み放題用のコップだよ。1Fの受付の近くに、ドリンクバーがあったでしょ。このコップを持って行けば好きな飲み物を貰ってこ来られるの」

「そうなんですか……ありがどうございます」


これはチャンスだと! ばかりに、回ってきたばかりのコップを持って、私は急いで部屋を出ようとした。


「あ、白羽、もしかして飲み物取りに行くの? じゃあさ、私の分もついでに持ってきてくれない?」


と、その時、先程まで神崎君と楽しそうに話していて安藤さんに呼び止められて、飲み物を持ってくるよう頼まれた。


「あ、じゃあ俺も頼んで良いか?」

「俺も俺も!」

「私も~」


そんな安藤さんのお願いに便乗するように、次々とクラスメイト達からコップが差し出される。


「あ、はい、分かりました。皆さん何が飲みたいですか?」

「あたしアイスティーお願い」

「俺コーラ!」

「私は~」


手に持ちきれない程のコップを渡される中、誰かがコップと一緒にお盆も差し出してくれた。

差し出されたお盆の上に次々と乗せられていくコップと、その持ち主を確認しながら、私は必死に一人一人の注文内容を頭に刻み付けて行く。


「じゃあ、宜しくね~」


何人かのクラスメイト達に見送られながら、私は一人部屋を出た。



  ◆◆◆


「お、お待たせしました。頼まれた飲み物を持って来ました」

「あぁ、ありがとう。そこ置いといて」

「ねぇ白羽さん、私の分もお願いして良い?」

「俺も~俺も~」

「あ、はい。分かりました。飲み物は何が良いですか?」


頼まれた飲み物を持って戻ると、私も、俺もと、他のクラスメイト達からも更なる依頼が舞い込んで来た。

私は持って来たばかりの飲み物を配り終えると、新たな依頼分のコップをお盆に乗せて、頼まれた飲み物を記憶して行く。

けれど、今回はそこに思いがけず待ったの声を掛けられた。


「おいお前等、それくらい自分で取りに行けよな」


待ったを掛けたのは、不機嫌な顔をした神崎君。
苛立った様子の神崎君が放った一言に、一瞬目の前の空気が張りつめたのが分かった。

せっかくの楽しい場を、私のせいで壊してはいけないと、私は慌てて神崎君に訴えた。


「だ、大丈夫だよ神崎君。私、文化祭の時皆に迷惑かけちゃったし、ここで皆の役に立てるなら嬉しいから」

「でも葵葉っ……」

「じゃ、じゃあ行ってくるね」


心配してくれた神崎君に笑顔を見せながら、私は一人いそいそと部屋を後にした。

きっと私一人がいなくなれば、張りつめた空気もまた元に戻るだろう。そう、思って――
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