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冬物語
土産話②
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「おいおい葵葉、笑い事じゃないぞ。本当に大変だったんだからな! あんた今、人の事盗み撮りしてたでしょ、とかってわけのわからない言いがかりつけられて、周りからは白い目で見られるし、あ~くそっ! 思い出しただけで寒気が。……でも、神崎とか言ったか。あいつが僕の顔を知ってたおかげで誤解を溶いてくれてな、何とかその場を納めて貰ったよ」
「神崎君が?」
「あぁ。あいつに助けられたのはムカつくが、今回ばかりは奴に感謝だ。あとあいつ、お前の体の事凄く心配してた。クッキーも実はあいつから葵葉にって預かってきたものだ」
「……え?」
二度目の驚きの声を上げる。
上げながら私は手に持っていたクッキーへと視線を落とした。
「それからもう一つ、あいつから葵葉へのサプライズだ。ちょっとこの写真を見てくれ」
「?」
そう言ってお兄ちゃが私に見せてくれた写真。その写真に、私は三度驚いた。
だってそこには、額に飾られた私の絵が写し出されていたから。
「……どうして……? これ……私の絵……」
「あぁ、そうだ。葵葉が文化祭用に一生懸命描いてた絵だ。しかもこの写真、どこで撮ったと思う? 美術部の展示会場でだぞ」
「……どうして? だって私……昨日倒れたせいで美術部の展示会で絵を飾る準備、出来なかったはずなのに……。なのに……どうして?」
「言っただろ。神崎からのサプライズだって。昨日お前の荷物からこの絵を見つけたあいつが、お前の代わりに展示してくれてたんだよ」
「…………」
「しかもな、美術部の企画で、展示会に足を運んでくれたお客さんからの人気投票を実施してたんだけどな、ほら、葵葉の絵の周り、赤い花が沢山飾られてるの分かるか?」
お兄ちゃんは、また別のアングルから撮った写真を見せながら言った。
その写真には、確かに私の絵の周りに沢山の紙でつくられた赤い花が飾られていて――
「この赤い花が、一人一票ずつ配られた投票券。つまり、葵葉の絵を気に入って投票してくれた人がこんなに沢山いたって事だ。どうだ、凄いだろ!!」
「……………」
お兄ちゃんの聞かせてくれた話に、私はついに言葉が出てこなくなっていた。
だって一生懸命描いた私の絵が、まさか私の知らない所でちゃんと日の目を見ていたなんて思ってもいなかったから。
更にはこんなに大勢の人の目に止まって、投票して貰えてたなんて信じられなくて。
嬉しさのあまり、ついに堪えきれなくなった涙が大きな粒となって私の頬を濡らした。
無駄じゃなかった。この一週間私が頑張って来た事は、無駄なんかじゃなかったんだ。
ボロボロと止めどなく落ちる涙を拭ってくれながら、お兄ちゃんはそっと私の肩を抱くと、泣きじゃくる私を優しく慰めてくれた。
お兄ちゃんの温もりに更に心を熱くさせながら、私はもう一人、私を気にかけてくれていた神崎君にも感謝せずにはいられなかった。
ありがとうお兄ちゃん。
ありがとう神崎君。
文化祭には参加出来なかったけれど、二人がくれた今日と言う日の温かな思い出を、私はこの先もずっと忘れる事はないだろう――
「神崎君が?」
「あぁ。あいつに助けられたのはムカつくが、今回ばかりは奴に感謝だ。あとあいつ、お前の体の事凄く心配してた。クッキーも実はあいつから葵葉にって預かってきたものだ」
「……え?」
二度目の驚きの声を上げる。
上げながら私は手に持っていたクッキーへと視線を落とした。
「それからもう一つ、あいつから葵葉へのサプライズだ。ちょっとこの写真を見てくれ」
「?」
そう言ってお兄ちゃが私に見せてくれた写真。その写真に、私は三度驚いた。
だってそこには、額に飾られた私の絵が写し出されていたから。
「……どうして……? これ……私の絵……」
「あぁ、そうだ。葵葉が文化祭用に一生懸命描いてた絵だ。しかもこの写真、どこで撮ったと思う? 美術部の展示会場でだぞ」
「……どうして? だって私……昨日倒れたせいで美術部の展示会で絵を飾る準備、出来なかったはずなのに……。なのに……どうして?」
「言っただろ。神崎からのサプライズだって。昨日お前の荷物からこの絵を見つけたあいつが、お前の代わりに展示してくれてたんだよ」
「…………」
「しかもな、美術部の企画で、展示会に足を運んでくれたお客さんからの人気投票を実施してたんだけどな、ほら、葵葉の絵の周り、赤い花が沢山飾られてるの分かるか?」
お兄ちゃんは、また別のアングルから撮った写真を見せながら言った。
その写真には、確かに私の絵の周りに沢山の紙でつくられた赤い花が飾られていて――
「この赤い花が、一人一票ずつ配られた投票券。つまり、葵葉の絵を気に入って投票してくれた人がこんなに沢山いたって事だ。どうだ、凄いだろ!!」
「……………」
お兄ちゃんの聞かせてくれた話に、私はついに言葉が出てこなくなっていた。
だって一生懸命描いた私の絵が、まさか私の知らない所でちゃんと日の目を見ていたなんて思ってもいなかったから。
更にはこんなに大勢の人の目に止まって、投票して貰えてたなんて信じられなくて。
嬉しさのあまり、ついに堪えきれなくなった涙が大きな粒となって私の頬を濡らした。
無駄じゃなかった。この一週間私が頑張って来た事は、無駄なんかじゃなかったんだ。
ボロボロと止めどなく落ちる涙を拭ってくれながら、お兄ちゃんはそっと私の肩を抱くと、泣きじゃくる私を優しく慰めてくれた。
お兄ちゃんの温もりに更に心を熱くさせながら、私はもう一人、私を気にかけてくれていた神崎君にも感謝せずにはいられなかった。
ありがとうお兄ちゃん。
ありがとう神崎君。
文化祭には参加出来なかったけれど、二人がくれた今日と言う日の温かな思い出を、私はこの先もずっと忘れる事はないだろう――
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