86 / 175
秋物語
姿をみせない理由
しおりを挟む
「どうして……? どうして姿を見せてくれないの? ねぇ、神耶君……どうしてなの?!」
少し葉の色を変え始めた桜の大木を見上げながら、私は焦りと絶望から湧き上がる苛立ちを、喚き散らした。
私の叫びは誰からの返事も得られないまま虚しく空へと消えて行く。
それでもどうにかして返事が欲しくて、やるせない気持ちを桜の木へと叩き付けながら私は叫び続けた。
「お願い神耶君、お願いだから神耶君の姿を私に見せて……もう一度神耶君に会わせて……。お願いだから私の前からいなくならないで。ずっと私の側にいてよ」
それ以上は、もう何も望まない。
私はただ、神耶君と一緒にいたいだけなの。
だからお願い………どうか私を嫌いにならないで……
お願い……
心からの必死のお願いにも、全く何の反応もない現状に、桜の幹を力一杯叩き付けていた拳は次第に勢いを失い、私は力なくその場にしゃがみ込んだ。
真っ赤に染まった手で、ボロボロと溢れ出してくる涙を何度も何度も拭いながら、気がつけば私は、嗚咽を零しながら情けなくその場に泣き崩れていた。
と、その時――
「………葵葉さん」
後ろから、聞き覚えのある優しい声で名前を呼ばれて、私は慌てて立ち上がり後ろを振り向いた。
そこに立っていたのは――
「…………師匠……さん? ……やっと……やっと見つけた……」
やっと現れたその人物の姿に、私の涙は悲しいものから嬉しいものへと変わって行く。
ゆっくりと、私の元へ歩みを進めてくるその人の顔は、何故か神耶君がよく身につけていた狐の面で隠されている。
「師匠……さん?」
いつものニコニコ笑顔が見えないせいか、師匠さんの様子がいつもとどこか違うように感じられて、師匠さんとの距離が縮まる度に、私の心は何故かザワザワとザワついた。
けれどその違和感は気のせいだったのか、師匠さんは私のすぐ前まで来ると私の頬にそっと手伸ばし、流れる涙を優しく拭ってくれた。
「……師匠さん……良かった……会えて……」
「……」
「もう二度と……会えないのかと思いました。私の前に、姿を見せてくれないのかと……」
「……そのつもりでした。貴方の前にはもう二度と、姿を見せまいと、そう思っていました」
「……え?」
師匠さんから返されてた言葉に私は固まる。
やっぱり、二人は意図的に私の前から姿を消していたと言う事を思い知らされて。
「……どうしてですか? どうして急にそんな……。私が神耶君にキスしてしまったから? 私の気持ちが神耶君に知られてしまったから? だから二人は私から距離を取るために、わざと姿を消していたんですか? 師匠さんから忠告されていたのに、私があんな事をしてしまったから? だから私は神耶君を困らせて……嫌われてしまったんですか?」
思いつく限りの理由を、矢継ぎ早に質問する。
最後の方は、涙で声がうわずって、自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。
「それは違います。神耶は貴方を嫌いになったから姿を見せないわけではありません。見せたくても、見せられないから……だから秋祭りの約束も果たすことができなかったんです」
「……え?」
「先程言った、貴方の前には姿を見せまいと思っていたと言うのは、私の話です。私はもう二度と、貴方の前には姿を現すまい、現す事は出来まいと、思っていたから……」
「……どうして……?」
俯きながら、苦しそうな声で申し訳なさそうに話す師匠さん。
師匠さんが一体何を言おうとしているのか。
全く分からなかった私の口から思わず溢れた疑問。
その疑問に、師匠さんは暫くの間黙り込んだ後、何かを決心したかのようにゆっくりと口を開き始めた。
「……それは、私が……貴方から神耶を奪ってしまったから。だから貴方に合わせる顔がないと……そう思っていたからです」
……
…………
………………え? 奪った ?
