願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

土産話

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「あ、それからこれな、葵葉のクラスで販売してたクッキーだ」


ビニール袋から最後に取り出されたものを私に手渡しながらお兄ちゃんが言う。

それは透明な袋に可愛くラッピングされた二枚入りのチョコチップクッキー。


「お兄ちゃん、私のクラスにも行ったの?」

「あぁ、勿論! 葵葉のクラスの足湯喫茶な、珍しい事をやってるってなかなかの賑わいだったぞ。おかげで入場するのに1時間も待たされた」

「え、本当に?」

「あぁ。喫茶メニューも売り切れてるものが多くて、このクッキーしか持って帰って来れなかった。ごめんな」

「ううん。そんな、全然謝る事なんてないよ。むしろ賑わってたなら凄く嬉しい。だってずっと前からクラスの皆が一生懸命準備してたお店だから」

「そっか。そうだな。あぁ、そう言えば、少しでも葵葉に文化祭の雰囲気が伝わればと思って、いっぱい写真を撮って来たんだ。見たいか?」

「え、本当? うん、見たい!見せてお兄ちゃん」


鞄の中からゴソゴソとデジタルカメラを取り出したお兄ちゃんは、1枚1枚説明を加えながら私に写真を見せてくれた。

その中には、さっきお兄ちゃんが言っていた通り、クラスの前に長く伸びる行列が写る写真もあった。
列には大人から子供まで、様々な年齢の人が並んでいる。

教室の中の様子が写し出された写真には、発泡スチロールを切り貼りして作られた畳一畳程の大きさの足湯が4つ並んでいて、そのうちの3箇所で一つの足湯をぐるりと囲うようにして大勢の人が座りながら楽しげにケーキやお団子、お茶やジュースといった喫茶メニューを食していた。

お客さん達の笑顔で溢れたその様子はとても楽しげで、店内の賑やかな様子がとても良く伝わってきた。

そんなお客さん達の周りでは、お揃いの紺色の法被を来たクラスメイト達が忙しそうに動き回っている。

女子生徒達の中には、法被の下に浴衣を着ている子の姿もあって、主に浴衣を来た彼女達がメニューを運んでいたり、注文をとったりと接客業務を担当しているようだった。

華やかな女子生徒達とは対照的に、男子生徒はと言えば、お客さんのいない一つの足湯の周りで、法被をたすき掛けしながら、何やらバケツを持って作業していた。

いったい何をやっているのか、流石に写真だけでは推測しきれなかった私は、実際にその場にいたお兄ちゃんに質問してみる事にした。


「ねぇお兄ちゃん、このお客さんのいない足湯の周りで、男の子達はみんな何やってるの?」

「あぁ、これか? これはな、お湯を入れ替えてるんだよ。足湯の温度を保つ為に、多分ローテーションでそれぞれの足湯のお湯を入れ替えてるみたいだったな。お湯は水道からホースで引っ張って溜めてたけど、さすがに排水設備なんて作れなかっただろうから、男共がそうやってバケツ使って、人力で頑張ってたな」

「へ~、そんなやり方してたんだ。それじゃあきっと男の子達は今日1日凄く大変だっただろうね」

「だろうな。けど、そのおかげで湯加減はなかなかに良い感じだったぞ。本物の足湯みたいってお客さんからの評判も良かったし」

「ふふふ。皆の努力の結果だね。大盛況だったみたいで本当に良かった。……それにしてもお兄ちゃん、本当にいっぱい写真撮ったんだね」

「まぁな。お前に見せてやりたくて兄ちゃんも頑張ったんだ。……でも正直言えばお前のクラスを写真に撮るのは物凄く大変だったんだぞ……」

「そうなの?」

「あぁ。お前のクラスの女子の、え~っと確か安藤とか言っかな。ちょっとつり目で気の強そうな派手顔の女。そいつに変質者と間違えられて、殴られるは蹴られるは、散々な目に合わされた……」

「えぇ? 安藤さんに?」


お兄ちゃんが語った苦労話に驚きの声を上げながらも、変質者に間違えられてぼこぼこに殴られるお兄ちゃんの姿が何故だか容易に想像出来て、私は思わずクスリと笑ってしまった。

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