願いが叶うなら

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
104 / 179
冬物語

反省

しおりを挟む
昇降口まで来ると、文化祭が近い事もあってか、大勢の生徒でごった返していた。


私達のクラスもまだ残っていたらしく、数人のクラスメイトと出くわした。



「あれ、朔夜と白羽じゃん。お前等もまだ残ってたんだな」


「おう、井上」


「あれ? でもお前等クラスにいなかったよな? こんな時間までどこで何してたんだ?」


「ご……ごめんなさい。私達、今まで美術室で部活動していて……」


「美術室? へぇ、白羽って美術部だったんだな。ん? 私って事は、朔夜、お前が決めてた部活ってのも美術部だったのか? 意外だなぁ」


「おう。葵葉が美術部だったからな」



やっぱり! 私がいたから入ったんだ! このストーカーめ!
2人の会話に、私は思わず心の中で一人突っ込みを入れる。



「ははは。相変わらず仲良しだな、お前等」


「仲良しなんかじゃない!」
「あぁ、まあな」



今度の突っ込みは心の中では我慢出来なくて、思わず声に出してしまった。


そのタイミングが見事に神崎君と重なって「やっぱり仲良しだ」と、井上君に更に笑われてしまった。
恥ずかしさにかぁっと顔が赤くなるのを感じた。


と、その時、突然横からドンッと強い衝撃を感じて、私の体は下駄箱へとよろめき、「きゃっ」と短い悲鳴を零してしまう。



「あら、ごめんなさい。そんな所で突っ立ってるから、あたっちゃった」


「あ、安藤さん……。ごめんなさい」



衝撃の正体は、どうやらクラスメイトの安藤さんだったらしく、狭い下駄箱で立ち話をしていた事で彼女の邪魔をしてしまっていたようだ。


迷惑を掛けていた事に気付いて、急いで謝ったものの、彼女から注がれる眼差しは酷く冷たいものだった。


彼女以外にも、数人のクラスの女の子達から、私は冷たい視線を向けられていた。



「……安藤さん?」



視線に耐えかねて、私が彼女の名前を呼ぶと、彼女は冷たい声で言った。



「文化祭の準備では放課後残れないくせに、部活動ではこんな時間まで残れるんだ。へぇ~」


「あっ……の……これは………」



毎週部活動があると分かっている水曜日は、病院の予約を入れないようにしているから、何時まででも残る事が出来る。だからギリギリまで残って作業していた。


けれど、それは言い訳にもならない事に気付いて私は言いよどんだ。
放課後残る時間があったのに、私はその時間を自分の為に費やしてしまったのだから。


毎日のように放課後遅い時間まで残って準備している彼女達からしたら、私の身勝手さに腹を立てるのは当然の事だろう。


部活は時間通りに切り上げて、クラスに戻るべきだったと言う事を、今更ながらに気付いて深く反省した。



「…………ごめんなさい」


「別に、あなたなんか最初からあてにしてないからいいけど。井上邪魔よ! 私の靴が出せないじゃない」


「うお、怖ぇ」



謝罪の言葉すらもまともに聞き入れて貰えない。
それ程に私は、彼女達を怒らせてしまったのだろう。


安藤さんをはじめとしたクラスの女子達は、私に冷たい視線を残したまま、昇降口を後にした。


彼女達の背中を見送りながら、どうしたら許して貰えるだろうかと考えて、私は文化祭までの通院をなるべく減らしてもらえないか病院に相談してみようと心に決めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

おとなりさんが元彼だなんてツイテナイ!!

鳴宮鶉子
恋愛
一生独身で生きていくと駅前の高層マンションの低層階を分譲したのに、お隣さんが最悪な別れ方をした元彼で……

誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく

矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。 髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。 いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。 『私はただの身代わりだったのね…』 彼は変わらない。 いつも優しい言葉を紡いでくれる。 でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...