思いもよらなかった話に、私の頭の中は一瞬にして真っ白になった。
少し葉の色を変え始めた桜の大木を見上げながら、私は焦りと絶望から湧き上がる苛立ちを、喚き散らした。
私の叫びは誰からの返事も得られないまま虚しく空へと消えて行く。
それでもどうにかして返事が欲しくて、やるせない気持ちを桜の木へと叩き付けながら私は叫び続けた。
「お願い神耶君、お願いだから神耶君の姿を私に見せて……もう一度神耶君に会わせて……。お願いだから私の前からいなくならないで。ずっと私の側にいてよ」
それ以上は、もう何も望まない。
私はただ、神耶君と一緒にいたいだけなの。
だからお願い………どうか私を嫌いにならないで……
お願い……
心からの必死のお願いにも、全く何の反応もない現状に、桜の幹を力一杯叩き付けていた拳は次第に勢いを失い、私は力なくその場にしゃがみ込んだ。
真っ赤に染まった手で、ボロボロと溢れ出してくる涙を何度も何度も拭いながら、気がつけば私は、嗚咽を零しながら情けなくその場に泣き崩れていた。
と、その時――
「………葵葉さん」
後ろから、聞き覚えのある優しい声で名前を呼ばれて、私は慌てて立ち上がり後ろを振り向いた。
そこに立っていたのは――
「…………師匠……さん? ……やっと……やっと見つけた……」
やっと現れたその人物の姿に、私の涙は悲しいものから嬉しいものへと変わって行く。
ゆっくりと、私の元へ歩みを進めてくるその人の顔は、何故か神耶君がよく身につけていた狐の面で隠されている。
「師匠……さん?」
いつものニコニコ笑顔が見えないせいか、師匠さんの様子がいつもとどこか違うように感じられて、師匠さんとの距離が縮まる度に、私の心は何故かザワザワとザワついた。
けれどその違和感は気のせいだったのか、師匠さんは私のすぐ前まで来ると私の頬にそっと手伸ばし、流れる涙を優しく拭ってくれた。
「……師匠さん……良かった……会えて……」
「……」
「もう二度と……会えないのかと思いました。私の前に、姿を見せてくれないのかと……」
「……そのつもりでした。貴方の前にはもう二度と、姿を見せまいと、そう思っていました」
「……え?」
師匠さんから返されてた言葉に私は固まる。
やっぱり、二人は意図的に私の前から姿を消していたと言う事を思い知らされて。
「……どうしてですか? どうして急にそんな……。私が神耶君にキスしてしまったから? 私の気持ちが神耶君に知られてしまったから? だから二人は私から距離を取るために、わざと姿を消していたんですか? 師匠さんから忠告されていたのに、私があんな事をしてしまったから? だから私は神耶君を困らせて……嫌われてしまったんですか?」
思いつく限りの理由を、矢継ぎ早に質問する。
最後の方は、涙で声がうわずって、自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。
「それは違います。神耶は貴方を嫌いになったから姿を見せないわけではありません。見せたくても、見せられないから……だから秋祭りの約束も果たすことができなかったんです」
「……え?」
「先程言った、貴方の前には姿を見せまいと思っていたと言うのは、私の話です。私はもう二度と、貴方の前には姿を現すまい、現す事は出来まいと、思っていたから……」
「……どうして……?」
俯きながら、苦しそうな声で申し訳なさそうに話す師匠さん。
師匠さんが一体何を言おうとしているのか。
全く分からなかった私の口から思わず溢れた疑問。
その疑問に、師匠さんは暫くの間黙り込んだ後、何かを決心したかのようにゆっくりと口を開き始めた。
「……それは、私が……貴方から神耶を奪ってしまったから。だから貴方に合わせる顔がないと……そう思っていたからです」
……
…………
………………え? 奪った ?
思いもよらなかった話に、私の頭の中は一瞬にして真っ白になった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
王室の醜聞に巻き込まれるのはごめんです。浮気者の殿下とはお別れします。
あお
恋愛
8歳の時、第二王子の婚約者に選ばれたアリーナだが、15歳になって王立学園に入学するまで第二王子に会うことがなかった。
会えなくても交流をしたいと思って出した手紙の返事は従者の代筆。内容も本人が書いたとは思えない。
それでも王立学園に入学したら第二王子との仲を深めようとしていた矢先。
第二王子の浮気が発覚した。
この国の王室は女癖の悪さには定評がある。
学生時代に婚約破棄され貴族令嬢としての人生が終わった女性も数知れず。
蒼白になったアリーナは、父に相談して婚約を白紙に戻してもらった。
しかし騒ぎは第二王子の浮気にとどまらない。
友人のミルシテイン子爵令嬢の婚約者も第二王子の浮気相手に誘惑されたと聞いて、友人5人と魔導士のクライスを巻き込んで、子爵令嬢の婚約者を助け出す。
全14話。
番外編2話。第二王子ルーカスのざまぁ?とヤンデレ化。
タイトル変更しました。
前タイトルは「会ってすぐに殿下が浮気なんて?! 王室の醜聞に巻き込まれると公爵令嬢としての人生が終わる。婚約破棄? 解消? ともかく縁を切らなくちゃ!」。
王子と公爵令嬢の駆け落ち
七辻ゆゆ
恋愛
「ツァンテリ、君とは結婚できない。婚約は破棄せざるをえないだろうな」
ツァンテリは唇を噛んだ。この日が来るだろうことは、彼女にもわかっていた。
「殿下のお話の通りだわ! ツァンテリ様って優秀でいらっしゃるけど、王妃って器じゃないもの」
新しく王子の婚約者に選ばれたのはサティ男爵令嬢。ツァンテリにも新しい婚約者ができた。
王家派と公爵派は、もう決して交わらない。二人の元婚約者はどこへ行くのか。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
あなたに愛や恋は求めません
灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。
婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。
このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。
婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。
貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。
R15は保険、タグは追加する可能性があります。
ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。
24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。
私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました
あーもんど
恋愛
ずっと腹違いの妹の方を優遇されて、生きてきた公爵令嬢セシリア。
正直不満はあるものの、もうすぐ結婚して家を出るということもあり、耐えていた。
でも、ある日……
「お前の人生を妹に譲ってくれないか?」
と、両親に言われて?
