願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

三度目の指切り

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私からの突然のありがとうに、神崎君は珍しく顔を赤く染めて狼狽えている。


「は……は? 突然何だよ、ありがとうって? い、意味わかんねえんだど」

「私なんかの事をいつも気にかけてくれてありがとう。文化際の時、私の分のお土産をお兄ちゃんに預けてくれてありがとう。文化祭の美術部の展示会でも、私の代わりに私の絵を飾ってくれてありがとう。あの日神崎君が私の為にしてくれた事、全部お兄ちゃんから聞いたよ。その話を聞いた時ね、私凄く嬉かったの。私の頑張ってきた事は無駄にならなかったんだって。沢山の人に見てもらえて、認めて貰えた。それが凄く凄く嬉かったの。全部全部神崎君のおかげ。だから、ありがとう」

「………………べ、別に感謝される程の事じゃない」


一瞬間が空いて、神崎君はプイと私から顔を反らして言った。

照れ隠しをしているその姿が何だか可愛くて、フフと笑みが溢れた。


「う、うるさい! 笑うな!」


そんな私の笑いが癇に障ったのか、神崎君は突然に私の背後に周り込み、私の首に腕を回して裸絞はだかじめをかけられてしまった。


「え?ちょ……突然何? ちょっと苦しいよ神崎君」

「うるせぇ。言っとくけどな、勿論あれはお前への貸しだからな!」

「えぇ?! 貸しって何それ?!!」

「当たり前だろ。俺はそんなに親切な人間じゃない。ちゃんと貸した分の借は返してもらわないとな。世の中はギブアンドテイクなんだ!」

「そ、そんな~……」

「それに、文化祭を一緒に回ろうって約束も守られなかったわけだから、全部で貸し2つだな」

「えぇ~?!あの約束は、無効じゃないの?」

「なわけないだろ! それとも約束を破った罰として本当に指を切るか? 針を千本飲むのか?」

「や、やだ~~!」

「なら約束を守れなかった罰を見逃してやる代わりに、お前に貸した俺への借りを返しやがれ。さ~て、何をしてもらおうか」

「……」


頭上から聞こえる神崎君の声は、まるで悪戯を考える子供のように楽しそうで、私は一人後悔していた。

せっかく彼と向き合ってみようと思ったのに、やっぱりそんな事思うんじゃなかったと。
感謝なんてするんじゃなかったと。

あの感動はなんだったのか、私の感動を返せと、私は一人心の中でそう叫んでいた。


「あ、そうだ、良いこと思い付いた!」


弾むような神崎君の声に私の肩はビクンと恐怖に震える。


「な……何? いったい何を思い付いたの?」


怯える私からの問いに、神崎君はクックッと堪えきれない笑いを溢している。

本当に、何をさせるつもりなのかと私の顔は青く染まった。


「貸し一つ目。お前、俺と付き合え!」

「……え?! えぇ?! えぇぇ~~~??!」


今、付き合えって、付き合えって言った?
……え? え?! えぇ?!!
それってつまりは……告白??!

予想もしていなかった神崎君からの提案に、私は一人パニックを起こしていると、あっけらかんとした声で神崎君は言葉を続けた。


「12月24日、確かクラスの打ち上げ会は夕方からだったはず。だからその日の夕方までの時間、俺の行きたい場所にお前付き合え」


「………」


あぁ、そうか。そっちのか。
自分の早とちりな勘違いに、かぁっと顔が熱くなるのを感じた。


「ん? 葵葉? どうした急に固まって?」

「ゴ、ゴメンゴメン。思ってたより大した要望じゃなくて拍子抜けしちゃった。そんな事で良いなら、私は大丈夫だよ」

「本当か? よし、じゃあ決まりな!」


嬉しそうに言いながら、神崎君は私を解放してくれる。

そして嬉しそうに小指を差し出しながら、私にお決まりの指切りを求めてきた。

私も、もう慣れた様子で神崎君の参拝差し出す小指に私の小指を絡ませると


「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます。指切った!」」


二人で指切りの歌を口ずさんだ。
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