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冬物語
目的地は終着駅?
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「葵葉、大丈夫か? 寒くないか?」
すっかりお兄ちゃんを引き離した頃、少し心配した声で神崎君からそんな事を訊ねられた。
「う……うん。大丈夫だけど……」
「だけど、どうした?」
「本当に良かったのかな?」
「何が?」
「お兄ちゃんの自転車を勝手に……」
「大丈夫だって。そもそも鍵をつけっぱなしにしておく方が悪いんだ。大事なものなら盗られないようにしっかり守っとけってな」
「それは……」
あまりにも勝手な言い分。
とも思ったが、病院生活の長かった私にとって自転車に乗る事は実はとても貴重な体験で、ましてや男の子との二人乗りなんて初めてのこと。
今日一日、一体どんな出来事が待っているのだろうかと、言葉とは裏腹に、実は結構楽しみに思ってる自分がいて、お兄ちゃんには悪いけど、神崎君の言う通り細かい事はこの際気にせず、ドタバタと始まった今日一日をめいっぱい楽もう。
お兄ちゃんには心の中で小さく謝りながら、私は今日一日を全力で楽しむ事を決めた。
「げっやべー。もう電車が来てやがる。お前がもたもたしてっからだぞ!」
と、思ったのもつかの間、目の前に迫る小さな駅舎に電車が停車しているのが見えると、神崎君から私を責めるような言葉を投げ掛けられる。
「酷い! 神崎君こそ前もってちゃんと時間教えてくれてたら、それに間に合うように支度したのに」
「言い訳なんかどうでも良い! 今は言い争ってる場合じゃねぇぞ! これ逃したら、次一時間は電車来ねぇんだからな」
「えぇ、本当に?!」
「分かったらほら、これ持ってお前先に行ってろ。俺は自転車置いてから追いかけるから。お前、俺が行くまで何とかして電車止めとけ! 良いな!」
「えぇぇ?! 止めとけって……そんな無茶苦茶なぁ~」
前言撤回! やっぱり神崎君に振り回されるばかりで楽しめる気なんてしない!!
心の中で、いつもの神崎君の強引さと横暴さに悲鳴を上げながら、私は駅の駐輪場からホームへと続く階段を必死になって駆け下りた。
◆◆◆
「次は、終点~終点~」
車内に流れるアナウンスに、はっと目が覚める。
結局あの後、ホームを駆け下りる私達に気付いてくれた車掌さんが、私達が乗車するまで発車を待っていてくれて、何とか無事電車に乗り込む事が出来た。
田舎ならではの温かい心遣いに心から感謝だ。
そうして電車に乗った私達は、お母さんが用意してくれたおにぎりを食べながら電車に揺られ、いつの間にか眠りに落ちてしまっていたらしい。
気付けばあっと言う間に電車は終着地点へと辿り着こうとしていた。
「神崎君、ねぇ起きて神崎君!」
「……ん~」
「起きてってば。私達、終着駅まで来ちゃったみたいだけど大丈夫? もしかして乗り過ごしたんじゃない?」
神崎君が目指す目的地を知らされていなかった私は、慌てて四人がけの向かい席に座る神崎君を揺すり起こす。
何度目かの呼び掛けで、やっと目を覚ました神崎君は、酷く不機嫌な顔をしながら視線を漂わせていた。
「ん~……なんだよ、どうしたんだよ葵葉?」
「だから、私達乗り過ごしちゃったんじゃない?」
「大丈夫だって。乗り過ごしなんかないから。だって俺等の目的地は終着駅なんだから」
寝ぼけ眼でそれだけ言うと、神崎君は再びすーすーと寝息を立てながら夢の世界へと戻って行ってしまう。
「そっか、なら良かった。けど……」
どうしてわざわざこんな遠くに?
終着駅は、私達が乗った駅から一時間はかかる。
まさか、ここまでの遠出をするとは思ってなかった私は驚かずにはいられなかった。
遠出をしてまで神崎君が行きたがっている場所とは、いったいどんな場所なのだろうか?
