願いが叶うなら

汐野悠翔

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冬物語

季節外れの転校生

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「ほ~らお前達、HR始めるぞ~。席につけ~」


「「「は~い」」」



私が所属する1年2組の教室に、担任の影山先生が入って来た。


先生の掛け声を合図に、生徒達は自分達の席へと着席していく。


クラス全員の着席を見守った後、先生はいつもの通り朝の挨拶を語り始める。



「えぇ~諸君、もう11月も下旬に入って、今年も残り少なくなったわけだが、今日はこのクラスに新しい仲間が加わる事となった。珍しい時期の転校生ではあるが、皆仲良くするように」



けれどいつもと違うのは、先生の語った話の中にと言う聞き慣れない単語が混じっていたこと。


季節外れの転校生の訪れに、クラス中から驚きの声が湧き上がった。



「えぇ、転校生? 転校生ってウチのクラス転校生多くない? また白羽みたいな根暗で変な転校生だったら勘弁してよ先生」


「こら安藤、何て事言うんだお前は」


「せんせ~い、説教は良いから早く転校生紹介して下さいよ。ちなみに今回は、男? それとも女?」


「そうだそうだ、先生、早く~!!」


「あぁ~分かった分かった。分かったからお前等、一旦その興奮を抑えようか。駄々っ子みたいに机を叩くな。いちいち席を立つな。……たく。ほら転校生、もう入って来て良いぞ」



期待と不安で急き立てる生徒達の声に、先生は少し面倒臭そうに眉を歪めながら、廊下に向かって声を張り上げた。


影山先生の合図の後、暫くして教室の扉が開かれる。
皆の視線が好奇と興奮を含んで一斉に開かれた扉へと注がれた。


そんな痛い程の視線を浴びながら教室に現れたのは、独特な雰囲気を纏う男の子だった。



「「「っ?!」」」



彼の登場に、それまで騒がしかった教室内が、一瞬にして静まり返った。


どうやらみんな、転校生の容姿に呆気にとられているようだった。



「す、すげっ。……赤髪?」



一人の男子生徒が思わず零したであろう一言を合図に、皆口々に転校生に対する感想を語り始める。



「ね、ねぇ、ちょっと、格好良くない? 私、超タイプなんだけど!」


「端かに。ちょっとワイルド系で、格好良いかも!」


「なんだ男かよ。可愛い女子を期待してたのに。つか、あいつの格好ってありなの? 学生として許されるの?」


「赤髪に、今時流行らない裏地ド派でな短ランって。あいつ、ヤンキーか? どうみてもヤンキーだよな。あんな格好、うちみたいな田舎の学校じゃ浮きまくりだよな」


女子生徒からは、彼の整った容姿に対する好意的な感想が。
男子生徒からは、若干引き気味の、彼の派手な格好に対する感想が、クラス中に飛び交っていた。


私はと言えば、転校生に対して、特別何の感情も湧いてはこなくて、なかなか先に進まないホームルームに若干の退屈を覚え始めていた。



「こ~ら、静かに! 彼の服装と髪色については、もう指導済みだ。明日からは直して来いよ神崎」


「……うっす」


「よし。じゃあ自己紹介宜しく」


「うっす」



先生は転校生に目配せして一歩下がると、先生と入れ替わりで転校生が一歩前に出る。



「えぇ~、転校生の神崎朔夜かんざきさくやです。今日からこのクラスの一員となる事になりました。皆さんとは数ヶ月と言う短い付き合いにはなりますが、宜しくお願いします」



彼の見た目に反した真面目な挨拶。
クラス中からわっと拍手が湧き起こった。


転校生に向けられた賑やかな拍手に、ふと3ヶ月前の自分の姿が思い起こされた。


3ヶ月前、私もこの学校へ転校して来て、彼と同じように途中からこの1年2組の一員となった。


転校初日の自己紹介では今の彼と同様、温かな拍手で歓迎された。


けれど私の場合は、数日と経たないうちに歓迎は疎外へと変わって行った――


別にクラスの輪に溶け込めなかった事は、仕方のない事だと納得している。
だって私の場合は、生まれつき心臓が弱くて、普通の生徒と同じ学校生活を送る事が難しかったから。


体育の授業は見学しなければならなかったし、定期的に病院へ通わなければならないから学校も休みがちになってしまう。
どうしたって先生達から特別扱いを受けなければ、私は学校へ通う事すら難しいのだ。


何も知らないクラスメイトからしてみれば、一人だけ特別扱いを受ける私の存在が目障りに映るのは仕方のないこと。


だから私はいつも一人で、誰とも関わる事無く、波風たてるような事もせず、皆の怒りに触れないように、空気のように存在する。


それを陰で笑っているクラスの人達を恨んではいないし、責めるつもりもない。


――けれども、みんなから祝福を受けている新しい転校生の姿は、今の私には少し眩し映って、私は無意識に転校生から視線を逸らすと、見慣れた外の景色をぼんやり眺めた。

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