当然セシリアは反発するが、無理やり体を押さえつけられ────妹と中身を入れ替えられてしまった!
この仕打ちには、さすがのセシリアも激怒!
でも、自分の話を信じてくれる者は居らず……何も出来ない。
そして、とうとう……自分に成り代わった妹が結婚準備のため、婚約者の家へ行ってしまった。
────嗚呼、もう終わりだ……。
セシリアは全てに絶望し、希望を失うものの……数日後、婚約者のヴィンセントがこっそり屋敷を訪ねてきて?
「あぁ、やっぱり────君がセシリアなんだね。会いたかったよ」
一瞬で正体を見抜いたヴィンセントに、セシリアは動揺。
でも、凄く嬉しかった。
その後、セシリアは全ての事情を説明し、状況打破の協力を要請。
もちろん、ヴィンセントは快諾。
「僕の全ては君のためにあるんだから、遠慮せず使ってよ」
セシリアのことを誰よりも愛しているヴィンセントは、彼女のため舞台を整える。
────セシリアをこんな目に遭わせた者達は地獄へ落とす、と胸に決めて。
これは姉妹の入れ替わりから始まる、報復と破滅の物語。
■小説家になろう様にて、先行公開中■
■2024/01/30 タイトル変更しました■
→旧タイトル:偽物に騙されないでください。本物は私です
【完結】諦めた恋が追いかけてくる
キムラましゅろう
恋愛
初恋の人は幼馴染。
幼い頃から一番近くにいた彼に、いつの間にか恋をしていた。
差し入れをしては何度も想いを伝えるも、関係を崩したくないとフラレてばかり。
そしてある日、私はとうとう初恋を諦めた。
心機一転。新しい土地でお仕事を頑張っている私の前になぜか彼が現れ、そしてなぜかやたらと絡んでくる。
なぜ?どうして今さら、諦めた恋が追いかけてくるの?
ヒロインアユリカと彼女のお店に訪れるお客の恋のお話です。
\_(・ω・`)ココ重要!
元サヤハピエン主義の作者が書くお話です。
ニューヒーロー?そんなものは登場しません。
くれぐれもご用心くださいませ。
いつも通りのご都合主義。
誤字脱字……(´>ω∂`)てへぺろ☆ゴメンヤン
小説家になろうさんにも時差投稿します。
幸せな政略結婚のススメ
ましろ
恋愛
「爵位と外見に群がってくる女になぞ興味は無い」
「え?だって初対面です。爵位と外見以外に貴方様を判断できるものなどございませんよ?」
家柄と顔が良過ぎて群がる女性に辟易していたユリシーズはとうとう父には勝てず、政略結婚させられることになった。
お相手は6歳年下のご令嬢。初対面でいっそのこと嫌われようと牽制したが?
スペック高めの拗らせ男とマイペースな令嬢の政略結婚までの道程はいかに?
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
・11/21ヒーローのタグを変更しました。
転生幼女の愛され公爵令嬢
meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に
前世を思い出したらしい…。
愛されチートと加護、神獣
逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に…
(*ノω・*)テヘ
なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです!
幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです…
一応R15指定にしました(;・∀・)
注意: これは作者の妄想により書かれた
すべてフィクションのお話です!
物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m
また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m
エール&いいね♡ありがとうございます!!
とても嬉しく励みになります!!
投票ありがとうございました!!(*^^*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる