願いが叶うなら

汐野悠翔

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秋物語

秋祭りの約束②

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「……あれ、もう着いちゃった?」



いつもなら、長く感じていた道のりも、考え事をしながら歩いた今日は酷く短いものに感じられる。


結局、散々に悩み考え抜いた結果、何の結論も出せないまま私は神社へと到着してしまった。



「仕方ない……こうなったらもう、なるようになれ! 当たって砕けろだよ!」



半ば開き直りにも近い気持ちで、パンパンと自分の頬を2回強く叩き、気合いを入れた私。
その後2度3度と深呼吸した後、いつものように大きな声で、社の前から神耶君を呼んだ。



「神耶君久しぶり。元気にしてた? 一週間近くも来られなくてごめんね。来られない間にあっと言う間に時間が経って約束のお祭りの日になっちゃったね。神耶君は約束覚えてくれてるかな? 一緒に出店見て回ろ~」


精一杯の強がりで、平静さを装い神耶君を呼ぶ私。
けれど私の勇気も空しく、社からの返事はない。
聞こえて来たのは――



「パパ~、あのお姉ちゃん、一人で大きな声出して、何やってるのかな?」


「こら! 人を指さして笑うんじゃない。あのお姉ちゃんが可愛そうだろう。こういうのは見ないふりをしてあげるのが一番の親切なんだぞ」



私のことを話しているのだろう親子の会話。
いつもなら人の姿などほとんどない神社だけれど、流石に祭りの今日は人で賑わっている。


社の前、一人大声をあげる私の姿は、祭客には変に映って見えるのだろう。


親子に限らず背中からはヒソヒソと囁き笑い合う声が、いくつもいくつも私の耳に聞こえて来た。


いつもなら、返事がなければそのまま社へと上がり込み、神耶君の様子を確認するところだけれど、背中から聞こえてくる人々のささやき声に、私は社への階段を登ろうと上げかけた足をピタリと止めた。


流石に人が大勢いる前でそれをやっては、非常識だと大騒ぎになってしまうだろう。


そう思った私はそそくさと社の裏に回って、北側の高窓から中の様子を見ることにした。


社の裏手に回ると、一気に人気がなくなる。
祭りの賑やかさも遠く感じられて、そこだけ別世界が広がっているようだった。


少し不気味に感じるその場所から、私は社殿の高欄をよじ登り、縁側へと上がる。



「……神耶君……いる?」



小さな声で問いかけながら、自分の目線より少し高い位置にある格子窓から、背伸びをして恐る恐る中を覗き込む。


限られた視界の中、私は薄暗い社殿の中をじっと目を凝らし見た。
けれども、そこに神耶君の姿は確認できなかった。



「あれ……いない……のかな。良かった~」



神耶君の不在を、残念に思いながらもどこかホッとした私は思わず本音を零す。



「って……何が良かったなの。逃げずに神耶君と向き合わなきゃ。このまま逃げちゃ絶対ダメだよ!」


そう自信に言い聞かせ、気合いを入れ直すべく私は再びパンパンと手のひらで両頬を叩く。


――と、顔を持ち上げ真っ直ぐ前を見据えた。



「よし行こう、神耶君を探しに。行こう」


そして私は足早に、日が傾き薄暗くなった夜の森へと向かった。

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