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冬物語
約束の日、朝早くからのお出迎え②
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「葵葉ちゃん、お友だち?」
一階に降りると、オタマを片手に台所から出てきたお母さんに声を掛けられる。
その顔は、何故かニコニコと嬉しそう。
「違うよ。クラスメイトの神崎君。今日、クラス皆で文化祭の打ち上げがあるって話したでしょ。それで私を迎えに来てくれたの」
「そう、良かったわね」
それだけ言うと、お母さんはルンルンと軽やかな足取りで台所へと戻って行った。
「???」
何故そんなにも上機嫌なのか、私は頭にたくさんの?マークを浮かべながらも、深く追求することはせず、そのまま洗面所へと向かった。
顔を洗い、寝癖を直し、歯磨きをして一通りの身仕度を終えた私は、家族のいる居間には顔を出さずに玄関へと直行する。
そんな私の足音に気付いたのか、玄関で靴を履いていた私の元へ、再びお母さんが現れて、何やら手提げ袋を差し出された。
「……?」
差し出されたものに、キョトンとした顔でお母さんを見上げると、やっぱりお母さんはニコニコと嬉しそうに笑っていて
「これ、朝ごはんの代わりにおにぎり作っておいたから、外にいる彼と食べてね」
と彼の所をやたら協調してお母さんが言った。
「あ……うん。ありが……とう」
更には受け取る私にガッツポーズをしてみせながら、今度は「ファイト」とエールを送られる。
「???」
いったい、何を訴えたいのか?
何をガンバレと言うのだろう?
全く訳も分からないまま、ご機嫌なお母さんに見送られながら私は家を後にした。
「おせぇぞ葵葉! 15分も待たせやがって。5分しか待たないっつっただろ」
「ごめんなさい。でも5分なんて無理だよ。これでも急いで支度したんだよ」
「言い訳はいいから、ほら急ぐぞ! 早くしないと電車が来ちまう」
乱暴に手を引っ張りながら、私の事を急かす神崎君。
「えぇ?! 電車って? 電車なんかに乗るの? いったいどこまで行くつもりなの?」
「良いから急げ!」
「あ、ま、待って……私……走るのは……」
「分~かってるよ。だから用意しておいた。ほら、お前は後ろに乗れ!」
家の前の道路に置かれた自転車を指差しながら神崎君は言う。
でもちょっと待って?
あの自転車って――
「ほら、突っ立ってないで早く!」
呆気にとられて固まっていた私から荷物を奪い取り、自転車のガゴへと押し込んだ神崎君は、抵抗する隙も与えないまま強引に私を自転車の後ろへと乗せた。
でも、本当にちょっと待って。この明らかに見覚えのある自転車は――
「ねぇ、神崎君、この自転車って……うちのお兄ちゃんの自転車だよね? 勝手に使って良いの??」
「大~丈夫だって」
「大丈夫って……」
本当に? 絶対許可なんてとってないよね?
絶対絶対大丈夫なんかじゃないよね?!
