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秋物語
聞かされた真実②
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「葵葉さんは覚えていますか。以前、神と人が互いに惹かれ合う事は、許されない禁忌だとお話したことを。でも実は、あの話の中で私は一つだけ嘘をつきました」
「嘘?」
「はい。人が神を好きになる事も、神が人を好きになることも、それ自体は別に、何も悪いことではないんですよ。好きと言う感情を、ただ心に想っているだけならば何も問題はない。けれど、人を好きになった事で生まれる望みが厄介なのです」
「…………望み?」
「はい。葵葉さんは、人を好きになった時、好きな人の為に何かしてあげたいと、そんな望みを持ったことはありませんか? 好きな人の為に何か力になりたい、役に立ちたいと思ったことはありませんか?」
「……あります」
「そうですよね。好きな人や大切に想う人ができた時、その人の力になりたいと望む事はとても自然なこと。けれども……私達神は本来、人を平等に愛さなければならない存在。そんな私達にとって、誰か一人だけに特別な感情を向ける事は、とても危険なことなのです。ついつい、特別に思う人間の願いばかりに耳を傾けてしまう。特別に思う人間ばかりを贔屓してしまう。贔屓したことで、他を犠牲にするような危険な願いの叶え方をする可能性もでてくる。その危険な可能性が、私達神にとっての許されざる禁忌」
「……」
「私はずっとそれを恐れていました。神耶は貴方の願いを優先するあまり、いつか無茶をするのではないかと。だから私は、あの子と葵葉さんを遠ざけようと二人を牽制した。けれども、牽制した結果私の意思とは反対に、二人の想いを逆に強めてしまう結果となった。そして私が更に余計な事をしてしまったばかりにあの子の感情を暴走させて……あの子に罪を犯させてしまった」
「…………」
「だからあの子が罰を受け、消滅の道を辿った事は、貴方のせいなんかでは決してありません。誰かに責があるのだとしたら、それはきっと私のせい。……でも今にしておもえば、これがあの子にとっての必然。運命だったのかもしれませんね」
「消滅してしまうことがですか?」
「はい……」
「……消滅した魂は、一体どうなってしまうんですか?」
「言葉の通りです。魂が消滅したら、その魂はもう二度と生を授かる事は叶わない。それどころか、あの子の魂が存在していた事実すらこの世から消えてなくなります」
「そんな……存在が消えることが神耶君にとっての運命だなんて……そんなの悲しすぎますよ。そんな運命、私は絶対認めない。認めたくない!」
私がそう叫んだ時、突然師匠さんは顔につけていた狐の面を外したかと思うと、驚いたように目を見開いて、私の姿を金色の綺麗な瞳に映した。
「……貴方は、神耶と同じ事を言うのですね」
そしてニッコリと苦しそうな、切なそうな笑顔を浮かべて、そう呟いた。
「……え?」
「神耶も、葵葉さんが生まれながらにして背負ったものは、抗えない運命だと私が認めるよう諭した時、運命だなんて簡単に決めつけるなと、強く主張していました」
「神耶君が?」
「はい。そしてこうも言っていました。努力次第で運命なんていくらでも変えられるのだと。そしてあの子は、誰よりも貴方の未来を望んでいました。貴方に生きて欲しいと強く強く望んでいた。だから何としてでも貴方の未来を守ろうとして……」
「待ってください。……それじゃあやっぱり、神耶君が暴走した理由は……私?私が生きたいと望んだから? だから私の身代わりになって、神耶君が消滅しなければならなくなっ……た……?」
そう悟った瞬間、私の瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。
「そんな……こんな事になるくらいなら、私は……生きる事なんて望まなければ良かった。未来に希望なんて抱かなければ良かった……。私のせいで神耶君が……私のせい。みんな……みんな私の……」
そして私は、ヒステリックに泣き叫んだ。
「嘘?」
「はい。人が神を好きになる事も、神が人を好きになることも、それ自体は別に、何も悪いことではないんですよ。好きと言う感情を、ただ心に想っているだけならば何も問題はない。けれど、人を好きになった事で生まれる望みが厄介なのです」
「…………望み?」
「はい。葵葉さんは、人を好きになった時、好きな人の為に何かしてあげたいと、そんな望みを持ったことはありませんか? 好きな人の為に何か力になりたい、役に立ちたいと思ったことはありませんか?」
「……あります」
「そうですよね。好きな人や大切に想う人ができた時、その人の力になりたいと望む事はとても自然なこと。けれども……私達神は本来、人を平等に愛さなければならない存在。そんな私達にとって、誰か一人だけに特別な感情を向ける事は、とても危険なことなのです。ついつい、特別に思う人間の願いばかりに耳を傾けてしまう。特別に思う人間ばかりを贔屓してしまう。贔屓したことで、他を犠牲にするような危険な願いの叶え方をする可能性もでてくる。その危険な可能性が、私達神にとっての許されざる禁忌」
「……」
「私はずっとそれを恐れていました。神耶は貴方の願いを優先するあまり、いつか無茶をするのではないかと。だから私は、あの子と葵葉さんを遠ざけようと二人を牽制した。けれども、牽制した結果私の意思とは反対に、二人の想いを逆に強めてしまう結果となった。そして私が更に余計な事をしてしまったばかりにあの子の感情を暴走させて……あの子に罪を犯させてしまった」
「…………」
「だからあの子が罰を受け、消滅の道を辿った事は、貴方のせいなんかでは決してありません。誰かに責があるのだとしたら、それはきっと私のせい。……でも今にしておもえば、これがあの子にとっての必然。運命だったのかもしれませんね」
「消滅してしまうことがですか?」
「はい……」
「……消滅した魂は、一体どうなってしまうんですか?」
「言葉の通りです。魂が消滅したら、その魂はもう二度と生を授かる事は叶わない。それどころか、あの子の魂が存在していた事実すらこの世から消えてなくなります」
「そんな……存在が消えることが神耶君にとっての運命だなんて……そんなの悲しすぎますよ。そんな運命、私は絶対認めない。認めたくない!」
私がそう叫んだ時、突然師匠さんは顔につけていた狐の面を外したかと思うと、驚いたように目を見開いて、私の姿を金色の綺麗な瞳に映した。
「……貴方は、神耶と同じ事を言うのですね」
そしてニッコリと苦しそうな、切なそうな笑顔を浮かべて、そう呟いた。
「……え?」
「神耶も、葵葉さんが生まれながらにして背負ったものは、抗えない運命だと私が認めるよう諭した時、運命だなんて簡単に決めつけるなと、強く主張していました」
「神耶君が?」
「はい。そしてこうも言っていました。努力次第で運命なんていくらでも変えられるのだと。そしてあの子は、誰よりも貴方の未来を望んでいました。貴方に生きて欲しいと強く強く望んでいた。だから何としてでも貴方の未来を守ろうとして……」
「待ってください。……それじゃあやっぱり、神耶君が暴走した理由は……私?私が生きたいと望んだから? だから私の身代わりになって、神耶君が消滅しなければならなくなっ……た……?」
そう悟った瞬間、私の瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。
「そんな……こんな事になるくらいなら、私は……生きる事なんて望まなければ良かった。未来に希望なんて抱かなければ良かった……。私のせいで神耶君が……私のせい。みんな……みんな私の……」
そして私は、ヒステリックに泣き叫んだ。
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