願いが叶うなら

汐野悠翔

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秋物語

意外な才能

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「おや葵葉さん。いらっしゃっていたのですね。どうしたんですか? そんなお化けでも見たようなた顔をして」



そんな私に、急に背中から声がかった。
その声にはっと我に返る。


「っ!師匠さん!? あの、えっと……この絵って……誰が?」


「そう言えば、昨日神耶がコソコソと何やら描いていましたね」


「もしかしてこれ、神耶君が?」



まさか。
師匠さんの言葉が、まるで信じられなくて、私は再びその絵に視線を下す。


本当にこの絵を神耶君が?


神耶君が描いたと言う絵を、改めてじっくりと見つめながら、私の心には嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ち、相反する2つの感情がせめぎあっていた。


だって、そこに描かれていたのは、私だったから。



「どうしたんですか葵葉さん? なんだか顔が緩んでますよ?」



余程酷い顔をしていたのか、師匠さん不思議そうな顔で私の隣にくると、ヒョッコリ私の手にあるスケッチブックを覗き込んで言った。



「すみません。だらしない顔ですみません。でも、ニヤニヤが止らなくて。神耶君には私が、こんなふうに見えてるんですね。凄く……凄く楽しそうに笑ってる」


「本当だ。とても良い顔で笑っていますね。昨日、何か一生懸命描いてると思ったら、それを描いていたんですね、神耶は。葵葉さん、気に入りました?」


「はい、 凄く!! まさか、こんなに綺麗に描いて貰えるなんて。それにしても上手い。私が描いたものと比べると……レベルが違い過ぎる。神耶君が絵を描く事にもびっくりしましたけど、こんなに上手なんて、意外過ぎて本当にびっくりしました。こんなに上手いなら、色々教えて貰えば良かったな~」


「意外? そうですか? こう見えて神耶は昔、人間だった頃はよく絵を描いてたんですよ」


「へ~そうなんですか。人間だった時に」



――って……あれ?
あまりにも自然な会話に、思わず聞き流してしまいそうになったのだけれど、改めて自分で声に出して言った事で、やっと師匠さんの言葉の中に含まれていた違和感に気付いた。


「えぇ?!神耶君が“人間だった頃”って……え ?えぇ?? それって、どう言う事ですか?」


「あれ? 言ってませんでしたっけ。神耶も昔は、人間だったんですよ」


「神耶君が人間 って、だからそれって、どう言う意味なんですか??!」


「どう言う意味と言われましても、言葉通りの意味ですよ。もともと神耶は、人間の子供だったんです」


「……神耶君が……人間? だったら、どうして神耶君は今、神様なんですか?」


「それは、神耶の肉体が亡んだ時に、神耶自身が神になる事を望んだからですよ」


「???」



師匠さんの言っている事に私の頭にはたくさんの?マークを浮かべていた。


そんな私に、師匠さんは優しい笑顔を浮かべながらこんな話を聞かせてくれた。
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