願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

気になる存在

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――次の日
いつもと変わらない日常、いつもと変わらない授業風景の中、私は一人そ私そわしていた。


昨日の一見以来、私は隣の席の神崎君の事が気になって仕方なかった。


授業中も、先生の話などまともに耳には入ってこないで、隣の席の神崎君を横目でちらちら盗み見てしまうのだ。


そんな私の気も知らないで、神崎はと言えば、数学の授業中だと言うのに堂々と机に突っ伏して、居眠りしている。



――『指切りげんまんうそついたら針千本飲~ます。指切った』


寝顔を見ながら、昨日強引に彼と交わされた指切りを思い出す。


あの瞬間、頭の中に甦えってきた
でもその”が何だったのか、一夜明けた今もまだ思い出せなくて、でもあの時確かにどこか懐かしく、温かい気持ちを感じた。


あの感情の正体がいったい何だったのか、思い出したいのに思い出せない。
そんなモヤモヤとした感覚が、しこりとなって今もまだ私の中に残り続けているのだ。



――『俺をモデルに描いてよ。葵葉ならかけるよ』


何故あの時彼は、自分をモデルに絵を描く事を願い出たのだろう?


何故私自身描いた経験のない人物画を、まるで描いた事があるかのように描けると断言したのはどうして?


そもそも、何故神崎君は転校初日から私なんかに馴れ馴れしく構ってくるの?


何故先生達以外誰も知らないはずの私の病気の事を知っていたの?


彼に関して、以前から不思議に思っていた多くの事柄が、あの日交わした約束を交わした瞬間感じた#何か__・__の中に隠れているような気がして……


私は今まで以上に私は神崎君の事が気になって仕方なくなっていた。


ふと気がつくと、自分でも無意識のうちにノートの上にシャーペンを走らせていて、私は彼の無防備な寝顔をスケッチしていた。


そして、授業もそっちのけに、その後何枚も何枚も彼の姿をスケッチし続けた。


  ◆◆◆


――キーンコーンカーンコーン


授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
その音に、神崎君の瞼も開かれる。


スケッチの為、神崎君へ向けていた私の視線と、目覚めたばかりの彼の視線がぶつかった。



「っ………」



気まずさに慌てて視線を反らした私だったが――
時既に遅し。



「何してんの?」



からかうような口調で彼に問われる。



「な、何でもないよ」


「嘘つけ。今、俺の寝顔見てただろ。スケッチでもしてた? 寝顔を盗み描くなんて、葵葉のエッチ」


「なっ?! ち、違うもん!そんな事してないもん!!」



誤魔化そうと必死に平静さを装うが、全くの図星をつかれて、恥ずかしさのあまり耳まで赤くなるのを感じた。


それでも必死に否定するものだから、ついつい声は大きくなって


「こ~らうるさいぞ~白羽、神崎。お前達二人、じゃれてないで早く立て」



数学の高橋先生に注意をされてしまう。



「す、すみませんっ!」



慌てて先生に視線を向ければ、いつの間に起立の号令が掛かっていたのか、立ち上がって私達を迷惑そうな顔で見下ろすクラスメイトと、先生の呆れ顔がそこにはあった。


と同時に、クスクスと嘲笑うような笑い声や、ヒソヒソと冷ややかな話声が聞こえてくる。


私は急いで立ち上がるも、そこにもし穴があったならば入りたい程の恥ずかしさが込み上げて来て、授業終了の礼の後も、私は暫く顔を上げる事が出来なかった。

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