願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

気まずい朝食

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――次の日、私はいつもより早い時間に目が覚めた。

学校へ行かなくても良いのだから、もっとゆっくり眠っていれば良いのに、不思議と目は冴え再び眠りにつく事は出来そうになかった。

熱を測ってみたら、昨日は39°あった熱も37°台まで下がっていた。
病院で射ってもらった点滴がきいたのだろうか。

私はパジャマの上に厚手のカーディガンを羽織ると、朝ごはんを食べに一階へと下りた。


「おはよう」


居間へ行くと、いつも私より起きてくるのが遅いはずのお兄ちゃんが珍しくそこに居て、視線が合うや驚いた顔をして私に言った。


「葵葉どうしたんだ? 今日は学校休むんだから、もう少しゆっくり寝てて良いのに」

「……うん。でもなんか目が覚めちゃって。朝ごはん食べに来た」

「ご飯なら後で部屋に運んでやる。昨日は熱が高かったんだからまだ横になってた方が良いんじゃないか」


お兄ちゃんの助言に、私は小さく首を横に振った。


「良い。皆とここで食べたいの」


一人で横になっていたら、色んな事を考えて気分も落ち込んでしまいそうで……私はどうしても一人になりたくなかった。


「……そっか、分かった。そこじゃ寒いだろ。ご飯の準備が出来るまで、こっちに来てストーブにでもあたってたら良い」


私の気持ちを察してくれたのか、お兄ちゃんはそれ以上何も言わずに、自分が座っていた一番ストーブに近い席を私に譲ってくれた。


「…………」

「…………」

「お兄ちゃん、今日は早いんだね」


無言のまま、並んでストーブにあたっていたお兄ちゃんと私。いつもなら鬱陶しい程に絡んでくるはずのお兄ちゃんが今日は何だか妙に静かで、気まずさに私が話題を振った。


「ん?あぁ、ちょっとな」

「……」


お兄ちゃんから返されたのは歯切れの悪い返答。
その返しに私はお兄ちゃんが静だった理由が何となく分かった気がした。

多分お兄ちゃんは、今日の文化祭に参加するつもりなんだ。
だから参加出来ない私に気を使って、いつもより口数が少ないのではないかと。

でも受験を間近に控えた三年生は、今日の文化祭は自由参加だったはず。それこそお兄ちゃんは来月にセンター試験を控えているのに、どうしてわざわざ参加なんて……私は参加出来ないのに


「っ…………」


気が付くと自分の心の中に、酷く醜い感情が沸き上がっている事に気付いて、私はブンブンと首を横に振った。これ以上醜い感情に支配されたくなくて必死に振り払おうとした。

――でも結局、私自身が必死にネガティブな感情を振り払おうとしても、家族みんなが私に気を使っている様子で、その日の朝食はいつもより気まずい朝食となった。

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