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秋物語
譲れない想い
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その後私は、またしばらくの入院生活を送る事となってしまった。
加えて絶対安静と外出禁止を言い渡され、ベッドの上で過ごすだけの退屈な日々が続いた。
退屈な時間が続けば続く程に、私の頭は神耶君の事でいっぱいになって行く。
考えれば考える程に不安な気持ちばかりがどんどんと膨らんで行く。
そうして、心が押つぶされてしまいそうな程、大きく大きく膨らんでしまった不安に耐えきれなくなった私は、ついにある決意をする。
退屈なこの場所を抜け出す決意を――
ある日の早朝、まだ皆が寝静まる中、静かな病院を一人抜け出す。
勿論目指す先は八幡神社が建つあの小高い山。
僅かなお金をに握りしめながら、病院前のバス停から始発のバスへと飛び乗った。
今日こそは、絶対に神耶君を見つけ出すのだと意気込んで。
そして、本人の口から直接理由を聞くのだ。
あの日約束を違えたその理由を。
でなければ、いつまで経っても何も分からない。
何も分からないまま、神耶君とお別れするなんて、そんなの絶対に嫌だから。
私は諦めたくないのだ。
せっかく出会えた友達を――
初めて人を好きになったこの気持ちを――
絶対に、諦めたくない!
◆◆◆
家から一番近いバス亭でバスを降りた私は、一目散に八幡神社を目指して、緩やかな坂道を駆け上がって行く。
心の中で、何度も何度も神耶君の名前を呼びながら。
『神耶君お願い、私の声が聞こえてるなら、また私に姿を見せて……お願い神耶君……お願い――』
病院を抜け出した頃にはまだほの暗かった空も、私が八幡神社に辿り着く頃にはすっかり太陽が空に顔を出し、明るく照らしてくれていた。
お祭りの時とは違い、太陽が光輝く世界は明るい。
その明るさと暖かさが、私を勇気付けてくれた。
それからもう一つ、お祭りの時とは違って、今境内に人の姿はない。
誰もいないからこそ、周りを気にすることなく今度は堂々と社内を探すことができる。
神耶君を探し出せなかったあの日との、様々な条件の違いをプラスに受け止め、私は再び神耶君を捜し始める事に。
「神耶君どこ? どこににいるの?」
勢いよく社の戸を開け放ち、あの日探せなかった社の中を。
以前神耶君と隠れんぼをして、神耶君が隠れていた社の縁の下を。
神耶君が風邪をひいて、師匠さんと二人水をくみにいった神社裏にある小川にも。
その小川の更に上流、神耶君が私の為にと魚を捕ってくれた思い出の場所にも。
そして、神耶君がこの山一番のお気に入りだと言っていた桜の大木がある山頂にも。
私が思い付く限りの、神耶君との思い出が詰まったあらゆる場所を、私は一人探し歩いた。
けれど、それらどの場所にも神耶君の姿は見つけられない。
神耶君が私の前に姿を現れしてくれる事は、やはり無かった。
加えて絶対安静と外出禁止を言い渡され、ベッドの上で過ごすだけの退屈な日々が続いた。
退屈な時間が続けば続く程に、私の頭は神耶君の事でいっぱいになって行く。
考えれば考える程に不安な気持ちばかりがどんどんと膨らんで行く。
そうして、心が押つぶされてしまいそうな程、大きく大きく膨らんでしまった不安に耐えきれなくなった私は、ついにある決意をする。
退屈なこの場所を抜け出す決意を――
ある日の早朝、まだ皆が寝静まる中、静かな病院を一人抜け出す。
勿論目指す先は八幡神社が建つあの小高い山。
僅かなお金をに握りしめながら、病院前のバス停から始発のバスへと飛び乗った。
今日こそは、絶対に神耶君を見つけ出すのだと意気込んで。
そして、本人の口から直接理由を聞くのだ。
あの日約束を違えたその理由を。
でなければ、いつまで経っても何も分からない。
何も分からないまま、神耶君とお別れするなんて、そんなの絶対に嫌だから。
私は諦めたくないのだ。
せっかく出会えた友達を――
初めて人を好きになったこの気持ちを――
絶対に、諦めたくない!
◆◆◆
家から一番近いバス亭でバスを降りた私は、一目散に八幡神社を目指して、緩やかな坂道を駆け上がって行く。
心の中で、何度も何度も神耶君の名前を呼びながら。
『神耶君お願い、私の声が聞こえてるなら、また私に姿を見せて……お願い神耶君……お願い――』
病院を抜け出した頃にはまだほの暗かった空も、私が八幡神社に辿り着く頃にはすっかり太陽が空に顔を出し、明るく照らしてくれていた。
お祭りの時とは違い、太陽が光輝く世界は明るい。
その明るさと暖かさが、私を勇気付けてくれた。
それからもう一つ、お祭りの時とは違って、今境内に人の姿はない。
誰もいないからこそ、周りを気にすることなく今度は堂々と社内を探すことができる。
神耶君を探し出せなかったあの日との、様々な条件の違いをプラスに受け止め、私は再び神耶君を捜し始める事に。
「神耶君どこ? どこににいるの?」
勢いよく社の戸を開け放ち、あの日探せなかった社の中を。
以前神耶君と隠れんぼをして、神耶君が隠れていた社の縁の下を。
神耶君が風邪をひいて、師匠さんと二人水をくみにいった神社裏にある小川にも。
その小川の更に上流、神耶君が私の為にと魚を捕ってくれた思い出の場所にも。
そして、神耶君がこの山一番のお気に入りだと言っていた桜の大木がある山頂にも。
私が思い付く限りの、神耶君との思い出が詰まったあらゆる場所を、私は一人探し歩いた。
けれど、それらどの場所にも神耶君の姿は見つけられない。
神耶君が私の前に姿を現れしてくれる事は、やはり無かった。
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