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秋物語
神耶の暴走
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八幡神社
葵葉が神耶の元から逃げ出した直ぐ後で――
「あいつ今……何をした?」
まだ微かに感触が残る唇を、神耶は自身の指でなぞる。
「今の行為はもしかして……人間が言う所のキス……と言うもの? でも、どうして葵葉が自分にキスなんて?」
神耶はぶつぶつ溢しながら、わけがわからないと頭をかきむしる。
キスと言えば、人間同士では互いの愛情を確かめ会う為の行為のはず。
それをどうして葵葉が神耶に?
「……か……や………神耶……神耶っ!」
「うわっ?!しっ……師匠?! なんだよ! 急に耳元で叫びやがって!」
「急にじゃないです。何度も呼びましたよ私は。それなのに貴方がずっとぼーっとして、一体どうしたんですか。それに葵葉さんはどうしたんです? さっきまでここにいたのに」
「葵葉っ?!」
葵葉の名前に神耶の肩がびくんと大きく跳びはねる。
「?? どうしたんです? 急に顔を赤くして。もしかして…貴方また風邪がブリ返したんですか?まったく、だから大人しく寝ていろと言ったのに」
「風邪……なのかな? 何か……さっきから俺の体が変なんだ」
「変? 変とはどう変なんです?」
「なんか……いつもより鼓動が早いんだ。それに何でか体中が熱いんだ。特に葵葉に触れられた所が……凄く凄く熱いんだ……」
「葵葉さんに触れられた所?」
「ああ……あいつ、なんでか俺にキスしてきたんだ。その後から……なんか俺の体が変なんだ」
「っ…………」
「何でだと思う、師匠?」
神耶が師匠に疑問を投げかけると、みるみるうちに師匠の顔が青ざめて行く。
「葵葉さんは……貴方に伝えたんですか?」
「伝える? 何を?」
「自分の気持ちを。貴方に好きだって」
「……え? 葵葉が……好き? 好きってもしかして……俺の事を?」
師匠のその言葉でやっと神耶は理解した。
あのキスの意味を――
「葵葉が………俺のことを好き?」
自分自身で呟いた言葉で今まで心のどこか奥深くにあった、もやもやとした感情がやっと一本の糸で繋がった、そんな気がした。
葵葉が自分にキスしたわけ。
自分の鼓動が早まったわけ。
ここ数日、葵葉が来ない日々を寂しいと感じたわけ。
夢を語る葵葉を見て何故か自分まで嬉しい気持ちになったわけ。
全ての理由がやっと、
「好きだったんだ、俺。葵葉の事が」
好きだったんだ。
そう素直な気持ちが神耶の口から漏れた。
「神耶」
名前を呼ばれて、声の主である人物に向け静かに視線を移す。
その人は、どこか困惑したような、切なそうな、そんな複雑な顔で神耶の事を見ていた。
「駄目ですよ。私達神は人間を平等に見守る義務があります。そんな私達が、一人の人間を好きになる事はその義務を放棄する事に等しい。義務を放棄すると言う事は貴方の神としての存在意義を問われる事態になります。それはつまり………」
そこまで言って、師匠は言葉を止めた。
それ以上言葉にする事を躊躇っているかのように。
だから代わりに神耶が口を開いた。
「分かってる。分かってるよ師匠。一人の人間を好きになる事は……俺達には許されない禁忌。その禁を犯した時には、最も重い処罰を受ける事になると言う事も。ちゃんと分かってるつもりだ」
「……なら良いんです。そこまで理解しているのならば。
今はまだ、そこで踏み止まっていてくれさえすれば……」
「でもっ……」
「っ………」
「頭では理解出来ても心では理解出来そうにないんだ。もし次葵葉の体に何かあったら、俺は何を犠牲にしてもあいつを守ろうとするかもしれない」
「駄目です!それだけは絶対に駄目です!今はまだ………もう少し……もう少しだけ待って下さい。そうすればきっと……貴方達の願いを叶えられる日が来ますから。遠くない未来にきっと……来ますから。だから今はまだ…………」
「俺達の……願い?」
「はい。葵葉さんと貴方が共にいる未来を」
「……葵葉との……未来………? そんな未来……俺にあるのか?神と人が結ばれる未来なんて……」
「確かに……神と人間では……叶わない未来かもしれません。でも神耶、貴方はもとは人間。貴方がまた人間に戻りさえすれば……」
「………」
「その為に私は今尽力を注いでいるのです。貴方が人間に戻りさえすればきっと葵葉さんと……。いえ。正確には葵葉さんの魂と結ばれる日が来ます。だから今は………」
師匠の言葉に神耶は一つ気になる言葉があった。
葵葉の魂と、とは一体?
