願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

不思議な転校生

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「みんな、神崎と仲良くしてやれよ。よし、じゃあ~神崎の席だが……って、神崎?! お前、勝手に何処へ行くつもりだ?」


「何処って、ここですよね、俺の席って。教室で空いてるのってここしかないわけだし」


「いや、まぁ……そうなんだが……」



転校生と先生の会話を遠くに流し聞きながら、外の景色を眺めていた私。
すると突然に――



「ってわけで、宜しく!今日から隣の席になる神崎朔也だ」



頭上から降って来た声に振り返ると、先程まで先生と共に教壇に立っていたはずの転校生が、何故か私の目の前に立っていて、そして何故か私に向かって右手を差し出していた。



「…………え?」



どうして彼がここにいるの?
何故私に向かって手を出しているの?


先生と彼の話を全く聞いていなかった私は、状況が理解出来ず、呆気にとられながら周囲を見渡す。


するとクラス中の生徒達が、一番後ろの窓側に、一つだけはみ出すように存在する私の席へと視線を送っており、私と転校生の様子を伺っているのだ。


私と同じように戸惑っている視線もあれば、攻撃的な冷たい視線もあった。中には面白がっている視線もあって、どんな反応を返すのが正解なのか、彼等の視線だけでは判断のしようがなかった。


そして今一度転校生へと視線を戻すと、何が面白いのかニッコリと笑顔を浮かべながら、爽やかに握手を求めていて



「……」



結局、何の反応も返せないまま私が固まっていると、彼の方から強引に手を掴んできて、掴んだその手を縦に3回大きく振られた。


彼なりの挨拶のつもりだったのだろう。
でもその強要されただけの握手が、周囲を騒然とさせた。



「ちょっと、何あれ?! 何で白羽さんにだけ?」


「しかも挨拶されといて無視するとか、何なのあの子、ホント何様?! マジムカつく!!」



女子生徒達からは悲鳴にも似たざわめきが。
男子生徒達からは私達を囃し立てる声が沸き起こる。


周囲のざわめきの中、転校生だけは一人マイペースに、あっけらかんと先生に向かって言い放った。



「ってなわけで先生、俺の座席は今日からここにするんで、宜しくお願いします。さっそくここに机運んで良いっすか?」


「……あぁ、もう、お前の好きにしろ」



転校そうそう、悪目立ちする転校生の姿に、先生はどこかうんざりした様子でそう答えた。



「は~い。好きにしま~す」



先生から正式な許可を得た転校生は、上機嫌に返事をして廊下へと出て行く。


そして戻ってきた彼は、手に机と椅子を持って戻って来た。 


廊下からガラガラと雑音を響かせながら引きずり運んだその椅子と机を、窓際の後ろに一つだけはみ出す私の席の隣へと並べ置き、どかっと椅子に腰を下ろした。



「んじゃ改めて宜しくな、葵葉」



ニカッと白い歯を見せて、屈託のない笑顔をみせる転校生に私は何度目かの驚きを示す。



「……どうして私の名前を?」



今日初めて会ったばかりだと言うのに、私の名前を呼んだ彼に、私は挨拶の返事も忘れて疑問を投げた。


私の疑問に転校生は自身の胸をトントンと叩いて見せながら、「名札」とだけ短く答えた。


あぁ、なる程。
名札を見れば初対面の人でも名前は分かるか。


だとしても、初対面で名字ではなく下の名前、しかも呼び捨てでされるとは。違った意味で驚かずにはいられない。


彼のマイペースさと、馴れ馴れしさ、加えて周囲から向けられる視線に居心地の悪さを覚えた私は、早くも彼に対する苦手意識を抱かずにはいられなかった。


苦手な人とは関わりたくない。
私の中に働いた動物的本能が私の彼に対する態度を冷たくさせる。


先程の彼の挨拶に軽い会釈だけしてみせた後、私は再び窓の外へと視線を戻した。


彼に対する私の態度に愛想がないだの、態度が悪いだの、周囲で囁かれる冷ややかな声も無視して、私は窓の外に見える長閑な景色を、ホームルームの間中、ただぼ~っと眺め続けていた。

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