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秋物語
神耶の過去
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「さぁ? それは私には分かりません。もし気になるようでしたら、直接本人に聞いてみて下さい。丁度、起きたみたいですしね」
「え?」
師匠さんはそう言って、視線を寝ていた神耶君へと向ける。つられて私も神耶君を見た。
「……ん……葵葉? 来てたのか」
先程まで仰向けに寝ていた神耶君は、怠そうに体を起こしながら、寝ぼけ眼で私達を見ていた。
「? 二人して俺の事見て、何話してたんだ?」
「いえいえ。大した話しではありません。ちょっとした昔話です」
「昔話?」
呟いた単語の語尾を上げながらも、さほど興味もなさげに大きなあくびをする神耶君。
そんな彼をニコニコ笑顔で見守りながら、師匠さんは穏やかな口調で思いがけない事を口にした。
「さてと。では、私はちょっと出掛け来ますね。と言っても、暫くは戻りませんので」
「やっと帰るのか。暫くどころかそのまま戻って来なくて良いぞ。とっとと自分の社に戻って、真面目に仕事をしてくれ」
「神耶っ!」
「な、何だよ……」
穏やかな笑顔から一転、突然真面目な顔、大きな声で名前を呼ばれたものだから、神耶君はビクンと大きく肩を跳ね上げさせた。
「私がいないからと言って、前みたいなぐうたらな生活を送るような事がないように。ちゃんと仕事して、社の掃除も怠らないように。身の回りの事もこれからは自分でするんですよ。私が戻って来た時に、もし社が悲惨な事なっていたら……」
「わ~ってるって! あんたは俺の母ちゃんかっ!!良いからさっさと行けよな」
「ふう~。本当に分かってるんですかね、この子は。葵葉さん、神耶の事宜しくお願いしますね」
二人で続けられる会話の中、突然こちらに話を振られて、今度は私の肩がビクンと跳ね上がった。
「あ、は、はい」
「それから、くれぐれも私との約束を忘れる事のないように、お願いしますね。葵葉さんの事、私は信じていますからね」
約束という師匠の言葉に、一昨日言われた言葉を改めて思い出す。
――『一つだけ約束して下さい。その気持ちはどうか貴方の胸の中だけに留めておくと。神耶には決して気付かれないように。お願いします』
「はい。分かってます」
私は、少し伏し目がちに返事をした。
「? 何だ、約束って?」
私と師匠さんの約束なんて知りもしない神耶君は不思議そうな顔で尋ねてくる。
けれど、師匠さんはニッコリと微笑み、スマートに受け流して言った。
「いえ、何でもありませんよ。では、行ってきますね」
だから神耶君も、別段気にした様子もなく、いつものように悪態づきながら師匠さんを見送っていた。
「はいはい、いってらっしゃい。あんたホントもうここに戻って来なくて良いから、自分の社でそのまま真面目に仕事しろよ~」
「さ~てと、うるさい人もいなくなったし、俺はもう一眠りしようかな」
師匠さんを見送った後、せっかく起きたと思ったのに、神耶君はまたも寝る体制に入る。
そんな神耶君を制して、私は先ほどの師匠さんとの会話の中生まれた、ある疑問を彼に投げかけた。
「ねぇ、神耶君」
「んあ?」
「どうして神耶君は、神様になりたいと思ったの?」
「……」
「え?」
師匠さんはそう言って、視線を寝ていた神耶君へと向ける。つられて私も神耶君を見た。
「……ん……葵葉? 来てたのか」
先程まで仰向けに寝ていた神耶君は、怠そうに体を起こしながら、寝ぼけ眼で私達を見ていた。
「? 二人して俺の事見て、何話してたんだ?」
「いえいえ。大した話しではありません。ちょっとした昔話です」
「昔話?」
呟いた単語の語尾を上げながらも、さほど興味もなさげに大きなあくびをする神耶君。
そんな彼をニコニコ笑顔で見守りながら、師匠さんは穏やかな口調で思いがけない事を口にした。
「さてと。では、私はちょっと出掛け来ますね。と言っても、暫くは戻りませんので」
「やっと帰るのか。暫くどころかそのまま戻って来なくて良いぞ。とっとと自分の社に戻って、真面目に仕事をしてくれ」
「神耶っ!」
「な、何だよ……」
穏やかな笑顔から一転、突然真面目な顔、大きな声で名前を呼ばれたものだから、神耶君はビクンと大きく肩を跳ね上げさせた。
「私がいないからと言って、前みたいなぐうたらな生活を送るような事がないように。ちゃんと仕事して、社の掃除も怠らないように。身の回りの事もこれからは自分でするんですよ。私が戻って来た時に、もし社が悲惨な事なっていたら……」
「わ~ってるって! あんたは俺の母ちゃんかっ!!良いからさっさと行けよな」
「ふう~。本当に分かってるんですかね、この子は。葵葉さん、神耶の事宜しくお願いしますね」
二人で続けられる会話の中、突然こちらに話を振られて、今度は私の肩がビクンと跳ね上がった。
「あ、は、はい」
「それから、くれぐれも私との約束を忘れる事のないように、お願いしますね。葵葉さんの事、私は信じていますからね」
約束という師匠の言葉に、一昨日言われた言葉を改めて思い出す。
――『一つだけ約束して下さい。その気持ちはどうか貴方の胸の中だけに留めておくと。神耶には決して気付かれないように。お願いします』
「はい。分かってます」
私は、少し伏し目がちに返事をした。
「? 何だ、約束って?」
私と師匠さんの約束なんて知りもしない神耶君は不思議そうな顔で尋ねてくる。
けれど、師匠さんはニッコリと微笑み、スマートに受け流して言った。
「いえ、何でもありませんよ。では、行ってきますね」
だから神耶君も、別段気にした様子もなく、いつものように悪態づきながら師匠さんを見送っていた。
「はいはい、いってらっしゃい。あんたホントもうここに戻って来なくて良いから、自分の社でそのまま真面目に仕事しろよ~」
「さ~てと、うるさい人もいなくなったし、俺はもう一眠りしようかな」
師匠さんを見送った後、せっかく起きたと思ったのに、神耶君はまたも寝る体制に入る。
そんな神耶君を制して、私は先ほどの師匠さんとの会話の中生まれた、ある疑問を彼に投げかけた。
「ねぇ、神耶君」
「んあ?」
「どうして神耶君は、神様になりたいと思ったの?」
「……」
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