「いいから!出発するぞ。しっかり掴まってろよ~!」
「きやっっ?!」
私の必死の抵抗も虚しく、動き出した自転車に私はバランスを崩して思わず神崎君の背中を掴んだ。
そこへやはりと言うべきか、着替えをすませたお兄ちゃんが鬼の形相で玄関から飛び出して来て
「こらお前、人の自転車を勝手に使って人の妹をどこへ連れて行くつもりだ?」
怒鳴りながら私達の後を走って追いかけて来る。
予想通りのお兄ちゃんの剣幕に、一人小さくなって怯える私。
そんな私を他所に、相変わらずの軽いテンションで神崎君はお兄ちゃんに向かって叫んだ。
「ちょっと葵葉と自転車借りてくぜ~。大丈夫、大丈夫~。今日中にはちゃんと返すから~」
お兄ちゃんの剣幕にも、私の戸惑いにも全くお構いなしの神崎君は一人楽しげで、そんな彼が漕ぐ自転車はぐんぐんとスピードを上げて行く。
一階に降りると、オタマを片手に台所から出てきたお母さんに声を掛けられる。
その顔は、何故かニコニコと嬉しそう。
「違うよ。クラスメイトの神崎君。今日、クラス皆で文化祭の打ち上げがあるって話したでしょ。それで私を迎えに来てくれたの」
「そう、良かったわね」
それだけ言うと、お母さんはルンルンと軽やかな足取りで台所へと戻って行った。
「???」
何故そんなにも上機嫌なのか、私は頭にたくさんの?マークを浮かべながらも、深く追求することはせず、そのまま洗面所へと向かった。
顔を洗い、寝癖を直し、歯磨きをして一通りの身仕度を終えた私は、家族のいる居間には顔を出さずに玄関へと直行する。
そんな私の足音に気付いたのか、玄関で靴を履いていた私の元へ、再びお母さんが現れて、何やら手提げ袋を差し出された。
「……?」
差し出されたものに、キョトンとした顔でお母さんを見上げると、やっぱりお母さんはニコニコと嬉しそうに笑っていて
「これ、朝ごはんの代わりにおにぎり作っておいたから、外にいる彼と食べてね」
と彼の所をやたら協調してお母さんが言った。
「あ……うん。ありが……とう」
更には受け取る私にガッツポーズをしてみせながら、今度は「ファイト」とエールを送られる。
「???」
いったい、何を訴えたいのか?
何をガンバレと言うのだろう?
全く訳も分からないまま、ご機嫌なお母さんに見送られながら私は家を後にした。
「おせぇぞ葵葉! 15分も待たせやがって。5分しか待たないっつっただろ」
「ごめんなさい。でも5分なんて無理だよ。これでも急いで支度したんだよ」
「言い訳はいいから、ほら急ぐぞ! 早くしないと電車が来ちまう」
乱暴に手を引っ張りながら、私の事を急かす神崎君。
「えぇ?! 電車って? 電車なんかに乗るの? いったいどこまで行くつもりなの?」
「良いから急げ!」
「あ、ま、待って……私……走るのは……」
「分~かってるよ。だから用意しておいた。ほら、お前は後ろに乗れ!」
家の前の道路に置かれた自転車を指差しながら神崎君は言う。
でもちょっと待って?
あの自転車って――
「ほら、突っ立ってないで早く!」
呆気にとられて固まっていた私から荷物を奪い取り、自転車のガゴへと押し込んだ神崎君は、抵抗する隙も与えないまま強引に私を自転車の後ろへと乗せた。
でも、本当にちょっと待って。この明らかに見覚えのある自転車は――
「ねぇ、神崎君、この自転車って……うちのお兄ちゃんの自転車だよね? 勝手に使って良いの??」
「大~丈夫だって」
「大丈夫って……」
本当に? 絶対許可なんてとってないよね?
絶対絶対大丈夫なんかじゃないよね?!
「いいから!出発するぞ。しっかり掴まってろよ~!」
「きやっっ?!」
私の必死の抵抗も虚しく、動き出した自転車に私はバランスを崩して思わず神崎君の背中を掴んだ。
そこへやはりと言うべきか、着替えをすませたお兄ちゃんが鬼の形相で玄関から飛び出して来て
「こらお前、人の自転車を勝手に使って人の妹をどこへ連れて行くつもりだ?」
怒鳴りながら私達の後を走って追いかけて来る。
予想通りのお兄ちゃんの剣幕に、一人小さくなって怯える私。
そんな私を他所に、相変わらずの軽いテンションで神崎君はお兄ちゃんに向かって叫んだ。
「ちょっと葵葉と自転車借りてくぜ~。大丈夫、大丈夫~。今日中にはちゃんと返すから~」
お兄ちゃんの剣幕にも、私の戸惑いにも全くお構いなしの神崎君は一人楽しげで、そんな彼が漕ぐ自転車はぐんぐんとスピードを上げて行く。
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