願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

文化祭の準備④

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そして朝一番から始めた看板を書き終えたのは、11時を過ぎた頃――

1週間かけてやっと完成した看板を前に、神崎君は「出来た~!」と喜びを叫びながら、やりきったとばかりに教室の床に勢い良く倒れ込んだ。

流石に私には床へ寝転がる事は出来なかったけれど、ずっと携わって来たものが完成した今の気持ちは神崎君と同じ。達成感で胸が高鳴っていた。

気が付けば神崎君の喜びの声に、クラスの男の子達が集まっていて、ぐるりと私達の周りを囲んでいる。


「出来たのか? どれどれ、ちょっと見せてくれよ」


私の頭越しに、完成したばかりの看板を覗き込みながら井上君が言った。


「どうだ井上、俺と葵葉の二人で仕上げた傑作だぜ!」


ヒョイと体を起こした神崎君が嬉しそうに言う。
顔に絵の具をつけてハシャグ姿はまるで子供みたいだ。


「おい朔夜、その猿って田中がモデルか?」

「は? 井上、誰が猿だ! ついでに人の耳を引っ張るな!」


そんな神崎君に負けず劣らず、看板に描かれた猿の絵を指差しながら、隣にいた田中君をからかいはじめる井上君。


「え?だってそっくりじゃん。このでかい耳と言い、クリクリの坊主頭と言い」

「だから、頭も撫でるな! 俺は猿じゃない!」

「ほらほら、エサだぞ~」

「ウキッ!」


怒ってはいるものの、まんざらでもなさそうに田中君は井上君がポケットから取り出したチョコを掴んで、ノリ良く猿の泣き真似をして見せてくれた。
二人の即興コントにどっと笑いが起きる。


「ちょっと男子達、何ふざけてるのよ。そんな時間あるならこっち手伝って!」


その時、遠巻きにこちらを見ていたクラスの女の子達からは怒りの声があがった。

その声に慌てて視線を向ければ、数人の女子生徒達が不機嫌な顔でこちらを睨んでいて、その中の一人、安藤さんと目があった瞬間、私は慌てて笑みを解き視線を反らせた。

彼女達が怒るのも当然だ。看板が出来上がっても、まだまだやらなければならない事は沢山残っているのに。自分達だけ騒いでる場合ではなかった。


「か、神崎君、まだまだ他にもやらなきゃいけない事は沢山あるし、早くこの看板を飾りに行って次の作業に移ろう」

「ん? あぁ、それもそうだな。おい井上、これってどこに飾れば良いんだ?」

「確か渡り廊下が看板を飾る場所に指定されてたと思う。行けば誰かしら実行委員がいると思うから取り敢えず行ってみてくれ」

「了解。ってわけで、ちょっと葵葉と看板取り付けに行ってくるわ。おらおらお前ら、邪魔だからどけ~。行くぞ葵葉」

「う、うん」


神崎君に促されるまま、私は逃げるように教室を後にした。


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