葵葉が神耶の元から逃げ出した直ぐ後で――
「あいつ今……何をした?」
まだ微かに感触が残る唇を、神耶は自身の指でなぞる。
「今の行為はもしかして……人間が言う所のキス……と言うもの? でも、どうして葵葉が自分にキスなんて?」
神耶はぶつぶつ溢しながら、わけがわからないと頭をかきむしる。
キスと言えば、人間同士では互いの愛情を確かめ会う為の行為のはず。
それをどうして葵葉が神耶に?
「……か……や………神耶……神耶っ!」
「うわっ?!しっ……師匠?! なんだよ! 急に耳元で叫びやがって!」
「急にじゃないです。何度も呼びましたよ私は。それなのに貴方がずっとぼーっとして、一体どうしたんですか。それに葵葉さんはどうしたんです? さっきまでここにいたのに」
「葵葉っ?!」
葵葉の名前に神耶の肩がびくんと大きく跳びはねる。
「?? どうしたんです? 急に顔を赤くして。もしかして…貴方また風邪がブリ返したんですか?まったく、だから大人しく寝ていろと言ったのに」
「風邪……なのかな? 何か……さっきから俺の体が変なんだ」
「変? 変とはどう変なんです?」
「なんか……いつもより鼓動が早いんだ。それに何でか体中が熱いんだ。特に葵葉に触れられた所が……凄く凄く熱いんだ……」
「葵葉さんに触れられた所?」
「ああ……あいつ、なんでか俺にキスしてきたんだ。その後から……なんか俺の体が変なんだ」
「っ…………」
「何でだと思う、師匠?」
神耶が師匠に疑問を投げかけると、みるみるうちに師匠の顔が青ざめて行く。
「葵葉さんは……貴方に伝えたんですか?」
「伝える? 何を?」
「自分の気持ちを。貴方に好きだって」
「……え? 葵葉が……好き? 好きってもしかして……俺の事を?」
師匠のその言葉でやっと神耶は理解した。
あのキスの意味を――
「葵葉が………俺のことを好き?」
自分自身で呟いた言葉で今まで心のどこか奥深くにあった、もやもやとした感情がやっと一本の糸で繋がった、そんな気がした。
葵葉が自分にキスしたわけ。
自分の鼓動が早まったわけ。
ここ数日、葵葉が来ない日々を寂しいと感じたわけ。
夢を語る葵葉を見て何故か自分まで嬉しい気持ちになったわけ。
全ての理由がやっと、
「好きだったんだ、俺。葵葉の事が」
好きだったんだ。
そう素直な気持ちが神耶の口から漏れた。
「神耶」
名前を呼ばれて、声の主である人物に向け静かに視線を移す。
その人は、どこか困惑したような、切なそうな、そんな複雑な顔で神耶の事を見ていた。
「駄目ですよ。私達神は人間を平等に見守る義務があります。そんな私達が、一人の人間を好きになる事はその義務を放棄する事に等しい。義務を放棄すると言う事は貴方の神としての存在意義を問われる事態になります。それはつまり………」
そこまで言って、師匠は言葉を止めた。
それ以上言葉にする事を躊躇っているかのように。
だから代わりに神耶が口を開いた。
「分かってる。分かってるよ師匠。一人の人間を好きになる事は……俺達には許されない禁忌。その禁を犯した時には、最も重い処罰を受ける事になると言う事も。ちゃんと分かってるつもりだ」
「……なら良いんです。そこまで理解しているのならば。
今はまだ、そこで踏み止まっていてくれさえすれば……」
「でもっ……」
「っ………」
「頭では理解出来ても心では理解出来そうにないんだ。もし次葵葉の体に何かあったら、俺は何を犠牲にしてもあいつを守ろうとするかもしれない」
「駄目です!それだけは絶対に駄目です!今はまだ………もう少し……もう少しだけ待って下さい。そうすればきっと……貴方達の願いを叶えられる日が来ますから。遠くない未来にきっと……来ますから。だから今はまだ…………」
「俺達の……願い?」
「はい。葵葉さんと貴方が共にいる未来を」
「……葵葉との……未来………? そんな未来……俺にあるのか?神と人が結ばれる未来なんて……」
「確かに……神と人間では……叶わない未来かもしれません。でも神耶、貴方はもとは人間。貴方がまた人間に戻りさえすれば……」
「………」
「その為に私は今尽力を注いでいるのです。貴方が人間に戻りさえすればきっと葵葉さんと……。いえ。正確には葵葉さんの魂と結ばれる日が来ます。だから今は………」
師匠の言葉に神耶は一つ気になる言葉があった。
葵葉の魂と、とは一体?
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