窓から見える見慣れない景色をぼんやりと眺めながら、私はそんな事を考えていた。
そして、それからさほど時間を待たずして、電車は終着駅へと到着した。
すっかりお兄ちゃんを引き離した頃、少し心配した声で神崎君からそんな事を訊ねられた。
「う……うん。大丈夫だけど……」
「だけど、どうした?」
「本当に良かったのかな?」
「何が?」
「お兄ちゃんの自転車を勝手に……」
「大丈夫だって。そもそも鍵をつけっぱなしにしておく方が悪いんだ。大事なものなら盗られないようにしっかり守っとけってな」
「それは……」
あまりにも勝手な言い分。
とも思ったが、病院生活の長かった私にとって自転車に乗る事は実はとても貴重な体験で、ましてや男の子との二人乗りなんて初めてのこと。
今日一日、一体どんな出来事が待っているのだろうかと、言葉とは裏腹に、実は結構楽しみに思ってる自分がいて、お兄ちゃんには悪いけど、神崎君の言う通り細かい事はこの際気にせず、ドタバタと始まった今日一日をめいっぱい楽もう。
お兄ちゃんには心の中で小さく謝りながら、私は今日一日を全力で楽しむ事を決めた。
「げっやべー。もう電車が来てやがる。お前がもたもたしてっからだぞ!」
と、思ったのもつかの間、目の前に迫る小さな駅舎に電車が停車しているのが見えると、神崎君から私を責めるような言葉を投げ掛けられる。
「酷い! 神崎君こそ前もってちゃんと時間教えてくれてたら、それに間に合うように支度したのに」
「言い訳なんかどうでも良い! 今は言い争ってる場合じゃねぇぞ! これ逃したら、次一時間は電車来ねぇんだからな」
「えぇ、本当に?!」
「分かったらほら、これ持ってお前先に行ってろ。俺は自転車置いてから追いかけるから。お前、俺が行くまで何とかして電車止めとけ! 良いな!」
「えぇぇ?! 止めとけって……そんな無茶苦茶なぁ~」
前言撤回! やっぱり神崎君に振り回されるばかりで楽しめる気なんてしない!!
心の中で、いつもの神崎君の強引さと横暴さに悲鳴を上げながら、私は駅の駐輪場からホームへと続く階段を必死になって駆け下りた。
◆◆◆
「次は、終点~終点~」
車内に流れるアナウンスに、はっと目が覚める。
結局あの後、ホームを駆け下りる私達に気付いてくれた車掌さんが、私達が乗車するまで発車を待っていてくれて、何とか無事電車に乗り込む事が出来た。
田舎ならではの温かい心遣いに心から感謝だ。
そうして電車に乗った私達は、お母さんが用意してくれたおにぎりを食べながら電車に揺られ、いつの間にか眠りに落ちてしまっていたらしい。
気付けばあっと言う間に電車は終着地点へと辿り着こうとしていた。
「神崎君、ねぇ起きて神崎君!」
「……ん~」
「起きてってば。私達、終着駅まで来ちゃったみたいだけど大丈夫? もしかして乗り過ごしたんじゃない?」
神崎君が目指す目的地を知らされていなかった私は、慌てて四人がけの向かい席に座る神崎君を揺すり起こす。
何度目かの呼び掛けで、やっと目を覚ました神崎君は、酷く不機嫌な顔をしながら視線を漂わせていた。
「ん~……なんだよ、どうしたんだよ葵葉?」
「だから、私達乗り過ごしちゃったんじゃない?」
「大丈夫だって。乗り過ごしなんかないから。だって俺等の目的地は終着駅なんだから」
寝ぼけ眼でそれだけ言うと、神崎君は再びすーすーと寝息を立てながら夢の世界へと戻って行ってしまう。
「そっか、なら良かった。けど……」
どうしてわざわざこんな遠くに?
終着駅は、私達が乗った駅から一時間はかかる。
まさか、ここまでの遠出をするとは思ってなかった私は驚かずにはいられなかった。
遠出をしてまで神崎君が行きたがっている場所とは、いったいどんな場所なのだろうか?
窓から見える見慣れない景色をぼんやりと眺めながら、私はそんな事を考えていた。
そして、それからさほど時間を待たずして、電車は終着駅へと到着した。
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