願いが叶うなら

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
98 / 175
冬物語

長かった1日の終わりに

しおりを挟む
そうして、その後もわけも分からず転校生の神崎君に絡まれながら、長かった一日が終わりを迎えようとしていた。


これでやっと神崎君から逃れられる。
内心ほっとしながら、いそいそと帰り支度を始めていると、賑やかな教室に、女子のクラス委員である榊原さんからこんなお願いの声が上がった。


 
「今日の放課後も、再来週の文化祭に向けて準備を進めて行きたいと思います。放課後時間の取れる人は残って手伝って下さい」



榊原さんの呼びかけを受けて、クラスの数人の女の子達が神崎君の元へとやって来る。



「ねぇねぇ朔夜君、今榊原も言ってたけどさ、ウチの学校、2週間後に文化祭を控えてて、今準備に忙しいんだ。朔夜君、転校してきたばっかりだけどクラスメイトとの親睦を深める為にもさ、文化祭の準備、手伝って行かない?」



その中で、クラスで一番美人だと噂される安藤さんが先頭に立って、神崎君を文化祭の準備に誘った。



「あぁ良いぜ。ところでこのクラスは、出し物は何やるんだ?」


「本当? 良かった~。えっとね、私達のクラスは、足湯兼喫茶店をやるんだ。うちの文化祭、12月なんて珍しい時期にやるでしょ。せっかくだから季節感のある出し物をしようって話になって」


「へぇ~、面白そうだな」


「でしょでしょ! 実はこのクラス展の発案者は私なんだぁ。それでねそれでね、今は私がクラスの文化祭リーダーとして色々準備を進めてるの。でね、温泉と言えば、旅館。旅館と言えば法被を着てるイメージってない? 実はクラスみんなでお揃いの法被を着ようって話になってて、私達は法被を作る係なんだけど……朔夜君には私達の係を手伝ってもらえないかな? こっち人手が少なくて」



どこか媚びるように、どこか嬉しそうに神崎君を誘う安藤さんの話を、私の前の席の――神崎君からは斜め前の席に座る井上君が突然に割って入った。



「よせよせ、男に裁縫させるなんてかわいそすぎんだろ。それより男手は力仕事に回してくれよ。なぁ神崎、俺達と一緒に買い出しに行こうぜ!」


「ちょっと! 買い出しならもう十分人手足りてるでしょ!」


「はぁ? 全然足りねぇっつの。俺らは発泡スチロールの箱を50箱近くも商店街からかき集めて来なきゃならないんだ。とてもじゃないけど一度で運べる量じゃないだろ。どんだけ俺らに商店街と学校を往復させる気だ」



気がつけば安藤さんと井上君は、神崎君を取り合って喧嘩を始めていた。


これのどこがはみ出し者だと言うのだろうか。
昼休みの神崎君との会話を思い出しながら、私は小さく溜め息を吐いた。


そんな私の溜息に、安藤さんと井上君の喧嘩の原因である神崎君は、二人の喧嘩などお構いなしに、楽しそうに声を掛けて来て――



「なぁなぁ、葵葉は何の係なんだ?」


「……え?」


「文化祭の準備。お前は何の係なんだよ。俺、お前と同じ係になるわ」


「………………え?」



神崎君の口から飛び出した出た、思いもよらない質問に、私の思考は一瞬にして停止する。


何と答えたら良いのか分からなくて。


だって私はまだ何の係にもついていなかったから。
放課後病院に行くことの多い私は、まだ一度も文化祭の準備に参加できてはいなかったから。



「だめだよ朔夜君。この子はいつも放課後忙しいから、私達の手伝いなんてしてる時間ないんだって」



言葉に詰まっていた私に代わって、安藤さんが答えてくれる。



「どうせ今日も、用事があるとか言って帰るつもりだったんでしょ。いいわよ、さっさと帰りなさいよ」



どこか突き放したような言葉と、安藤さんの冷たい視線が私に突き刺さった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】諦めた恋が追いかけてくる

キムラましゅろう
恋愛
初恋の人は幼馴染。 幼い頃から一番近くにいた彼に、いつの間にか恋をしていた。 差し入れをしては何度も想いを伝えるも、関係を崩したくないとフラレてばかり。 そしてある日、私はとうとう初恋を諦めた。 心機一転。新しい土地でお仕事を頑張っている私の前になぜか彼が現れ、そしてなぜかやたらと絡んでくる。 なぜ?どうして今さら、諦めた恋が追いかけてくるの? ヒロインアユリカと彼女のお店に訪れるお客の恋のお話です。 \_(・ω・`)ココ重要! 元サヤハピエン主義の作者が書くお話です。 ニューヒーロー?そんなものは登場しません。 くれぐれもご用心くださいませ。 いつも通りのご都合主義。 誤字脱字……(´>ω∂`)てへぺろ☆ゴメンヤン 小説家になろうさんにも時差投稿します。

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

幸せな政略結婚のススメ

ましろ
恋愛
「爵位と外見に群がってくる女になぞ興味は無い」 「え?だって初対面です。爵位と外見以外に貴方様を判断できるものなどございませんよ?」 家柄と顔が良過ぎて群がる女性に辟易していたユリシーズはとうとう父には勝てず、政略結婚させられることになった。 お相手は6歳年下のご令嬢。初対面でいっそのこと嫌われようと牽制したが? スペック高めの拗らせ男とマイペースな令嬢の政略結婚までの道程はいかに? ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ・11/21ヒーローのタグを変更しました。

あなたに愛や恋は求めません

灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。 婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。 このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。 婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。 貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。 R15は保険、タグは追加する可能性があります。 ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。 24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ
恋愛
私シェリーが婚約したのは16の頃。相手はまだ13歳のベンジャミン様。当時の彼は、声変わりすらしていない天使の様に美しく可愛らしい少年だった。 あれから2年。天使様は素敵な男性へと成長した。彼が18歳になり学園を卒業したら結婚する。 それまで、侯爵家で花嫁修業としてお父上であるカーティス様から仕事を学びながら、嫁ぐ日を指折り数えて待っていた── 設定はゆるゆるご都合主義です。

白猫は異世界に獣人転生して、番に愛される

メリー
恋愛
何か大きい物体に轢かれたと思った。 『わん、わん、』と言う大きい音にびっくりして道路に思わず飛び込んでしまって…。 それなのにここはどこ? それに、なんで私は人の手をしているの? ガサガサ 音が聞こえてその方向を見るととても綺麗な男の人が立っていた。 【ようやく見つけた。俺の番…】

処理中です...