願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

葵葉と朔夜の初デート?②

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「どうした葵葉、怖い顔して遠くを見つめて?」

「……」


神崎君が心配して声を掛けてくれていた事にも気付かずに、私は手に持っていたクレープと、私達に向けられた周囲視線を交互に見比べながら、一瞬襲われたについて一人考えていた。

初めてくる街、初めて食べるクレープのはずなのに、どうして今、前にも同じ経験をしたような、そんな不思議な感覚が込み上げて来たのだろう?

そしてその不思議な感覚に私は何故か、懐かしさを覚えている。

記憶と感覚の間に生じている矛盾に違和感が消えなかった。

でもいくら考えてみても、結局その理由は分からないままで――



「おい葵葉、さっきからずっと難しい顔して黙り込んでどうしたんだよ? 具合でも悪いのか?」


何度目かの神崎君の呼び掛けに、やっと私は返事を返した。


「……ううん、何でもない。ただ一瞬、不思議な感覚に襲われて、今のはなんだったのかなって、考えてただけ」

「不思議な感覚?」


キョトンとした顔で訊ねくる神崎君に、私は今沸き起こった一瞬の感覚を話して聞かせた。

私の話に神崎君は一度眉を潜めた後で、暫く何かを考え込んだ後、こんな話を聞かせてくれた。


「それ、デジャブって奴じゃないか?」

「デジャブ?」

「あぁ、体験したことがないのに、まるで一度体験してるように感じる事をそう言うらしい。でもその感覚は、単なる脳の錯覚だって話だ」

「脳の錯覚? そうなのかな?」

「あぁ、だからあんま気にするな」

「でもね、考えてみればここ最近、同じような事が何度かあったの。今日だって、今ので2回目なんだよ。駅を降りた時にも同じような感覚に襲われて……デジャブってそんな短時間に何度も感じるものなのかな?」

「さぁ? 詳しい事は知らねぇけどさ、あんま気にする事ないんじゃねぇの。ほら、ととっと食えって。他にも行きたい所たくさんあるんだからさ」

「え? あ……ちょ、あにふうのはんはひふん(何するの神崎君)!」


私の話に興味がなくなったのか、何だかうやむやのまま強引に話を切り上げた神崎君は、私の手に残るクレープを無理やり私の口に押し当てたかと思うと、ケラケラ笑いながら一人先にふらふらと歩いて行ってしまった。

私は未だ晴れぬモヤモヤを感じながら、残りのクレープを頬張って、急いで神崎君の後を追い掛けた。
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