願いが叶うなら

汐野悠翔

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秋物語

会えない時間

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週明け 月曜日——


クラスメイトとあんな事があってから、始めての登校。
私はドキドキしながら家を出た。


今日は隣に神耶君はいてくれない。
ううん、自分からそれを望んだ。
一人で頑張るって決めたから。


教室の前に来ると、いつもと変わらないクラスメイト達の賑やかな談笑が扉越しに聞こえて来た。


この和気あいあいと楽しげな空間に、私も仲間に入りたい。そんな希望を胸に抱きつつも、私の足はあの日のクラスメイトと喧嘩をした末、階段を踏み外した日の記憶が蘇って、竦んでしまう。



「…………」



一人で頑張るって、決意したばかりだと言うのに、ついつい弱気になってしまう自分の弱い心を奮い立たせようと、私はパチパチと両頬を叩いて気合いを入れた。



「よしっ!」



覚悟を決めて教室のドアを開く。



「おはようございます!」



ガラガラと、私が教室のドアを開けた瞬間、賑やかだったはずのクラスの会話がまるで時が止まったかのように止んだ。


クラス中の視線が一斉に私に集まる。
ピリッとしたどこか冷たい空気が、私に息をする事も忘れさせた。


けれど、緊張に震える私を他所に、教室に流れる時は、何事もなかったかのように再び動き始める。
私への興味をあっさりと手放したクラスメイト達は、再び友達同士の会話を楽しんでいた。


もう誰一人、私を見る人はいない。
挨拶の言葉を返す人すら。


それが良かったのか悪かったのか、私は一人寂しくとぼとぼと窓際の一番後ろにある自分の席へと腰を下した。


神耶君がいなくても、なんとか無事一人で登校できた事にほっと一息つきながら、これといって何もすることなく手持無沙汰となった時間の中、私は窓から見える八幡神社のあるあの小高い山を、一人ぼんやり眺め過ごした。


(神耶君。私、一人でも頑張ってるよ)


心の中で、そう小さく呟きながら――



緊張して登校したはずだったその日は、結局は何事もなく、無事に一日が終わった。
本当に、何事もなかったかのように。


あんな事があって休んでいた私に、いつも通り声をかけてくるクラスメイトは誰もいなかった。


昼休みも、いつものように屋上で一人お弁当を食べて、私は空気のようにただ教室に存在しているだけ。そういつも通りに。


ただ一つ違った事は、久しぶりの登校に私一人だけが緊張しっぱなしで、いつも以上に疲れたと言う事。


家に帰りつくなり疲れ果てた私は、いつの間にか居間で眠ってしまっていた。
おかげでその日は神耶君に会いに行く事はできなかった。



  ◆◆◆



次の日もまたその次の日も、私はただ静かに教室でただ空気のように存在して一日を終える。


一日中、誰とも口を利かない日が続くと、無性に人と話したくなる。


今日こそは、神耶君に会いに行きたいな。
そう思っていたのだけれど、この日は受診の日。
受診には、放課後まるまる時間を取られてしまうから、また神耶君に会う事は叶わなかった。


その次の日は、週に一度の部活動の日。
うちの学校の文化部は、普段活動したい者だけが自由に活動する事になっていたのだけれど、週に一度だけ必ず部活へ参加しなければならない曜日が存在していた。
それが水曜日の今日。


部活によって帰りが遅くなってしまったから、この日も神耶君に会う事は叶わなかった。



その次の日の木曜日こそは、八幡神社に行こうと思っていたのだけれども、先に帰って来ていたお兄ちゃんに阻まれ、外出する事が叶わなかった。


その次の日の金曜日は、週に2回目の診察の日。
そのまた次の日の土曜日は、お兄ちゃんの監視に阻まれ家に缶詰め状態。


次に私が社へ行く事が叶ったのは日曜日だった。
前日厳しかったお兄ちゃんの監視の目を掻い潜り、朝早くからこっそりと家を抜け出し、私は久しぶりに神耶君へ会いに行く。



「か~ぐや君! あっそび~ましょ~っ!」

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