願いが叶うなら

汐野悠翔

文字の大きさ
上 下
81 / 175
秋物語

神耶の暴走②

しおりを挟む
「ちょっと待てよ。魂って……魂って何だよ!」


「貴方達の魂が今の生に幕を閉じて、新たに生まれ変わる来世で、再び巡り会い結ばれる未来が……」


「あんたさっき遠くない未来にって言ったよな。なのにどうして来世の話なんて」


「葵葉さんの体はもう限界が近い。葵葉さんとしての命は、きっとあと僅かしか残されていないでしょう。だから、葵葉さんの魂が再生の道を辿るのもきっとそう遠くない未来に……」



師匠が言わんとしている事を理解して、神耶は最後まで言葉を聞く事に我慢出来ず、思わず師匠の胸倉を掴みながら怒鳴った。



「あいつの命が残り僅かってなんだよ! 決めつけんなよ!」


「ですが神耶、貴方のおかげで確かに葵葉さんは一度死を免れました。でもあの子が心臓に爆弾を抱えていると言う事実は何も変わっていないんです。現状が変えられていないのに葵葉さんの未来が変わる事は難しい」


「未来は何も決まってない! あいつは今、白羽葵葉として一生懸命に生きてるじゃないか! 生きたいと強く望んでるじゃないか! どうして……その気持ちを無視してあいつの未来を決めつけるんだよ?どうして皆、あいつの未来を諦めてるんだよ?!」


病院での主治医と看護師の会話を思い出す。



――『先生! どうして葵葉ちゃんに学校へ行く許可なんてだしたんですか? 葵葉ちゃんに無理させたら、またいつ発作を起こして倒れるかもしれないのに!』


『仕方ないんだよ。それがご家族の望みなんだから。今まで入院ばかりで好きな事や、やりたい事を全て我慢して来たような子だから、残された時間、好きな事をして、少しでも笑っていて欲しいって』


『でもそれは、葵葉ちゃんの未来を諦めてるって事ですよね? せっかく葵葉ちゃん自身が未来に希望を持ち始めたのに……』――



思い出しながら悔しそうに歯を鳴らした。



「…………神耶……」


「師匠は何も分かってない。たとえ魂が何度生まれ変わったとしても、同じ人間は二度と生まれない。白羽葵葉としての生は一度しかないんだ。俺は今この時を生きてる葵葉が好きなんだよ。師匠がしようとしている事は俺が願っている事なんかじゃない! そんな未来、俺はいらない! そんな事には……絶対させない!!」


神耶は師匠をきつく睨みつけた。



「神耶………」


「俺が絶対、あいつの未来を守ってみせる!!」



そう決意を吐き捨てて、俺は師匠を突き飛ばすと背を向けて走り出した。



「神耶っ?!待ちなさい!神耶っ!!貴方、いったい何をするつもりですか? 戻ってきなさい! !戻って来なさい、神耶――」



背中から聞こえる師匠の必死な静止の声。
それを完全に無視して、神耶は走った。
ただ夢中で走った。




―ー『私ね絵を仕事に出来たらな~って思ってるんだ。ただ漠然と思ってるだけだから、まだ何になりたい!って言う明確なものではないんだけどね。
でも例えば………画家だったり、デザイナーだったり、イラストレーター、絵本作家。そう言う、絵に携わる仕事に就けたら…きっと楽しいだろうな~って夢見てるんだ。』ー―



走りながら、将来の夢を嬉しそうに語る葵葉の顔が思い出される。


(俺の願いは、この先ずっとずっと、葵葉にあんな嬉しそうな顔で笑っていて欲しい。ただそれだけなんだ。たとえその未来を、側で見守る事が叶わなくなったとしても、あいつが元気に、幸せそうに笑っていてくれてさえすればそれで良い。だから俺は!あいつの未来を全力で守ってみせる!!絶対に、絶対に――)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

婚約者に子どもが出来ました。その子は後継者にはなりません。

あお
恋愛
 エリーゼには婚約者がいた。幼いころに決められた婚約者だ。  エリーゼは侯爵家の一人娘で婿を取る必要があった。  相手は伯爵家の三男。  だがこの男、なぜか上から目線でエリーゼに絡んでくる。  エスコートをしてやった、プレゼントをおくってやった、と恩着せがましい。  どちらも婚約者なら当然の責務なのに。  そしてある日の夜会で、エリーゼは目撃した。  婚約者が不貞を働き、子どもまで作っていたことを。  こんな婚約者、こっちから捨ててやるわ! とエリーゼは怒るが、父は同意してくれなかった。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

【完結】転生した悪役令嬢の断罪

神宮寺 あおい
恋愛
公爵令嬢エレナ・ウェルズは思い出した。 前世で楽しんでいたゲームの中の悪役令嬢に転生していることを。 このままいけば断罪後に修道院行きか国外追放かはたまた死刑か。 なぜ、婚約者がいる身でありながら浮気をした皇太子はお咎めなしなのか。 なぜ、多くの貴族子弟に言い寄り人の婚約者を奪った男爵令嬢は無罪なのか。 冤罪で罪に問われるなんて納得いかない。 悪いことをした人がその報いを受けないなんて許さない。 ならば私が断罪して差し上げましょう。

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理
恋愛
 伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。 父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。  何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。  不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。  そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。  ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。 「あなたをずっと待っていました」 「……え?」 「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」  下僕。誰が、誰の。 「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」 「!?!?!?!?!?!?」  そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。  果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。

君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。 そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。 しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。 ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。 そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。 「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」 別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。 

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

シングルマザーになったら執着されています。

金柑乃実
恋愛
佐山咲良はアメリカで勉強する日本人。 同じ大学で学ぶ2歳上の先輩、神川拓海に出会い、恋に落ちる。 初めての大好きな人に、芽生えた大切な命。 幸せに浸る彼女の元に現れたのは、神川拓海の母親だった。 彼女の言葉により、咲良は大好きな人のもとを去ることを決意する。 新たに出会う人々と愛娘に支えられ、彼女は成長していく。 しかし彼は、諦めてはいなかった。

処理中です...