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冬物語
長かった1日の終わりに
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そうして、その後もわけも分からず転校生の神崎君に絡まれながら、長かった一日が終わりを迎えようとしていた。
これでやっと神崎君から逃れられる。
内心ほっとしながら、いそいそと帰り支度を始めていると、賑やかな教室に、女子のクラス委員である榊原さんからこんなお願いの声が上がった。
「今日の放課後も、再来週の文化祭に向けて準備を進めて行きたいと思います。放課後時間の取れる人は残って手伝って下さい」
榊原さんの呼びかけを受けて、クラスの数人の女の子達が神崎君の元へとやって来る。
「ねぇねぇ朔夜君、今榊原も言ってたけどさ、ウチの学校、2週間後に文化祭を控えてて、今準備に忙しいんだ。朔夜君、転校してきたばっかりだけどクラスメイトとの親睦を深める為にもさ、文化祭の準備、手伝って行かない?」
その中で、クラスで一番美人だと噂される安藤さんが先頭に立って、神崎君を文化祭の準備に誘った。
「あぁ良いぜ。ところでこのクラスは、出し物は何やるんだ?」
「本当? 良かった~。えっとね、私達のクラスは、足湯兼喫茶店をやるんだ。うちの文化祭、12月なんて珍しい時期にやるでしょ。せっかくだから季節感のある出し物をしようって話になって」
「へぇ~、面白そうだな」
「でしょでしょ! 実はこのクラス展の発案者は私なんだぁ。それでねそれでね、今は私がクラスの文化祭リーダーとして色々準備を進めてるの。でね、温泉と言えば、旅館。旅館と言えば法被を着てるイメージってない? 実はクラスみんなでお揃いの法被を着ようって話になってて、私達は法被を作る係なんだけど……朔夜君には私達の係を手伝ってもらえないかな? こっち人手が少なくて」
どこか媚びるように、どこか嬉しそうに神崎君を誘う安藤さんの話を、私の前の席の――神崎君からは斜め前の席に座る井上君が突然に割って入った。
「よせよせ、男に裁縫させるなんてかわいそすぎんだろ。それより男手は力仕事に回してくれよ。なぁ神崎、俺達と一緒に買い出しに行こうぜ!」
「ちょっと! 買い出しならもう十分人手足りてるでしょ!」
「はぁ? 全然足りねぇっつの。俺らは発泡スチロールの箱を50箱近くも商店街からかき集めて来なきゃならないんだ。とてもじゃないけど一度で運べる量じゃないだろ。どんだけ俺らに商店街と学校を往復させる気だ」
気がつけば安藤さんと井上君は、神崎君を取り合って喧嘩を始めていた。
これのどこがはみ出し者だと言うのだろうか。
昼休みの神崎君との会話を思い出しながら、私は小さく溜め息を吐いた。
そんな私の溜息に、安藤さんと井上君の喧嘩の原因である神崎君は、二人の喧嘩などお構いなしに、楽しそうに声を掛けて来て――
「なぁなぁ、葵葉は何の係なんだ?」
「……え?」
「文化祭の準備。お前は何の係なんだよ。俺、お前と同じ係になるわ」
「………………え?」
神崎君の口から飛び出した出た、思いもよらない質問に、私の思考は一瞬にして停止する。
何と答えたら良いのか分からなくて。
だって私はまだ何の係にもついていなかったから。
放課後病院に行くことの多い私は、まだ一度も文化祭の準備に参加できてはいなかったから。
「だめだよ朔夜君。この子はいつも放課後忙しいから、私達の手伝いなんてしてる時間ないんだって」
言葉に詰まっていた私に代わって、安藤さんが答えてくれる。
「どうせ今日も、用事があるとか言って帰るつもりだったんでしょ。いいわよ、さっさと帰りなさいよ」
どこか突き放したような言葉と、安藤さんの冷たい視線が私に突き刺さった。
これでやっと神崎君から逃れられる。
内心ほっとしながら、いそいそと帰り支度を始めていると、賑やかな教室に、女子のクラス委員である榊原さんからこんなお願いの声が上がった。
「今日の放課後も、再来週の文化祭に向けて準備を進めて行きたいと思います。放課後時間の取れる人は残って手伝って下さい」
榊原さんの呼びかけを受けて、クラスの数人の女の子達が神崎君の元へとやって来る。
「ねぇねぇ朔夜君、今榊原も言ってたけどさ、ウチの学校、2週間後に文化祭を控えてて、今準備に忙しいんだ。朔夜君、転校してきたばっかりだけどクラスメイトとの親睦を深める為にもさ、文化祭の準備、手伝って行かない?」
その中で、クラスで一番美人だと噂される安藤さんが先頭に立って、神崎君を文化祭の準備に誘った。
「あぁ良いぜ。ところでこのクラスは、出し物は何やるんだ?」
「本当? 良かった~。えっとね、私達のクラスは、足湯兼喫茶店をやるんだ。うちの文化祭、12月なんて珍しい時期にやるでしょ。せっかくだから季節感のある出し物をしようって話になって」
「へぇ~、面白そうだな」
「でしょでしょ! 実はこのクラス展の発案者は私なんだぁ。それでねそれでね、今は私がクラスの文化祭リーダーとして色々準備を進めてるの。でね、温泉と言えば、旅館。旅館と言えば法被を着てるイメージってない? 実はクラスみんなでお揃いの法被を着ようって話になってて、私達は法被を作る係なんだけど……朔夜君には私達の係を手伝ってもらえないかな? こっち人手が少なくて」
どこか媚びるように、どこか嬉しそうに神崎君を誘う安藤さんの話を、私の前の席の――神崎君からは斜め前の席に座る井上君が突然に割って入った。
「よせよせ、男に裁縫させるなんてかわいそすぎんだろ。それより男手は力仕事に回してくれよ。なぁ神崎、俺達と一緒に買い出しに行こうぜ!」
「ちょっと! 買い出しならもう十分人手足りてるでしょ!」
「はぁ? 全然足りねぇっつの。俺らは発泡スチロールの箱を50箱近くも商店街からかき集めて来なきゃならないんだ。とてもじゃないけど一度で運べる量じゃないだろ。どんだけ俺らに商店街と学校を往復させる気だ」
気がつけば安藤さんと井上君は、神崎君を取り合って喧嘩を始めていた。
これのどこがはみ出し者だと言うのだろうか。
昼休みの神崎君との会話を思い出しながら、私は小さく溜め息を吐いた。
そんな私の溜息に、安藤さんと井上君の喧嘩の原因である神崎君は、二人の喧嘩などお構いなしに、楽しそうに声を掛けて来て――
「なぁなぁ、葵葉は何の係なんだ?」
「……え?」
「文化祭の準備。お前は何の係なんだよ。俺、お前と同じ係になるわ」
「………………え?」
神崎君の口から飛び出した出た、思いもよらない質問に、私の思考は一瞬にして停止する。
何と答えたら良いのか分からなくて。
だって私はまだ何の係にもついていなかったから。
放課後病院に行くことの多い私は、まだ一度も文化祭の準備に参加できてはいなかったから。
「だめだよ朔夜君。この子はいつも放課後忙しいから、私達の手伝いなんてしてる時間ないんだって」
言葉に詰まっていた私に代わって、安藤さんが答えてくれる。
「どうせ今日も、用事があるとか言って帰るつもりだったんでしょ。いいわよ、さっさと帰りなさいよ」
どこか突き放したような言葉と、安藤さんの冷たい視線が私に突き刺さった。
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