願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

カウントダウン

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――それからあっと言う間に時間は流れて、文化祭から2週間と空かずして始まった期末テストも無事に終わりを迎えた。

返されたテストの結果は無事に――とはいかなかった人も中にはいたようだったけれど、今はテストの結果よりも間近に迫った冬休みへの期待に、クラス中が沸き上がっていた。


「あ~終わった! これでやっと忙しかった日々から解放されるな朔夜! あとはクリスマスにお正月、冬の二大イベントを待つだけだぜ」

「…………」

「ん? どした朔夜、不機嫌な顔をして?」


最後のテストが返却された英語の授業後、井上君と神崎君の会話。

いや、井上君が一方的に話すだけの状況に、私もどうしたのかとチラリと神崎君に視線を向けると、確かにテスト用紙を凝視する彼の眉間には深い深い皺が刻まれていて――

もしかして? と頭に過った疑念を確めようと、私はこっそり隣の席の神崎君のテスト用紙を盗み見る。

するとそこには見るも無惨な点数が書かれていた。

あぁ、神崎君も赤点を免れなかった一人だったかと苦笑を漏らす私に気付いたのか、神崎君は急いでテスト用紙を私から隠した。

その反応に井上君も何かを察したらしく


「まさか朔夜、お前赤点だったのか?」

「うるさいっ!」

「何点だったんだよ。見せてみろよ」

「誰が見せるか!」


からかうように質問を浴びせる井上君。
からかわれる側の神崎君は、ついにはテスト用紙をグチャグチャに丸めて机の中に隠すものだから、井上君はすぐに私に話題を振った。


「白羽、コイツの点数何点だった?」

「うわ~~言うな! 絶対言うなよ葵葉!」


慌てたように神崎君が私の口を塞ぐ。

これでは喋る事は出来ないと、私は両手で指文字を作ってみせた。


「マジ? 8点?」

「おい葵葉、何教えてんだよ!」

「だって……あまりにも衝撃的な点数だったから」

「なら余計に黙ってろよ!」

「コラコラ。自分の不甲斐なさを棚にあげて人を責めるなんてみっともないぞ、朔夜」

「うるせぇ井上! お前は笑いすぎだ!」

「だって8点て……100点満点中8点て……お前すごすぎ。よくそんなんで転入試験合格出来たな」

「………………余計なお世話だ」


拗ねたように唇を尖らせる神崎君の肩をバシバシ叩きながら井上君は楽しそうに言った。


「ま、せいぜい冬休みの補習、頑張れよ」

「ふん。誰が補習なんか受けるかよ」

「おいおい、補習受けなきゃ進級出来ないぞ」

「別に進級する気なんてねぇからいいんだよ」

「進級する気ないって、いきなり留年宣言か? そりゃ開き直り過ぎだろ朔夜」

「うるせぇ~! この話はもう終わりだ!」


散々笑われ、完全にヘソを曲げてしまった神崎君は、机に突っ伏すと一方的に話を終わらせた。


「あ~悪かった悪かった。ちょっとからかい過ぎたよ。ま、補習が始まる前には、楽しみも待ってる事だし、明後日の打ち上げ会兼朔夜の歓迎会は、嫌な事全部忘れてパァッと楽しもうや。な、朔夜!」

「ふん!」


井上君の慰めに未だ顔を上げようとしない神崎君。

余程ヘソを曲げたらしい彼の態度に、井上君は私の顔を見ると苦笑まじりに肩を上げてみせた。

つられて私も苦笑いをかえす。


その後井上君は他のクラスメイト達の元へと行ってしまい、私は不機嫌な神崎君と二人その場に取り残された。


「……」

「…………」

「なぁ、葵葉」

「……?」


机に突っ伏したまま、私を呼ぶ神崎君。
私は返事をするでもなく、再び彼へと視線を向けた。


「明後日の約束……覚えてるか?」

「約束? うん、もちろん覚えてるよ」

「そっか。ならよし。次こそは約束破るなよ」


伏せていた顔を少しだけ上げて、からかうような笑顔を浮かべた神崎君と視線が絡まる。

瞬間、私の心臓がドクンと少し強く跳ねたのを感じた。


「う……うん」

「絶対だからな!」

「………うん」

「よし。じゃあ明後日、お前ん家に迎え行くから」

「えぇ? ウチまで来るの?」

「当たり前だろ。お前には約束を破った前科があるんだから」

「あの時はしょうがなかったんだよ。行きたくても体が言う事きいてくれなかったんだもん」

「だから、今度は風邪なんかひくなよ」

「分かってる」


不機嫌だったはずの神崎君の機嫌もいつの間にか戻り、気付けばいつも通り彼のペースに流されている。

でも以前程の嫌悪感はもうなくて、まるで遠足前の小学生みたいにワクワクした顔の彼を見ていると、不思議と私まで明後日が楽しみに思えてならなかった。

クリスマスイブまであと2日。

そして、あと9日もすれば残り少なくなった今年も終わる――

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