願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

葵葉と朔夜のゲーセンデート?

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神崎君にされるがまま、連れて行かれたそこは商店街の一番端に位置するゲームセンターだった。


「お前、前にこの中に入ってるぬいぐるみ欲しがってただろ。今日は俺が取ってやる。これが俺からのクリスマスプレゼントだ。ほら、何でも取ってやるから好きなものを選べ」


一台のUFOキャッチャーを前にして、神崎君が鼻息荒く、私に詰め寄る。


「ちょっ……何でそんなにプレゼントに拘ってるの? 何か怖いよ神崎君。もしかして、何か裏があったりするんじゃないの?」

「んなもんあるか。いちいちグダグダ考えてないで人の好意は素直に受け取っておけば良いんだよ! 良いから早く選べ!」

「そんな事言ったって、何か……必死過ぎて怖いんだもん」


神崎君が、何故こんなにもクリスマスプレゼントに拘っているのか、彼の真意がわからない私は恐怖すら感じてしまう。

けれど、ここで断ったとしても、きっと彼は更に機嫌を悪くするのだろう。それはそれで厄介だ。

まぁ、100円のゲーム1回くらい、甘えても良いか。と、私は自分を納得させて、神崎君の好意に素直に甘える事にした。


「じゃあ、あれ。あの黄色いくまの……」
 
「よっし、任せとけ!」


腕捲りをして、気合いを入れてゲーム機に100円玉を投入する神崎君。

ただ、気合いだけはよかったのだけれど、いざクレーン操作を始めたら――


「え? もう少し前じゃない? それだときっと触れもしないよ?」

「んなわけあるか! この場所でぴったり――」

「ほらぁ、触れなかった~」

「はぁぁぁ~~~?! 何でだよ! 何で触らないんだよ!」


ビックリするくるい下手くそで、神崎君が操作したアームは、ぬいぐるみに触れる事すらかなわずに虚しく所定の位置へと戻って来た。


「残念でした。はい、これで満足したでしょ。じゃあ、もうプレゼントは諦めて、ここを出――」

「もう一回だ!」

「えぇ~?! まだやるの? 今の神崎君の腕前じゃ、きっと何回やっても取れないよ。ただお金の無駄使いになるだけだから絶対止めた方が良いって」

「うるせぇ! バカにすんな!!次こそは絶対取ってやる!」


私が止めるのも聞かずに、神崎君は無謀にもお金を投入して行く。
しかも一気に5枚も?!

あ~あ、もうホント知らないからね。
と半ば呆れ顔で、私は神崎君が諦めるの待たざるを得なくなった。



「あぁ~~~~」


「何でだよ!」


「おっ、これは……よっし、やったぞ! やっと触れ……たのに、何で掴めねぇんだよ?! こいつ~~!!」


「だぁ~~~! また掴めない! くっそ、こいつ不良品なんじゃねぇのか?!」


「あぁぁ~~ぜって~~不良品だ! さっきから何で掴めねぇんだよ!良い位置に当たってんじゃんねぇか!」


キャッチに失敗する度、神崎君から怒りの声が上がる。
その声を訊く度に私の口からはため息が溢れた。

だからやめとけって言ったのに。
ホントに、どうしてそこまで必死になって景品を取りたがっているんだろう?


――あれ?
そう言えば、どうしてだっけ?

本気で分からなくなってしまった私は、ふと記憶を巻き戻してみる事にした。
巻き戻した記憶の中、改めて考えて見れば何だか不思議な会話に気付く。


――『お前、前にこの中に入ってるぬいぐるみを欲しがってただろ。今日は俺が取ってやる!俺からのクリスマスプレゼントだ。ほら、何でも取ってやるから好きなものを選べ!』――


私は神崎君の前で、UFOキャッチャーの景品を欲しがった事なんて、あっただろうか?

ううん、なかったはず。
だって神崎君とゲームセンターに来た事は愚か、一緒に出掛けたのだって今日が初めてのはずなのに。

なのにどうして神崎君はあんな事を言ったの?


……分からない。


疑問が沸き起こった瞬間、ほんの一瞬だけ、またあの不思議な感覚に襲われた。

それは、この町の駅を降りた時に感じた感覚と同じ。
クレープを食べていた時にも感じた、懐かしいような、あの不思議な感覚。

神崎君は言っていた。
この感覚はデジャヴ――概視感と呼ばれるものだと。

脳が混乱して、見た事も体験した事もない出来事を、あたかも体験した事があるかのように錯覚しているだけだと。


けれど私には、何度も沸き起こるこの不思議な感覚が、単なる錯覚だなんて、まだどこか納得出来なくて……


やっぱり私はこの場所を知っていて、この町を知っていて、以前にも誰かとこの場所を訪れた事があったのではないだろうか。

そしてその誰かはきっと、神崎君――


私は以前から神崎君の事を知っていて、神崎君も私の事を知っていて、だからこそ転校生の彼は、最初から私に馴れ馴れしくて、誰にも話したことのない私の秘密も色々と知っていたのではないだろうか。

そう考えれば、今まで不思議に思っていた、あらゆる事の辻褄が合っていくのだ。


でも一つだけ、どうしても分からないのは、どうして私には神崎君の記憶がないのかと言う事。

まるで、神崎君に関わる記憶だけが、すっぽりと抜け落ちてしまったように思い出せないのだ。


どうして――?
どうして神崎君だけが私の事を知っていて、私は神崎君の事を知らないの?

何かを掴めそうで、掴めない。
どうしても掴みたい謎の答えを無理矢理にでも導き出そうと、今日1日で感じた概視感を再び思い出そうとする。

けれども、そのどれもが靄がかかったようにぼんやりと薄らいでいて……それ以上はどう頑張っても何も思い出す事は出来なかった。


「「「わっ!」」」


私が一人考え事にふけっている中、突然周囲から沸き起こった歓声に、私ははっと意識を引き戻された。
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