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冬物語
思いがけない出来事②
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それから暫くしてお母さんが私とお兄ちゃんを迎えに来てくれて、私達は病院を後にした。
帰り道、お母さんの運転する車の中、お兄ちゃんもお母さんも私に気を使っているのかとても静かで、カーステレオからながれるラジオの音だけがやけに大きく聴こえていた。
「…………」
「葵葉……落ち込んでるのか?」
ずっと黙ったまま、ぼんやりと無表情に外を眺めていた私にお兄ちゃんが遠慮がちに話し掛けて来る。
そんなお兄ちゃんに私は、視線を外の景色に向けたまま静かな声で尋ねた。
「………ねぇ、お兄ちゃん。私、最後まで手伝えなかったけどクラスの準備はもう終わったのかな?」
「あ、あぁ、きっと大丈夫だ。皆、お前の分も頑張ってくれてるさ」
「………そっか。私なんかいなくても、きっと変わらず、上手く回ってるよね」
「……………」
私の卑屈な返しにお兄ちゃんからの言葉はない。
せっかく励まそうとしてくれたお兄ちゃんを、きっと困らせてしまったのだろう。
本当はもっともっと胸の中に駆け巡るこのもやもやした感情を吐き出してしまいたかった。
何かに八つ当たりしてしまいたかった。
けれど、これ以上吐き出してしまったら、お兄ちゃんやお母さんをただ困らせしまうだけだから……たがらこれ以上醜い感情を口に出す事はやめた。
あぁ、明日の神夜君との約束はどうしよう。せっかく誘ってくれたのに、調子に乗って約束なんてしなければ良かった。
役たたずの私は、また安藤さんやクラスメイト達を怒らせてしまっただろうか。もう怒りを通り越して呆れられてるかもしれないな。一体どんな顔して休み明け登校すれば良いのだろう。憂鬱だ。
そう言えば美術部の展示会の準備はどうなったのだろうか。せっかく頑張って仕上げた絵も、結局は日の目を見ることは出来なくて、無駄に終わっちゃったな。
……あぁ、やっぱり……やる気になんてならなければ良かった。やる気になって頑張らなければ、熱を出す事もなかったかもしれないのに。
文化祭に参加出来なくて、こんな悔しいなんて感情も、寂しいなんて感情も、知らずにすんだかもしれないのに。
口には出さないと決めた後も、心の中にもやもやと醜い負の感情が沸き起こってくる。
声に出してはいけない。これ以上家族を困らせてはいけないと、それらの感情を心の奥深くに押し込めようとすればするほど私は感情を上手くコントロール出来なくなって、じわりと涙が込み上げて来た。
だから私は涙を隠すように家へと帰る車の中、ずっと家族に背を向けたまま、一人窓の外を眺め続けていた。
帰り道、お母さんの運転する車の中、お兄ちゃんもお母さんも私に気を使っているのかとても静かで、カーステレオからながれるラジオの音だけがやけに大きく聴こえていた。
「…………」
「葵葉……落ち込んでるのか?」
ずっと黙ったまま、ぼんやりと無表情に外を眺めていた私にお兄ちゃんが遠慮がちに話し掛けて来る。
そんなお兄ちゃんに私は、視線を外の景色に向けたまま静かな声で尋ねた。
「………ねぇ、お兄ちゃん。私、最後まで手伝えなかったけどクラスの準備はもう終わったのかな?」
「あ、あぁ、きっと大丈夫だ。皆、お前の分も頑張ってくれてるさ」
「………そっか。私なんかいなくても、きっと変わらず、上手く回ってるよね」
「……………」
私の卑屈な返しにお兄ちゃんからの言葉はない。
せっかく励まそうとしてくれたお兄ちゃんを、きっと困らせてしまったのだろう。
本当はもっともっと胸の中に駆け巡るこのもやもやした感情を吐き出してしまいたかった。
何かに八つ当たりしてしまいたかった。
けれど、これ以上吐き出してしまったら、お兄ちゃんやお母さんをただ困らせしまうだけだから……たがらこれ以上醜い感情を口に出す事はやめた。
あぁ、明日の神夜君との約束はどうしよう。せっかく誘ってくれたのに、調子に乗って約束なんてしなければ良かった。
役たたずの私は、また安藤さんやクラスメイト達を怒らせてしまっただろうか。もう怒りを通り越して呆れられてるかもしれないな。一体どんな顔して休み明け登校すれば良いのだろう。憂鬱だ。
そう言えば美術部の展示会の準備はどうなったのだろうか。せっかく頑張って仕上げた絵も、結局は日の目を見ることは出来なくて、無駄に終わっちゃったな。
……あぁ、やっぱり……やる気になんてならなければ良かった。やる気になって頑張らなければ、熱を出す事もなかったかもしれないのに。
文化祭に参加出来なくて、こんな悔しいなんて感情も、寂しいなんて感情も、知らずにすんだかもしれないのに。
口には出さないと決めた後も、心の中にもやもやと醜い負の感情が沸き起こってくる。
声に出してはいけない。これ以上家族を困らせてはいけないと、それらの感情を心の奥深くに押し込めようとすればするほど私は感情を上手くコントロール出来なくなって、じわりと涙が込み上げて来た。
だから私は涙を隠すように家へと帰る車の中、ずっと家族に背を向けたまま、一人窓の外を眺め続けていた。
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